第130話 巨人

 【サイクロプス】


 それは、かつて神のきざはしにいたと言われる、単眼単角禿頭の巨人である。


 その体躯は、およそ50メートルを越え、魔術に対しても高い抵抗力を持つ。

 

 動きはやや鈍重であるものの、その膂力は計り知れないほど。


 高層ビルほどの高さから打ち下ろされる棍棒の一撃は、まるで隕石が落ちてきたかのような衝撃となる。


 かつて、同種の存在が王国で暴れまわった際には、Sランク最高クラスの冒険者ですら不覚をとったと言われている。


 それ故に、討伐ランクは【SS】

 複数のSランク冒険者による討伐が必要とされていた。


 巨人は、ララノアたちの住む【レナス村】から遥か西方に連なる山岳地帯の主として存在していたが、これまでは距離も離れていたこともあり、相対することは無かった。


 だが、そのような凶悪な存在が今、大いなる敵として村人たちの前に立ちふさがったのであった。


「どうして……。いや、それよりも何故、今までこいつの存在に気づかなかったのだ……」


 こんな巨大な存在が荒野を歩いていれば、否が応でも視界に入るはず。 


「まさか……」


 ひとつの可能性に気づいた村長が、慌ててローブ姿の男に視線を向ける。

 すると、村長の視線に気づいた男は、持っていた頭陀袋ずだぶくろの中から、ひとつの木片を取り出す。


 そして、その木片に刻まれたに村長は見覚えがあった。


「貴様ッ、守護柱トーテムポールを破壊して魔道具を持ち去ったな!」

「キシシシシシシ、御名〜答!正解した記念に、巨人の大暴れを差し上げま〜す」


 ローブ姿の男は木片を投げ捨てる。

 そして今度は、頭陀袋から一本の短杖を取り出す。


 黄金色に光る金属製のその杖は、全体に古代文字が彫り込まれており、杖頭にある双頭の蛇の彫刻は、こぶし大の真っ赤な魔石を咥えていた。

 

 じっとりとした禍々しさすら感じるその杖の名は【支配の王笏インペリウム・セプター

 その能力は、いかなる魔物ですら支配できるとされていた。


 杖を手にしたローブ姿の男は、それを一振りするとサイクロプスを縛っていた制約を解除する。


「ぶもおおおおおおおおおおおおおお!」


 大地をも揺るがす咆哮とともに、巨人が楔から解放された。


 もはや誰の言葉も届かない。


 両足を踏み鳴らし、棍棒を無闇矢鱈に振り回す巨人は、もはや破壊の権化であった。

 足を振り下ろす度、棍棒を振り回す度、多くの命が散っていく。


「クソッ!……だが、やるしかない。やるしかないんだ!」


 村長は、気を抜けば折れてしまいそうな自分の心に鞭打って、勝ち目のない戦いに臨むのであった。




★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

 

サイクロプスの大きさのイメージは、進撃してくる巨人さんだったりします。


筆が乗ってきて余裕が出たので、今日は本作二本投稿。


『紅蓮の氷雪魔術師』も投稿。


『自己評価の低い最強』(最終回)も投稿。


 一日四本投稿に挑戦してみます。

 ぜひこの機会にご一読を。







 

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