第11話 二つ名と校内戦



小手川こてがわ 伊織いおり


総合評価ランク】: 【 C 】


能力値ステータス】: 【体力 B 知力 C 発想 A 運 E 精神力 A】


異能ギフト】:【固定ロック】 【 C 】


異能能力値ギフト ステータス】:【強度:A 射程:C 操作性:C】 【属性:法則干渉系】 【等級:汎用上級レア


【二つダブル】: 【階段飛ばしステップオーバー


校内順位ランキング】: 【 - 】


特記事項スペシャル】:【 - 】




「......え?」

「凄いじゃないですか兄貴!」


 以前の俺のデータとは全く違う。以前の俺の【能力値】は発想ウィット精神力マインドがなかったが、そこがAになっている。更に【異能能力値】もこんな数値ではなかった。

 何よりも目を引くのは【二つ名】の項目......


「【階段ステップ......飛ばしオーバー】?なんで俺に【二つ名】がついてるんだ!?」

「それはまあそれに準じた活躍をしてたからね、貴方」

「......いつ?」

「大前提として、以前の伊織がFランクだったのは【能力値ステータスの発想と精神力の欄が測定不能......つまり数値無しとして判定されていたのよ。それに貴方、元々は手のひらと手のひらに触れた物しか固定出来なかったのよね?」

「あ、あぁ」


 初日に学園長に無理やり編入届を書かされた際に自身の【異能ギフト】と使い方を教えて貰った。その時に学園長に指示されて異能を使った結果、手のひらと机を固定した為にそう思っていたのだが......


「【射程レンジ】って言うのには他と違ってかなり明確な基準があるの。そのうち、自身の体の中及び触れた物にしか影響を及ぼせない場合はFにランク付けされるわ」

「ほう......?」

「それでなんだけれど、実はあのモール内での戦闘って監視カメラに全部映ってたのよね。それで現場検証の過程でその映像記録を学園長が発見、解析した結果、元々Fだった【射程レンジ】と【操作性アキュラシー】がCランクに上昇、加えて黒岩が編入してきた時に異能測定をしてる筈なのだけれど......ねぇ、【異能能力値ギフト ステータス】の【強度ストレングス】って何だった?」

「【強度】はBだったっス」


 ちなみに現時点での黒岩の【総合評価】は自己申告によるとCランク。俺よりも高く、それも踏まえて兄貴呼びはやめてほしいと思っていたのだが......


「黒岩の【異能ギフト】、【火炎フレイム】の【強度】がBだったと言う事は、それを能力発動中は完璧に防ぎ切った貴方の異能の【強度】はAと判定された。そしてその際の機転と持続を考慮して元々登録されていなかった発想と精神力がAに登録された。その結果、全ての【能力値ステータス】がデータ上で一気に伸び、Fだった【総合評価ランク】がCまで上昇した......そういうことだと思うわ」

「【総合評価】に関してはわかったんだが、肝心の【二つダブル】はなんなんだよ?」


 今のではそれの説明になっていない。たかだかCランクに上がっただけで二つ名がつくなら【異能者イクシーダー】の約半数が【二つ名】持ちってことになる。


「そう焦らないで。貴方の場合、ただCに上がっただけじゃない。1FC、それが重要なのよ」

「1度に......」


 確かにEランクとDランクをすっ飛ばしてCに位置付けられているが、それの何が問題なのだろうか?


「通常ランクっていうものは1個づつしか上がらないわ。なんなら私たちくらいの年齢だと既に打ち止めに入ってランクが上がらなくなる人だっているの。でも貴方は1つ飛ばすどころか2つ飛ばしてしまった......それを元に付けられた【二つダブル】が【階段飛ばし《ステップオーバー》】なんだと思うわ」

「しかし元々測れていなかった能力値が加わったから飛ばせたってだけで大そうなものじゃないと思うんだがな」


 そう言うと幻坂は首を横に振る。


「そもそも貴方が私と戦ったときの【射程レンジ】と【操作性アキュラシー】は明らかにFランク相当だった。でもそれからたった数日、いいえ、もしくはあの一瞬で一気にその両方の数値が伸びた......こんなこと普通はあり得ないわ。はっきり言って異常な成長速度よ」

「でも【異能ギフト】ってのは身体機能なんだろう?成長するのは当たり前って前言ってたじゃないか」

「確かに【操作性】だけで考えれば急成長はあり得るわ。何も知らずにバタバタと走っていた子供にきちんとしたフォームを教えれば足が早くなるように、【異能技イマジン】を知らなかった貴方がその存在とコツを知ったことで使えるようになった......でもね、【射程】に関してはそうはいかないわ」

「どうして?」

「いくらコツを教わったからってボール投げの数値は多少は改善されるでしょうけど大きくは伸びないし、フォームを教わって足が早くなったからってすぐに限界は訪れる。より遠くに飛ばす為には、より早く走る為には、地道な努力が必須でしょう?【異能】の【射程】って言うのはそう言うものなのよ」

「な、成る程」


 確かにコツだけでどうにかなる領域には限度がある。当然だろう。


「つまり貴方はやっぱりあの瞬間に急成長した......そしてそれはこれからも続くかもしれない。それがその【二つ名】の真意でしょうね」

「わかったようなわからないような微妙な感じだが......まあわかった。つまり俺は晴れて【二つ名】持ちって事だ」


 晴れても何も自分が【異能者イクシーダー】ってのを知ってからまだ1ヶ月も経っていないんだが。


「そう言う事。じゃあ話を戻すんだけど、私とバディを組んでくれない理由......なんだっけ?」


 幻坂が若干ドスの効いた笑みを浮かべつつ俺に問うてくる。


(し、しまった!)


 俺が幻坂に気後れしている理由の中の最大の理由、二つ名という土俵において俺もそれを獲得した以上、断る理由が半減してしまったのだ。


「ほら、俺はCランクだし。それにお前は校内2位じゃないか!まだまだ釣り合いが取れてない!」


 うんうん。断る理由が減ってしまったとは言えまだまだ同じ土俵に立った訳ではない。まだ断れる!


「校内ランキング、か。ねぇ、知ってる?」

「......何を?」

「校内ランキング戦って6月末から7月にかけて行われるのよ」

「6月末から7月、ねぇ......って!?」

「そう。丁度1ヶ月後くらいね」

「マジか......」


 一応黒岩の一件があってからはもし何かあったときに自分の身を守れる程度には訓練しようとは思っていたんだが......流石に次の実戦が早すぎる。


「まあ安心しなさい。そもそも参加出来るかどうかわからないから」

「どういう事だ?」


 学内ランキング戦だろ?生徒全員をランク付けするんじゃないのか?


「そもそもこの学校のランキング戦の出場枠は64枠。50枠が上位50人の為の枠で10枠が自己推薦枠、あまりの4枠が学長推薦枠。50+10+4で64枠って事なのよ」

「成る程、つまり俺や黒岩が参加する為には自己推薦枠か学長推薦枠に当選しなきゃいけないわけだな」

「そういうことね」


(なら大丈夫だな)


 心の中でほくそ笑む。自己推薦枠なんてそもそも出さなければ良い。学長推薦枠なんて4枠しかないし到底当たるとは思えない。


「まあ自己推薦くらいはしておくかな~、当たったらラッキーくらいで」

「自己推薦の期限、明日までだから早めに出しておきなさいよ」

「わかったわかった」


 幻坂には悪いが......


(出すわけないんだよなぁ......)













 あれから1週間の月日が経った。

 起床し、飯を食べて着替えた後に学外のコンビニ目指して早く家を出る。

 コンビニへ向かう最中、ネットサーフィンでもしようかと端末を取り出すと......初期導入済みの学園専用アプリに通知が来ていた。


(......なんだ?)


 個人用のメールボックスに何か届いている様だ。つまりは全体掲示のメッセージではなく、俺個人に当てられたメッセージと言うこと。

 緊急のものだと困るので、タップして開封してみる。すると......


『Congratulation!!!』

「うっせ!」


 端末からcongratulationの言葉と共にファンファーレが爆音で鳴り響く。


「何がcongratulationだよ全く......」


 何やらボイスメッセージの様で、続きがある様だ。


『やあ少年、君は実に運がいいね!今日と言う日は素晴らしい日に違いないよ!』


「げ、これ犯罪者学園長の声じゃん......」


『厳正な審査の結果......学内ランキング戦、学長推薦枠の内1つを君に差し上げる事になった!良き活躍を期待しているよ!それじゃ、See you next time!』


 その音声が終わった瞬間、プチんとファンファーレの音も鳴り止む。


「............は?」


 もう一度メール本文を読んでみる。


小手川こてがわ 伊織いおり様、貴方様は第147回、才園寺学園主催学内ランキング戦の学長推薦枠に当選なされました。つきましては後日、出場者向けの説明会がございますので、日程の調整の方よろしくお願いいたします』


 ............


 ..................


 ........................


 ................................................



「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

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