第61話 参戦
時間は遡る。
襲い来る魔物は【
商会の主であるグルックは、好調すぎる道中に、思わず溢れる笑みを隠せない。
そんなグルックを見かねたフランシスが、苦言を呈する。
「いやぁ、順調順調〜、これもオレの日頃の行いのたまものだよな」
「グルック、お前は本当にそんなことを思ってるのか……?」
「ったり前だろうが。ついにオレにも幸運が巡って来たって感じか?」
「ハァ……。『好事魔多し』って言うだろうが。順調なときほど、身の回りに気をつけなければならないんだぞ」
「いいんだよ、好調なときはドンドン行け。そうしてオレは、この商会を王国一の商会にしてやるんだ」
「グルック……、そんなに無理をするな。王国一だなんて……。
「うるせぇ、お前に
「お前と同じくらいしか分からんよ……」
「何ぃ……」
グルックがとっさに反論しようとしたとき、子狼と共に馬車と並走していたアルフォンスから緊張した声が届く。
「待って下さい。この先で戦闘が行われています」
その言葉に驚きつつも、隊商の面々アルフォンスの指示に従って馬の歩みを止める。
冒険者たちのリーダーであるアトモスがアルフォンスに問いかける。
「少年、戦闘とはどのくらいの規模だ?」
「魔物対人で、総勢で60程度かと」
「ふむ……それではこのまま進むのは危険か?」
「皆さんたちなら問題ないと思います、それよりも……」
アルフォンスと【
「なら行きなさい」
「えっ?」
「アルフォンス君、君は先で戦っている人たちを助けに行きたいのだろう?」
「はい、そうです!」
そう強く断言するアルフォンスを、フランシスが見つめながらゆっくりとうなずく。
「私もこれまでの旅で、君という人物を少しは分かったつもりだ。困っている人を見過ごせない……そうだろ?」
「はい」
その言葉にアルフォンスも力強くうなずく。
「ならば、話は早い。すぐに向かうべきだ。幸いにも君の結界で、たいていの魔物は馬車に近づけないようだし。私たちに何かあれば信号弾もある。【
「フランシス殿……良いのか?」
「ああ、問題ない。我々はゆっくり進むので、アルフォンス君とともに人命救助を優先してくれ」
「ああ、だが彼は……」
チラリと商会の主を横目で見るアトモス。
「いいよね?」
「ふん、さっさと行って片づけてこい」
フランシスの問いかけに、そっぽを向きながら答えるグルック。
「「「「ハァ?」」」」
冒険者たちの驚愕の声がハモる。
アルフォンスですら、思いもよらない提案に驚きを隠せない。
その微妙な雰囲気に苛立ったグルックが、アルフォンスたちを怒鳴りつける。
「オラァ!さっさと行って道をキレイにしてこいや!」
思いもよらないことで、行動が鈍る一同。
「……おっ、おう」
「これは夢か……」
「何でも良いッス。さっさと行くッスよ」
「狐、乱心……」
「狐、錯乱……」
冒険者たちはひどい言いようだ。
「とっとと行けぇ!!」
グルックの言葉に、苦虫を噛み潰したような顔をした【
最後にアルフォンスが深々とアタマを下げると、身を翻して冒険者たちを追いかけていく。
こうして、アルフォンスたちは、奴隷商人の隊商が襲われている戦場に臨むのであった。
みるみるうちにその姿が小さくなるアルフォンスたちの背を見つめつつ、フランシスがボソリと呟く。
「ホントに素直じゃないんだから……」
今後の行程で、他者が襲われているところに出くわしたり、助けを求められたりすることがあるかも知れない。
まだ荒野ばかりなので、他の誰とも出会うことはないが、これが王都に近づいて行けば魔物や盗賊に襲われている場面や、立ち寄った村で助けを求められることも少なくない。
こうした場合に、どう対応するのが最善か。
とある日、グルックとフランシスはそんな相談をしていた。
アルフォンスはお人好しなので、真っ先に助けに向かうだろう。
そして、【
そうしたとき、自分たちはどうするべきか。
あくまでも自分たちの護衛だろうと諭して、思いとどまらせるか。
あるいは、護衛のうちの数人だけを向かわせるか。
そんなことも考えたが、最終的に出た結論は
「そんなときは好きにやらせろ。無理に引き止めて機嫌を損ねられては、その後の旅に支障が出るだろうが」
そのグルックのひとことで結論がついた。
これから起きるであろうことを予測し、事前に対応策を練っておく――それを危機管理という。
臆病がゆえに、ありとあらゆることを事前に想像する性分。
そのための危機管理であった。
人によっては、取り越し苦労だと笑われるかも知れない。
だが、それは時に大きな成果をもたらすことになる。
これがこのときであった。
事前に方針が決まっていたからこそ、アルフォンスたちは素早く参戦することができた。
もしも、グルックによる事前の判断がなければ、奴隷の少女は助かっていなかったに違いない。
グルック……性格はともかく仕事は出来る男であった。
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