崩れ去る建物と精神
春嵐
01
万能の、能力ではなかった。
ときどき、何かの未来が見える。その程度。ときどきだし、朧気。見えた未来も、かなり簡単に変えることができる。そういう、不安定な、何かだった。
「では、HRをはじめますっ。先生に代わりましてクラス雑用係のわたしがっ」
彼女。はきはきと、明るく、教壇にたって。
「といっても、毎回ほとんど講義内容もクリアしてますし、道徳も授業としては終わってますので、自由です。先生、いいですよね?」
彼女。クラスの中心的存在。
「というわけでっ。明日の過ごし方を考えましょうっ」
明日。
この校舎に、人間は立ち入れない。
自分が裏で手回しして、防火設備の点検という名目で全ての学校昨日を強制的に停止させた。
「カラオケとかっ。いいですねっ」
はきはきと明日の遊びの予定を立てていく彼女を、ぼうっと眺めた。
「どうしますかっ?」
こちらに話を振られる。カラオケに来るかどうか、という意味らしい。
「俺は、用事があるので」
校舎に誰も入らないように、見張らなければならなかった。
「わかりましたっ。来たいときはいつでもわたしに言ってくださいねっ」
窓の外。校舎と、校庭。眺める。
この校舎は。
明日。
倒壊する。
そういう未来。
倒壊そのものを止めるより、誰も校舎にいないタイミングを作り出してしまうほうが楽だった。すでに、新しい校舎も建築されて完成まであと少しだった。倒壊に間に合うかは、分からない。
そして、彼女。
教壇で、先生や生徒とコミュニケーションを取りながらHRを行う彼女。
彼女は、数日のうちに。
考えても、しかたのないことだった。人は、いつ、どうなるか分からない。明るく振る舞っているからといって、明るい未来が待っているわけでも、ない。
まずは、目下の校舎倒壊に対処するほうが先だった。彼女は、まだ数日の猶予がある。
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