第104話 料理

「それじゃあ、時間もあることだし、ちょっと手の込んだものでも作ろうかな?」 

「スパーダ、手伝ってくれる?」

「任せてくれよ、兄貴!」

「あっ、それなら私も……」

「お兄ちゃん、アリスもやるよ」

「アタシはパス。つまみ食いでもして待ってるニャン」

「チェシャ姉……」


 狩ってきたばかりのボナコンを解体したアルフォンスは、夕食の準備に取り掛かる。

 グルックが気を遣って早めに野営の準備となったため、久々に手の込んだものでもを作ろうかと、スパーダに手伝いを頼むアルフォンス。

 すると、キャロルとアリスも手伝いをかって出る。

 ……チェシャは、まぁ自由である。


「それで、何を作る予定なんですか?」


 キャロルがそう尋ねると、アルフォンスは楽しそうに答える。


「これだけ肉もあるので、『ステーキ』と『串焼き』、あとは『シチュー』でも作ろうかと」

「おおっ、肉尽くしだな!」

「すご〜い、いっぱいだぁ」


 野営での食事など、大抵は焼いた肉に堅パン、そこに塩味のスープでもあればいい方。

 歴戦の冒険者である【漆黒の奇蹟ミラキュラス ニグリ】ですら、その程度の食事であった。


 元奴隷だった4人などは、奴隷商人から歯が折れそうなほど硬いパンを一日一個与えられるだけの日々。


 それが、この日はたくさんの料理が並ぶと聞いて、スパーダたちのテンションが上がる。


 そしてそれは【漆黒の奇蹟ミラキュラス ニグリ】の面々も同様。

 知らず識らずのうちに、野営を準備する手が早まる。


「さあ、それじゃ、頑張ろうか」

「はい」「おう!」「わかった〜」

 

 アルフォンスの言葉に応じるキャロル、スパーダ、アリスの3人。

 こうしてアルフォンスたちの野外料理が始まるのであった。



 アルフォンスは【聖鍛せいたん】バザルトが鍛えた『シェフナイフ』を取り出すと、手際よく食材を切り分けていく。


 そのうちの一部は、豊富に香辛料を混ぜたタレに漬けて下味をつけることも忘れない。 



「兄貴、こんなに香辛料を使っちまっていいのか?」


 『その重さが同量の金に等しい価値がある』とまで言われた香辛料をふんだんに使うアルフォンスに、スパーダがおそるおそる尋ねる。

 するとアルフォンスは、こともなく答える。


「大丈夫だよ。次元収納に売るほど入っているからさ」

「売るほど?」

「うん。前に会頭から討伐したトカゲの対価として、たくさん貰ったからさ」

「……トカゲ?」

「アルの言ってるトカゲって『ドラゴン』のことらしいよ」

「「「ドラゴン!?」」」


 スパーダが意味がわからずに困っていると、馬を繋ぎ終えたギルがやってきてそう告げる。

 すると、それを聞いたスパーダたちは驚きの声を上げる。


「アル、手伝いに来たよ。こっちのシチューでも見ておくか?」

「ありがとう。じゃあ、煮詰まらないように火を見ててくれる?」

「任せてよ。で、味見は?」

「う〜ん、少しなら?」

「よっしゃああああ」


 さすがに元奴隷の少年少女たちよりかは、幾分付き合いの長いギル。

 手伝いと称して、まんまと美味しいポジションを得ていた。


「ドラゴンまで討伐できるのかよ……」

「アルフォンスさまっていったい何者なの?」 

「つよくてやさしいお兄ちゃん、カッコいい!」

「兄貴って、実はハイエルフで五百歳ぐらいだったりして」

「でも、耳は普通よ」 

「じゃあ、ハーフエルフで百年くらいは生きてると……」

「それくらいじゃないと、ここまでいろんなことを極められないよね」

「お兄ちゃんは、お兄ちゃん。それでいいの」


 ギルに美味しいポジションを取られたことよりも、アルフォンスの規格外さを更に知って、騒然とする3人。


 そして、突然持ち上がる『アルフォンスは長命種族で実はかなり歳をくってる』説。


 そんな会話を耳にしたアルフォンスは、苦笑いを浮かべながら、何と言って否定しようか考える。


「ガウウウウウッ!」

「ニャッ、ニャにをするニャ!」

「グァッ!」

「この犬ころ、止めるニャ!うおっ、うニャァァァァァァァァ!」


 離れた場所で猫獣人の叫び声が聞こえるも、誰も気にしないほど、キャロルたちはアルフォンスの正体について盛り上がるのであった。





 

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