第13話 特訓開始

学園長に直訴しに行った結果、俺の母さんと妹の事故に裏が有る可能性を示唆され、その真実を追い求めるための第一歩として学内トーナメント戦に出場する事になった。

学内戦は3週間後に始まる。しかし、その3週間で修得しなければならない技がある......と言う事で


「お前も選手なのに悪いな、幻坂ほろさか

「まあこの馬鹿を倒す時に力を借りちゃったしね。これで貸し借り無しって事で」

「酷いっすよ姉貴~!」

「じゃあ早速始めましょうか、【身体強化フォース】修得特訓」

「無視ッスか!?」


......そう、幻坂を呼び出したのは他でもない、【身体強化】の特訓に付き合ってもらうためだ。

モールの一件で【身体強化】の重要性は重々承知した。これが無いと攻撃どころか回避、防御すら危うい。単純に命を守る為の技でもある。

第一幻坂同様に俺の【異能ギフト】も直接攻撃を加えられるタイプのものじゃない。打撃を加えなければならない都合上、【身体強化】の修得は必須事項なのだ。


「まず【身体強化】は、普段は異能を使う為に使用する精神力マインドを自己の強化と言う意思力で変質させて身体能力を上げる......ってのは知ってるわよね?」

「ああ」


何とも不思議な話だが、『病は気から』とか『火事場の馬鹿力』等、昔から言われてきた言葉から学べるように、人間というものは自身の気力や置かれた状況次第で普段以上の力を出すことがある。しかし【異能者イクシーダー】はそれを精神力と培った強い意思力を用いる事でスイッチをオン/オフするような感覚で使う事が出来るのだ。


「後はイメージだけよ。本当に感覚的な話で教え辛いんだけど、まずは基本的に【身体強化】を修得する為に行われている訓練をしましょうか」

「頼むぜ」

「じゃあ取り敢えず......走りましょう」

「......へ?」









「ぜーッはーッ」

「ほら、全然スピード出てないわよ!『速く走る』って言うイメージを強く持つの!」

「や、やってるよ......」

「やれてないから速くなってないのよ!」

「それはごもっとも......だっ」


必死に手を振り足を回しつつ速く走ると言うイメージを......


「って出来るかぁ!!!!」


い、忙しすぎる!みんなこんな事をしながら【身体強化フォース】を使ってるのか!?


そのまま少し走ったところで足がバタつき、派手にすっ転んだ。


「いってて......」

「貴方ね......速く走るってイメージは持ててるんだけどベクトルが違うのよ」

「ベクトル?」


方向性が違う?どう言う事だ?


「貴方の考えてる『速く走る』ってイメージは【無能力者ノーマル】基準のものなのよ。足の回転数を上げる、とかフォームを正すとか。だから動きの上では改善してると言えなくはないんだけど......もっと単純かつ純粋に『速く走る』って言う気持ちを出力しなきゃいけないの」

「そうすっすよ兄貴」

「うるせえな!てかお前も一緒にやろうぜ......」


俺と同じ一般上がりなんだ。こいつもいずれ必要になる。


「えーっと、それなんスが......」


少し言い澱みつつ頬をポリポリと掻く黒岩。


「言いにくいんだけれど......黒岩は使えるわよ、【身体強化】」


「......は?」


修得済み......?


「どう言う事だおい」

「いやー、俺って不良やってたじゃないッスか」

「そうだな」


クロニクルとか言う恥ずかしい名前のグループの頭張ってた筈だ。


「それで日常的に喧嘩してたんッスけど......やってるうちに無意識的に【身体強化】を使ってたみたいなんスよね」

「なんだそりゃ......」


無意識で使える様になってるとか天才じゃねえかよ


「私も聞いたときは驚いたわ......でも事実使えてるのよね」

「マジモンの天才じゃん......」


走り込んでも修得の兆し1つ見えなかった今の俺からすると羨ましい事この上ない。


「伊織もまだ初日よ?むしろ簡単に覚えられたらこっちが困っちゃうわ」

「それもそう......だな」


フラフラとではあるが立ち上がる。正直このままぶっ倒れていたいが、そんな弱気ではいつまで経っても修得出来ないだろう。


「もう一本、行くぜ」

「ok」


その後体力の限界で立てなくなるまで走り込んだ俺は......泥のように眠った。

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