閑話 「ペットを飼おう」3

「じいちゃん、ごべんなざぁぁい!」


 トマスとの今後の対応について話し合ったアルフォンスは自宅に帰る。

 もう、ペットとはお別れをすることを考えていたのだが、そこはトマスがなんとかすると請け負ってくれた。


 そうなると、アルフォンスがすべきことは、祖父であるオイゲンの気持ちを慮ることなく、ワガママを通そうとした自分の誤りを認め、謝罪することだった。


 反省する気持ち半分、祖父に顔を合わせる気まずさ半分で、トボトボと家路につくアルフォンスであった。


 ようやく、自分の家に帰り着くと、デッキに置かれた椅子に座ってうなだれている祖父を見つけた。


 その姿は、普段の自信に溢れた姿とは大きく異なり、どこか小さく見えた。


 祖父のその様子に、脳天をハンマーで殴られたかのような強い衝撃を受ける少年。


 祖父は村の人々のことまで考えて決断を下していたのに、自分は何を意地張っていたのだろう。


 ――早く謝らなきゃ。


 そうした気持ちに突き動かされたアルフォンスは、泣きながら祖父に駆け寄るのであった。



 祖父のオイゲンは、突然聞こえてきたアルフォンスの声に顔を上げる。

 すると、孫が一目散に自分めがけて駆け寄って来ていることに気づき、オイゲンはその身体を受け止める。


 その大きな身体に抱きついたアルフォンスは、ひたすら謝罪を繰り返す。


「じいちゃん、じいちゃん……。ごめんなさい。ごめんなさい」


 祖父の愛を一瞬なりと疑ったこと、それでもペットを飼うとワガママを言ったこと、己の愚かさを心の底から謝罪する。


 すると、オイゲンもまた涙ながらに謝罪を繰り返すのであった。


「おおおおお、すばながっだぁ。ワジが……ワジがもっどでいねいに説明じでればればあああ」


 彼もまたアルフォンスへの対応が、不味かったと反省していたのだった。

 頭から禁止するのではなく、どうして禁止なのかを丁寧に説明し、場合によっては冷静に今後のことについて話し合うべきだったのではないか。

 そんな思いにずっと囚われてきたのであった。


 祖父と孫、お互いへの謝罪はいつまでも続く。


 お互いが泣き声なので、何について謝ってるのかは傍から見ると一切分からないが、不思議と当人同士は意思の疎通ができているようで、なんとなく話が噛み合っているようにも見える。


 しかし、子供と老人が泣きながら抱き合う姿は、最初はまだ感動的であったが、さすがにいつまでも見せつけられるとかなりウザい。

 

 延々と繰り返されるお互いの謝罪という光景に、祖母のエリザベートはため息を付きながらポツリとこぼす。


「はぁ、ホントに似た者同士なんですから……」


 こうして、ふたりの謝罪は、最終的にいつまでも見せ続けられたエリザベートがブチ切れて、ふたりに説教をするまで続いたのであった。




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