第35話 試作

「とりあえず、練習品なんですが僕の打った武器を使ってみますか?」


 その言葉に理解が及ばなかったバレットが、一瞬呆ける。


「へっ?」

「僕が親方に教わったときに、いろんな武器や防具を作ったんですが、それが次元収納に入ってるんです」

「ちょっ、ちょっと待ったあ!アルさんは、鍛冶もするんスカ?」


 そこに割り込んで来たのは、傍らでふたりの話しを聞いていたクリフであった。

 先日以来、何故かアル呼びになっている。


「ええ、多少は嗜みます。鍛冶って楽しいですよね。多少ですが【印】も付与してますよ」

「「「「「印!!!」」」」」


 その言葉に、冒険者たちが一斉に驚く。


「……どう思う?」

「流石に鍛冶まで一流とは行かないだろう」

「………それ、治癒魔術のときも言ってたッスよね」

「理由はないけど、少年ならあり得る」

「理由はないけど、少年なら可能かと」


 そんな会話をコソコソとする。


 冒険者たちの意見は真っ二つに分かれる。

 懐疑的なのがアトモスとバレットの年長組。

 若手組のクリフとデューク、イーサンは肯定派だ。


「アルさんは、鍛冶を【聖鍛】様に学んだンスか?」

「ええ。モノを作るのが大好きなもので。これでも一応は、親方から合格点をもらってるんですよ」

「そりゃあ、すごいッス!」 


 そんな追加情報に、若手組はテンションが上がるが、年長組は今だに疑っている。


「……おそらくは、聖鍛殿が少年を気づかって合格を出したのだろう」

「だよな。火を熾すだけでも十年って言われてる鍛冶仕事だ。アルフォンスくんがどんなに優秀でも、一朝一夕で身につくことはないはずだ」

「でも、それを言ったら雷鳴魔術だって、剣術だって一緒じゃないッスか?」 

「天賦の才能に時間は必要ない。それほどの逸材」

「天賦の才能に経験は必要ない。それほどの逸材」


 若手組の言葉を聞くも、納得できないバレット。


(そんなに何でも出来てたまるかい……)


 そう思うものの、バレットはせっかくの申し出なのでと、試しに武器や防具を見せてもらうことにする。


「アルくん、せっかくの話だからお願いしてもいいか?」


 アルフォンスが酷評した剣以下のモノが出てきたら、どうやって断ろうかと思いながら……。


「あっ、そう言えば大盾もありました。それも一緒に出しますね。開(アペルタ)】」


 アルフォンスが空中に浮かんだ裂け目から武具を取り出す。


「「「「「!!!」」」」」


 冒険者たちは思わず息を呑む。

 そこには、冒険者たちが今まで見たこともないほど立派な剣と大盾があった。


「アッ、アルくん。こっ……これは聖鍛様の剣や盾かな?」


 冒険者たちの目は節穴ではない。

 目の前にある剣や盾が、どれほどの高みにあるものかを瞬時に理解する。


 そこで、バレットはこれが聖鍛バザルトの鍛えたものだと勘違いしたのだ。

 まさか、少年が打ったものだとは信じられなかったために。


 だが、その思いを打ち砕く回答が少年からもたらされる。


「いえ、これがですよ」

「おおおっ……」

「すごい……」 

「マジッスか」

「逸品」

「名品」


 冒険者たちは思わず感嘆の声を上げる。


「おい、早く試してみろ」

「おおっ」


 アトモスに促されたバレットが、恐る恐るそれらの剣や盾に触れる。

 まるで高価な品を扱うかのように、とても丁寧な手つきだ。


 最初に手にしたのは、丁寧な造りの鞘に収められている剣だ。

 鞘から引き抜くと、両刃の剣身がまばゆい光を放つ。

 いわゆるブロードソードと呼ばれる一般的な剣だが、その性能は一般的ではないのだろうなとの直感を得る。


「こっ、この剣の材質はミスリルか?」

「正確にはミスリルとオリハルコンの合金ですね」

「「「「「オリハルコン!!?」」」」」


 とんでもない単語がサラッと飛び出したことに、冒険者たちは声を揃えて驚く。


「オリハルコンって伝説の鉱物じゃねえか!」


 バレットがそう告げるも、アルフォンスは何でもないとばかりに答える。


「大森林の迷宮にはオリハルコンの角を持った牛がいるんで、結構簡単に手に入るんですよ」


((((ミノタウロスだ!!!))))


 オリハルコンの角と牛というキーワードから、正確に伝説の魔物だと理解する冒険者たち。


(Sランクでも複数人かいて、やっと歯が立つかもって相手だぞ……絶対に簡単じゃねえぞ)  


 伝承とは言え、ミノタウロスの恐ろしさを心得ている冒険者たちは、それを簡単と言い切るアルフォンスに戦慄を覚える。


 だが彼らは、そのミノタウロスがアルフォンスの顔を見るだけで、泣きわめいて逃げまくっていることまでは思い至らない。


 アルフォンスが、想像の斜め上を行く存在だと気づかないところはまだ理解不足であった。



「ですから、潤沢に使えるんです。あと、大盾は総オリハルコン製ですよ」


 アルフォンスが得意気にそう告げると、冒険者たちは声を失う。

 この剣と盾の素材だけでも、かなり高価な品となる。


 だが、それだけでは終わらない。


「ちなみに、剣には【不壊・中】【貫通・中】【切断・大】【魔力伝導率・中】の4印。盾は【物理耐性・大】【魔術耐性・中】【不壊・中】【自己修復】【軽量化・大】の5印です」

「「「「……………………は?」」」」


 まさかのユニーク込みの複数の印と聞き、冒険者たちは言葉を失う。


「まさか……」


 そうつぶやいたバレットが近くの大岩に剣を突き刺すと、まるでそこに何もないかのようにスッと剣が突き刺さる。


「「「「うおおおおおおっ!!」」」」


 冒険者たちのテンションが高くなり、つい叫び声が上がってしまう。


「何があった!」


 冒険者たちの大声で、グルックたちも慌ててやってくる始末。

 もはや収集がつかなくなっていた。


「ワハハハハ!軽い!軽すぎる!!」


 次に大盾を持ったバレットは、想像以上の軽さに笑いが止まらない。

 大盾を縦横無尽に振り回す。



 こうして、冒険者たちは理解する。

 アルフォンスの鍛えた武具は国宝クラスに匹敵するほどの逸品なのだと。


「これで試作品だと?そりゃあ、王都の名工の武器屋をボッタクリ扱いするわけだ……」

「本気で作ったのはどんな物なんスカね?」

「手甲もあるかな?」

「錫杖もあるかな?」

「ワハハハハ、ワハハハハ!!」


 冒険者たちがアルフォンスに感服している横では、商会の面々がまた何かアルフォンスがしでかしたのだと悟る。


「おい、何があった!」

「またアルフォンスくん絡みかな?」

「アル……またやらかした?」


 そんな冷めた目を向けられて、苦笑いするほかないアルフォンスであった。


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