異能学園の編入生

あんきも

第1章 異能者デビューと幻想姫

第1話 拉致誘拐、そして恵の手

『..................んんっ』


 冷たい。覚醒した意識が感じ取ったのはそれだった。

 硬い。次に感じたのは硬さ......多分床だ。

 痛い。そしてその2つと共に襲って来る感覚......全身の節々が痛い。

 そこでようやくハッと気がつく。おそらく俺は今硬い地面......頬から伝わる感触から察するにコンクリートの上に寝転がらされている。


 おそらく、と言うのは目が何かで覆われていて周りを視認出来ないからだ。加えて両手両足も拘束されている。


 ......なんだ、この状況?


 えっと......まず俺の名前は小手川こてがわ 伊織いおり。今は4月末、ついさっきまで買い物に......そうだ、学校帰りに夜飯用の食材を買いにスーパーへ向かう最中だった筈だ。

 んで歩いてたら急に黒いバンが止まって中から黒服にサングラスの男たちがわらわらと出てきて拘束されてそのまま車に......


「って誘拐じゃねえかこれ!?」


 思わず叫んでしまった。そこで我に帰る。

 ここは恐らくあの黒服たちのアジトの筈だ。変に刺激したら殺されかねない......ただでさえ今俺に親族は居ない。身代金を要求するところが無い以上俺に人質としての価値は皆無だ。


 目隠しを外したいが、両腕を後ろに回されて親指同士を何かで固定されている。足も同様だ。

 取り敢えずゴロゴロと回転してみたり拘束を破壊しようと床にガリガリと擦り付けたりしてみるが......勿論全て徒労に終わる。

 疲れてしまったので一旦休憩しようと横を向いて深呼吸していると、ガチャリと扉が開く音がした。


(来た......ッ)


 カツカツと硬質の足音がする。そして俺のすぐ目の前でその足音が鳴り止み......目隠しが剥ぎ取られた。


「いや悪かったね、こんなやり方で。強引だったかな」


 目の前には赤い真紅の髪をツイストにして左に流し、黒縁のアンダーリム型の眼鏡をかけた女がいた。


「さて、私にはあまり時間がない。話をしようか」

「身代金になる様な金はありませんよ」


 取り敢えず言ってみる。


「みのしろきん......?」


 女は目をぱちくりとさせたのち、ぷっと吹き出した。


「アハハハハッ!そんな事じゃないよ君。第一私は金なんぞには困ってない」

「......じゃあなんだって言うんですか」


 復讐か?因縁か?思い当たる理由など俺には無い。


「コレ、わかる?」


 そう言って女は右手を俺の前に差し出した。


「......手のひら?」

「不正解☆」


 そう言った瞬間その手のひら炎が吹き上がった。


「うおおおおおおおおお!?」


 咄嗟にゴロゴロと転がって炎から逃れる......まさかこの女......


「【異能者イクシーダー】......ですか」


「うん、大当たり。私は【異能者イクシーダー】でした」


異能ギフト】、精神力を用いて己が意志を世界に具現させる力の事である。


異能ギフト】を持つ者は【異能者イクシーダー】と呼ばれ、全世界50億の人類の中でおよそ千人に一人の割合で存在すると言われている。


 ごく稀な例外を除き、【異能者】は【異能者】からしか産まれない。故にこの世界は【無能者ノーマル】......持たざる者達が特殊な力を持つ者、そしてその血統によって統べられているーーーこの世界の常識である。


「それで、天下の【異能者】様が卑しい【無能者】に何の用でございましょうか」

「なんだね。そう卑屈になるな」

「ヘっ、いつも俺らを見下してる身分で良く言うぜ」


【異能者】は基本的に【無能者】を見下している......当然と言えば当然だ。なにせこの世界は奴らの組織する【異能連合】とその傘下組織によって統治されている。 いわば【異能者】は血統書つきの猫、サラブレッド。【無能者】は雑種、駄馬だ。


「うんうん、その反抗的な態度、悪くないね」

「俺に何をさせるつもりですかね?出来れば【無能者】でも出来る事なら助かるんですが」


 そう言うと女は少し怪訝そうな顔をする。


「あぁ......そう言えばさっきから気になる点が一つ」

「何でございましょうか?」

「君......一つ間違っているね」

「何を?」

「自己認識、かな?」

「自己認識......?」


 何を言っているんだこの女は。嫌味か嫌味なんだなこの野郎


「君、さっきから自分の事を【無能者ノーマル】呼ばわりしているが......君は【無能者】じゃあない。【異能者イクシーダー】だよ」

「......は?」


 重ねて言おう。何を言っているんだこの女は


「まあ知らないのも無理はない。基本的に一般家庭に産まれた者に【異能ギフト】が宿る事は無い。故に異能を調べる検査も受けていないだろうし......何より【異能】は己が『意志』を精神力を使って現実に具現させるもの。しかし自身に異能があると知らなければ意志もクソもないからね」


 さっぱり話についていけない。


「俺は一般家庭出身ですよ」

「何事にも例外は存在する。実際【異能】と言うものはかつて地軸の乱れによって生じた電磁波の影響で大脳の一部が刺激を受け、昔で言う『第六感』が異常発達した結果生まれたもの、言わば突然変異だ。実際に一般家庭だとしても突然変異の結果遺伝に依らず異能を会得した事例もある」

「それが俺だと」

「そうだ。私の目に狂いは無い」


 そう言うと女は立ち上がり、指を鳴らした。その瞬間指と足を拘束していた何かの感触が消えた。取り敢えず寝転がったままの体制はキツくなって来ていたのであぐらをかいて座る。


「手荒な真似をしてすまなかった。そして名乗り遅れたね。私の名は才園寺さいおんじ めぐみ。才園寺学園の理事長だ」

「才園寺学園......?才園寺学園ってあの才園寺学園?」

「どの才園寺学園を想像してるかは知らないが多分それで合っている」


 才園寺学園、日本に8つある異能者を育成する高等学校の1つにして始まりの学園。言わずと知れた名門だ。


「君は我が校に入学する。拒否権は無いよ?何故なら【異能者】は異能学園にて教育を受けなければならないと言う規則ルールがあるからね」


「俺も今日から才園寺学園の生徒って事か?ハッ、面白い冗談じゃないですか。第一俺は愛知県の一軒家住みで高校にだって通ってる。オタクの学園は東京でしょう?通えませんって」


「あぁ、それなんだが」


 学園長(?)は懐から横長の紙とペンを取り出し、何かをすらすらと書いていく。


 そして何かを書き終わると俺にその紙を渡して来た。紙には


【小切手】【金額 金壱億五千万円也】


 との記載が。


「......は?」


 理解が追いつかない。何だこの金額は。夢か、夢なのか


「それは慰謝料、もとい示談金だ」

「示談金......?誘拐の?」

「まあそれもあるが......おっと手が滑った」


 そうわざとらしく言うと学園長(?)の懐から数枚の紙がひらひらと落ちて来た。

 それはカラー写真だった。何処かの街の風景を映した物のようだが......?


「これ、うちの周りじゃないですか」

「そうかい?」

「えぇ、この家は鷹宮の家でその隣が加藤さん、んでこの家が森さんの家、でその間にあるのがウチ......って、アレ?」


 その写真には本来有るべきものが無かった。加藤さん宅と森さん宅の間にあるはずの小手川さん宅が綺麗さっぱり無くなっているのだ。住宅街の街並みにぽっかりと穴が開いている。なんなら『空き地』『契約者募集』の看板まで立っている。

 他の写真も全て我が家を上空含めたあらゆる角度から撮ったもののようだが、そのどれにも愛しの我が家は写っていない。


「......何やったんですか」

「いやあ、ちょっとした建築物等損壊に器物破損、その他諸々だよ。それはそれに対する示談金」

「あーなんだ、ちょっとした建築物等損壊に器物破損、その他諸々ですか。それならそうと早く言ってくださいよ嫌だなー」


 つまりは我が家を取り壊したみたいだ。勝手に。断りもなく。俺が寝てる間に。


「......なんて事してくれてるんだテメェ!!!!」

「仮にも学園長になんてことを言うんだ少年」

「知らねえよ頭沸いてんのかこのクソアマが!!!」

「あ、示談金が足りなかったかい?ふむ、確かにちょっと足りないかもしれないな」


 そう言うとまた小切手にすらすらとペンで記入し、俺の方へ投げ渡す。



【小切手】【金額 金拾億八千万円也】


「それで良いかな?流石にそれ以上ってなると譲歩しかねるんだけど」

「増えてるゥーーーーーー!!!!!」

「あぁ、君は何の心配もしなくて良い。戸籍の変更とか通ってた高校からの転校手続きとウチへの編入手続きはもうやってあるし学生寮だって確保してある。制服とかの学校生活に必要なものは全て揃えてあるから明日からでも我が校に通えるよ」

「は!?転校?もう済んでる?明日から通う?何言ってるんですかアンタ?」


 いくら【異能者イクシーダー】が権力を持っているとは言え、ここまで出来るはずが......ない......とは言い切れない......


「何を心配しているんだい?住民票も既に移してあるし何の問題も無いと思うんだけど」

「全てのやり口が問題なんだよ!!!」

「まあそう言うわけで大人しくその小切手を受け取っておきたまえ小手川君。どの道君の帰る場所は学生寮しか残ってない。さぁ、案内しよう」

「もう嫌だこの女ーーーーー!!!!!」













 この日から俺の第二の人生......【異能者】としての生活が始まったのだった

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る