第54話 連携

「アトモスさん、後ろッス!」

「何!?」

「バレットさん、下がるッス」

「応」

「イーサンさん、弾幕を張るッス」 

「任せろ」

「デュークさん、来…………あっ、ああああ」

「あっ……。畜生っ!」


 デュークの頭を踏み台にして、子狼が最終ラインを飛び越える。


 馬を休ませるために、定期的に待機する隊商キャラバン

 その空いた時間を使い、【漆黒の奇蹟ミラキュラス ニグリ】の面々は今日も訓練に勤しんでいた。



 しかし、思うような成果が得られずガックリと膝を落とす一同。


「デューク……これで何回目?」

「好きにしてくれ……」


 特にもう何回目になるか分からないくらい、子狼の踏み台になっているデュークの落胆は筆舌に尽くし難い。


「あいつ、デュークだけ狙って踏み台にするんだ」

「この間なんて、イーサンと服を替えたのに、キッチリと見分けて踏み台にしてたね……」

「デュークさん、子狼に何か嫌われるコトしたンスか?」

「…………心当たりない」

 

 双子とクリフがそんな会話をしていると、訓練の様子を見ていたアルフォンスがやってくる。


「デュークさんの頭の形が踏み台にちょうどいいみたいですよ」

「アル少年……」

「アルさん、何ッスかそれ?」

「頭の形?」


 何故か子狼と意思の疎通ができるアルフォンスが踏み台の種明かしをする。


「頭の形?」


 イーサンが、デュークの頭をペタペタと触りながら形を確認する。

 が、違いが分からない。


「でも、途中までは柔軟に対応出来てたと思いますよ。やっぱり、クリフさんが指揮を摂るのはいいアイデアですね」


 アルフォンスは【漆黒の奇蹟ミラキュラス ニグリ】の連携をそう評価する。


 リーダーはアトモスに変わりはない。


 だが、こと連携を取るとなれば前衛のアトモスが指示をするよりも、後衛のクリフが指示をする方が、より広く戦場を見渡せるのではないかとの意見が出た。


 そこで、実験としてこの訓練を繰り返していたのであった。

 最後尾にいるアルフォンスを護衛対象とし、子狼から守り抜く訓練。


 その結果は、ことごとく惨敗。


 アルフォンスに鍛え抜かれた結果、今や高ランクの魔物よりもはるかに強くなった子狼は、何の苦もなく彼らの防御隊形を抜いていく。


 わざわざ、デュークの頭を踏み台にして。


 自信を喪失しそうになる彼らであるが、アルフォンスの適切なフォローによってやる気を繋ぎ止めている状況である。


「実際、子狼が突破するのに時間がかかるようになってきてますからね」

「少年、世辞はいらないぞ」

「いえいえ、客観的な意見です」

「ホントかよぉ。何か自信失くすぞ」

「僕が訓練で嘘を言ったことあります?」

「いや、それはないな……」

「でしょ?」  

「おっ、おお。そう言われると自信がつくな」


 ニッコリと笑いかけるアルフォンス。

 子狼の「鞭」と、アルフォンスの「飴」。

 なかなか良いコンビであった。


「イーサン、いい加減にしろ」 

「謎を追求するのが魔術師の役目」


 踏み台に適した頭の解明するために、デュークの頭を撫でまくるイーサンは放っておく。


 すると、アルフォンスのもとに子狼がやってきてテシテシと地面を叩く。

 バイト料を払えと言うことらしい。


「今日もありがとうね。じゃあ、今日は何にする?熊?鳥?……豚はダメ。何でも美味しいものばかり食べてちゃ身体に悪いらしいよ」

「ガウ……」


 そう優しく笑いかけると、空間に一文字に開いた穴から、見たこともないような鳥の魔物を取り出すアルフォンス。


「アレ、霊鳥【シャターナ】ッスよ」

「うわっ、Aランクの魔物じゃねえか」 

「アル少年、鳥って言ってる」 

「アル少年、理解していない」

「どれほどの魔物を狩っているのか」 

「自分でも覚えていないくらいあるって話ッス……」

「あの村にいればそうなるか……」

「遊び場がダンジョンだったみたいッスからね……」

「ため息しか出ねえぞ……」


 もう驚くまいと思っているのに、今日もまたそれを果たせない冒険者たち。


 そして、アルフォンスと子狼のやり取りを傍から診ていたギルは、フランシスにボソッと語りかける。


「あれって、完全に餌付けされてますよね?」

「うん。野生の狼のはずなんだけどね……」

「もう、アルが名前を付けないのがおかしなくらい慣れてるじゃないですか」

「魔物まで魅了するのか……。ホントにアルフォンス君ってすごいね……」

「今更ですね」

「……うん」


 そんな会話を交わす二人の目は、どこか達観しているのであった。




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