レグルスのカギ
marushi SK
prologue 金の女神
鬱蒼とした森が途切れた空間に、静かな水面をたたえる湖がある。
普段は誰も寄り付かないその場所に、今は三つの人影があった。
一人は十歳前後に見える少年。その隣には同じ年頃の少女。そして、二人を見守るように後ろに佇んでいるのは、刀を背負った二十代半ばに見える男だった。
見た目では関係性のわからない三人である。
少女が不安げな表情で崖の上から湖を覗き込んでいると、ふいに水面が輝き始めた。
驚いてのけぞる少女の目の前に光が集結し、一つの形を作り上げる。
全身が黄金に輝いている女神──三人にはそう見えた。
『あなたの願いを聞きましょう』
言葉を失った三人の頭の中に直接響いてくるような声だった。
少年が少女の背中を軽く叩いた。まるで大丈夫だ、と言うように。
促され、少女は両の手を祈るように組みながらおそるおそる口を開く。
「私の……私の人の心を読める能力にカギをかけてほしいんです」
見上げてくる少女に、金の女神は感情の見えない視線を向け、一度目を閉じた。
そしてゆっくりと開くと、静かに答えた。
『わかりました。あなたの望みを叶えましょう。あなたの心にカギをかけます。また、その心を解放したい時はカギを使いなさい』
その言葉と共に、女神が差し出した手のひらの上の小さな光の中から金のカギが現れた。まるで目の前の湖上に浮かぶ女神を模したようなカギだ。
少女がカギを受け取ったのを確認すると、女神は出現した時と同じように光と共に姿を消した。
やがて少女は少年と顔を見合わせ喜び合う。
終始を見届けた男は、はしゃぐ子供たちから視線を外し、女神が浮かんでいた水面を見つめ──静かに瞳を閉じた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます