第55話 夕食
日も暮れて、
仮眠のためのテントを張って、夕食の準備に取り掛かる。
最近では、イーサンの魔力量を増やすのを目的として無駄に魔術を使いまくっているせいで、わざわざ大地をくり抜いた露天風呂まで準備している。
「
「これもイーサン様々だな」
「それを言うならアル少年様々。イーサンは、体内の魔力を増やすのに、魔力を使い切ってから寝ること日課にしてなければ、絶対にこんなことはしない」
「うぬ」
「ガハハ。確かにそのとおりだな」
今では、ちょっとした大浴場並みの大きさになっている露天風呂で、そんな会話を交わす、アトモス、バレット、イーサンの三人。
三人がこんなにゆったり出来るのは、今日が完全にオフの日だからだった。
アルフォンスを冒険者と見ることで、三人一班で交代制のパターンを組むことが出来るようになったのだ。
風呂の準備は別として、食事や野営の準備、更には徹宵警戒まで担当する班と、突発事態以外は何もしなくていい班に分けて運用することが可能となったのだ。
おかげで、冒険者たちはかなり楽をすることが出来るようになっていた。
最も、アルフォンスの結界があるので、野営の準備が一番大変だということになっているのだが。
今日の料理当番はアルフォンス。
少年は、以前にふるまった際に、冒険者ばかりか商会の面々からも好評を得た野外料理の準備をしているところだった。
何しろ【
屋外料理だ。
味に間違いがあろうはずもない。
食欲を誘う香りが周囲に漂うと、あの何に関しても苦言を呈するグルックですら、夕食を心待ちにするというのだから、その味わいは本物だった。
見れば、忙しそうに準備しているアルフォンスの足元では、嬉しそうに尻尾を振りながら、少年の料理が出来るのを待つ子狼の姿もあった。
「あれ、完全に餌付けされるッスよね?」
「もう、野生を忘れてる?」
そんな子狼を、残念な子どもを見るような目で眺めるクリフとデューク。
今日の準備班の残り二人であった。
「今日はアルフォンス君が料理当番かい?楽しみだ」
「アル、期待してるよ」
「そんなに期待されると、困るんですが……」
そうして、いつもよりも早めに集まってきたフランシスとギルの言葉に、プレッシャーを感じるアルフォンスであった。
最後にやって来るのはグルック。
「おい、小僧。早くくれ」
席に着くやいなや、偉そうにそんなことを告げる商会主。
「ンアア〜?」
「ひっ、何で犬コロがここにいるんだ?」
「ガアッ!」
「ひいいいっ!おい、オッ……オレは馬車で食べるから持って来い」
「ウガアッ!」
「もっ、持ってきて下さい……」
「ン」
偉そうな発言をしたら、何故かそこにいた魔物に脅かされて慌てて逃げるグルック。
「相変わらずグルックとは相性悪いねえ」
「こんなに可愛いのに……」
冒険者ではないフランシスやギルですら、子狼がいることを素直に受け入れているのに、変にこだわるグルックだけは完全に蚊帳の外であった。
「さあ皆さん、できましたよ。今日は鹿……」
「『ペリュトン』ッス」
「そうです、『ぺりゅとん』のモツ鍋です。シメには『ライス』もありますよ」
その言葉に一同から歓声が上がる。
まだまだ長い道程であるが、笑顔の絶えない旅となっている。
本来であれば、こんな余裕を持って旅などは行えない。
毎日、魔物や盗賊の襲撃に怯え、少ない糧食を細々と食いつなぐのが行商の性だった。
だが、今回の旅は違う。
たったひとりの少年が、行商の在り方すら変えてしまった。
快適な荷馬車。
ヘタな魔物は入り込むことすら出来ない結界。
冒険者たちは、護衛の合間(?)に訓練までする始末。
食事も王都の料理店ですら食べられないほどの美味。
さらに、気がつけばやたらと強い子狼と夕食を共にしている。
「もう、何がなんだか分からないや……」
「ん?」
楽しく食事をとる面々を見て、思わずフランシスはそうつぶやく。
だが、それでいいと思う。
こんなに楽しい旅であればいつまでも続いても構わないと考えるほどには。
こうして
「あれ?誰かグルックさんに持って行きました?」
「……あっ、忘れてたッス」
「早く掻き集めろ」
「あああっ、この狼。全部食べちゃだめ〜!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます