第5話 再び花の高校生活が始まる(あの時の小学生が目の前に!)
仕事を終えて、叔父が俺に行った。
「仕事を覚えるのもいいが、お前高校へもう一度行った方がいいんじゃないのか?」
「そんなあ、俺はもう学校は行かなくたっていいよ。学校生活は向いていないみたいだ」
「無理しなくていいんだよ。高校を中退してここへ来た時の、お前の悔しそうな顔ったらなかった。それになあ……」
「それに?」
「高校生を見る時の、羨ましそうな顔を見ていると、やっぱりここでこき使ってちゃいけないんじゃないかって、後ろめたくなってな。会社の仕事も、細い体で無理してるんじゃないかと思って……」
「いやあ、無理はしてないけど。そんなふうに見えるのかな……」
「考えてみろよ。まだ若いし、チャンスはあるし、アルバイトしながら通う方法だってあるんだ」
「うん。考えてみようか……」
俺は即答できなかったが、そう言われて悪い気はしなかった。それほど勉強が好きだったわけではないが、未練はかなりあった。う~む、これから高校生になるのかあ。どうだろう。
だけど、この年で高校生に見えるか? 絶対年上に見えるだろう。女子高生になんか、先輩呼ばわりされるかもしれない。むしろ避けて通られるかも……。いや、待てよ。女子高生と同級生になれるんだぞ。こんなチャンスは、人生初じゃないか。逃す手はないっ!
ということで、俺は高校生になることにした。卒業資格を取るためなら大検もあったが、通ってみるのも面白そうだった。
入試に合格し、初めて教室へ入るその日、俺はかなり緊張していた。ここ定時制では、あらゆる年齢の生徒が来ているのではないかと思っていたからだ。しかし、ぱっと見には中学を卒業したばかりと思しき年齢の生徒たちが大半を占めるようで、自分より年下に見える。私服で登校していいことになっているのだが、敢えて高校生に見えるようなジャケットとやブレザーに、チェックのスカートを履いている女子生徒も見受けられる。俺は、興奮してきた。へんな意味ではない。おじさんたちの間で働いていた俺は、若い人たちと出会えるワクワクドキドキ感で一杯になった。それに、女子高生を見るのは久しぶりだ。実は、心の奥底では憧れていたようだ。
番号順に指定された座席に座り、ちらちらと周囲を窺がった。うおっと、隣には、叔父さんと思しき人が座っていた。こちらを向いてにっこりと挨拶してきた。
「こんにちは。いやあ、学校なんて久し振りでね、よろしくな」
「ああ、こちらこそ、よろしくお願いします」
「おれ向山。社会人なんだ。家内に勉強してくれば、って言われて、考えに考えてようやく決心してきたんだ」
「そうなんですか」
皆色々大変なんだな。年上に対して、偉いですねとは言えず、そう答えていた。
でも、敢えて社会人だと言わなくても、社会人にしか見えない。四十代か五十代だろうな。
「僕は明月です。僕も二年ぐらい働いてから来たんです」
「そうか。色々大変なんだね」
「まあ」
「これからは、協力してやっていこう。と言っても、若い子の方が優秀だろうな。俺の方が教えてもらう方かな。ワハハ……」
「僕の方こそよろしくお願いします」
俺は、言葉少なにそう言った。もう絶対に、同級生とトラブルを起こしたくない。周囲の様子を見てから、行動する必要があるだろう。クラスは四つあり、俺のクラスは、一番端の一組だった。その後講堂での入学式が終わり、皆ほっとして教室でリラックスしていた。後ろから二番目の席に座っていた俺は、何気なく前方の生徒たちの様子を見やった。
―――おお!
―――目の前にブレザーを着た女子が、三人ほど並んでいるではないか!
感動で、目がウルウルしそうになった。いいなあ、女子のブレザーって。そして彼女たちの後姿を、順番に見た。
すぐ目の前にいる子は、長い髪の毛を肩まで垂らしている。その髪の毛は教室のライトに照らされて、キラキラと光っている。キューティクルというものだろう。そのさらさらと流れるような髪の毛の美しいこと。それだけ見ても、入学した甲斐があった。体のラインもまっすぐで、背筋はピンと伸びている。頭の先から、背中足の先まで見て言った。脚は、ちょっと前に投げ出したような格好ですっと伸びていている。こんな若い女子を見ること自体が、久しぶりの経験だ。
そして左隣へと視線を移すと、ショートカットの髪を栗色に染めている、キュートな女の子だった。小柄ながら、ぱっちりした目元に引き締まった口元。明日からの学校生活に張り合いが出来そうだ。
右隣を見ると、すらりと細身のタイプで髪の毛を一つに結わえている。今時珍しい髪型をしている。そのせいで、横顔がはっきり見える。ちょっと赤らんだふっくらした顔に、そばかすが少しだけ見える。可愛らしいタイプのようだ。そして、その髪の毛をじっと見ていると……、思考がぴたりと止まった。
―――なんだかこれに見覚えがあるような、どこかで見たことがあるような。
―――そして、こちらを見つめているこいつ、子豚の髪留めだ!
―――そうだ!
―――こんな奴にいつか会ったことがあった。
―――いつ、どこで会ったんだっけ。この豚に!
こういう体験をデジャヴュというのだろう。俺の記憶の中で、一つの経験がよみがえってきて……弾けた!
―――そうだよ。あの女の子に違いない!
―――だいぶ昔、四年くらい前だっただろうか、あの髪留めを付けた女の子、その子に違いない。
―――あんな髪留めめったにない!
当時小学生で、泣いてしまって、自転車に乗り、俺の背中につかまってしがみついていた少女。
―――そうだ、絶対にあの子だ!
―――家まで送ったお礼に、キスをした!
思えばあれが、俺のファーストキスだった。
俺は焦りまくり、一人でじたばたしていた。手には汗をかいていた。するとその子は、俺の視線を感じ取ったのだろうか、斜め後ろを振り向いた。
「な、に、かしら? あたしの頭に何かついてる?」
―――付いてる、付いてる、しっかりあの時の証拠の豚が!
と思ったが、もちろん口に出して言えるはずがない。
「と、特に……な、何も……ついてないよ」
「そうよね」
―――おっ、俺の顔を見たぞ。何か思い出したのだろうか。
―――あれ、あれ、この子繁華街で絡まれていたセーラー服の女の子じゅないか!
俺はこの子に既に二回もあったことがあったんだ。
「あれ、あれ、あれ、君はあの時の!」
「あ~~、あ~~、あ~~、そのようです」
―――こんな偶然があるんだ!
―――小学生の時に出会った少女が同じクラスにいるなんて……これは運命の悪戯か!
―――そして、これから俺の学校生活はどうなるんだろうか!
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