第7話

 あれからさらに3日経って、はっきりしたことがある。それはやはり僕の体は昼よりも夜の方が元気になるということだ。幽霊だから元気になるという言い方が正しいのかどうかは考え所だが、日中よりも夜の方が明らかに調子がいい。なんと言えばいいのか、日中はふわふわとしている感覚の体が、夜になるとはっきりとした感覚を持てるのだ。


 そこでさらに気づいたことなのだが、日中は体が完璧に宙に浮いているのだが、夜になると両足でしっかりと立っているような感覚がある。特に日付を超えたあたりから3時までの間はその感覚を強く感じられる。


 もしも美沙に何かできるとすればこの時間しかないのではないかと考えている。けど、現状物にも人にも触れられないので、根本的な解決には至っていない。いったい世の幽霊はどのようにしていたずらをしているのだろう。


 深夜1時、美沙が寝ているのを横目に少し歩いてみる。足のような部分から、しっかりと前に押し出す力が働いてる感覚が伝わってくる。ふと、このまま何か物を蹴ってみたらどうなるのかというのが気になった。


 どうせなにも起こらないだろうと思って目の前にあった美沙の洗濯されたスウェットを蹴ってみることにした。自分の足の部分にしっかりと意識を集中して、軸足を中心に勢いよく振り抜く。


 いつもなら自分の足はスウェットを綺麗にすり抜けて中に浮くのだが、今回は違った。なんと、振り抜いた足はそのままスウェットを見事に捉え、飛ばされたスウェットはそのまま美沙の顔にかかったのだ。



「は⋯⋯?」


「あたっ⋯⋯た?」


「えっ⋯⋯??」



 あまりの予想外な出来事に呆然とすることしかできない僕。まさか自分の足がしっかりと物を捉えることができるなど、予想できようか。



「うーーん、なにこれ?なんでこんなとこにスウェット置いて寝たっけ?」



 僕が蹴り上げたスウェットを見事に顔面でキャッチした美沙が苦しそうに呻く。当たり前のことだが、突然顔にかかったスウェットのせいで起きてしまったようだ。


 気づかれないとは分かりつつも、起こしてしまったことへの罪悪感から身をかがめるような気持ちでその場に立っていると、美沙はスウェットを床に落として再び眠りについた。


 いったいこれまでとなにが違ったのか。それを解明するためにはもう1度、何かを蹴ってみたい。そこで目についたのは、先ほど美沙が床に落としたスウェットで、僕はなにも考えずにそのまま真っ正面にスウェットを蹴り上げた。







結果、蹴り上げられたスウェットはまたしても美沙の顔にかかり申し訳なさは倍増した。

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