第5話 乱数発生プログラム

寺山は、診療所近くの馴染みの居酒屋に僕を連れて行くと

「ここは、安くて旨いつまみが有るんだ。」そう言うと、古風なかめに入った焼酎を持ってきて、素焼きのコップに継いだ。つまみは、ナガラミや、マグロのカマ肉やウナギの肝の煮つけ等が出てきた。元々、この店は、うなぎ屋だったらしいが、今では居酒屋兼鴨料理の店の看板を掛けていた。

「その金に興味を無くした金持ち達の事を、聞かしてくれ。」そう言いながら、ストレートの焼酎をグビグビ飲み始めた。此奴も、ストレスを抱えた人生を送っているな、と思いながら

「個人の投資家以外にも、所謂、ワンマン経営の企業家でも同じような傾向だ。まあ従業員を路頭に迷わせるような事態ではないが、自分の利益を気前よく会社や外に分配している。ある投資家は、自分が後生大事にしていた絵画コレクションを公立の美術館に寄付した挙句に、資金援助して入場料をタダにした。別の金持ちでは、頓挫していた、宇宙開発計画に資金提供して再開させたり、その他では、内戦が続いていた小国に、外人部隊を送り込んで停戦させた挙句に、インフラ整備までやりだしている。これまで利害が絡まなきゃ動かなかった大国を出し抜いて、各個人が自分達の善意をばら撒いている状況だ。それでも世界経済はそれなりに回っているんだが。今までこんな金持ちは、裏で何をやって来ていたんだと言わんばかりに、表に出てきて、自分の資金をよく考えられた方法で善意の為に使っている様な感じだ。」ぼくの少々長い話に

「巨大隕石でもぶつかってくるのか?」

「有り得るかもしれないな。俺達が知らないだけでね!でも、そう言う大きなイベントが有れば、資金の流れは一定の方向を向くものなんだが・・・まるでバラバラだ。国家レベルでも、この金持ちの動向に戸惑っている様だ。ただ、違法じゃないし、税金もチャンと収めているから、文句のつけようがない。」

「ふーん、特定の宗教に染まったって感じでは無いな。所詮宗教は金儲けの手段にしかすぎないからな。」

「昔、留学してた頃の話なんだが、AIのアルゴリズムを解析して居た頃、乱数を発生させた行動予測みたいなプログラムで、AIでの未来予知を研究していた時に、例えば高分子やRNAとかだが、体が長いか複雑な奴は、大体酔歩の理論に従って、最初に発生した事象の周りをうろうろしながら、終わるんだ。つまり、図体が大きくて複雑な奴は、保守的てわけだ。突拍子も無い様な行動には出ない。その対象物をだんだん小さく簡略化してやると、モニターの画面一杯に動き回り、ある時突然に一定の秩序、つまり画面の一方向を向いて突き進みだすんだ。ねづみの集団自殺みたいに。でもそのプログラムの条件を少し変えてやると、ある時からその対象物が秩序を持った動きをする。星を書いたり、綺麗な幾何学模様になったりするんだ。その条件て言うのが、このプログラムは有限時間だって言う要素なんだ。つまり、お前たちはやがて死んじゃうよて言う条件で、AIは自分たちの現状置かれている状況を最善の物にしようと努力し始める。」

「ふーん、おもしれいな。悟りでも開いたか!」そんな相槌をしてから、寺山は焼酎を注いだ。

「まあ、人間の場合は、死ぬ事は理解しているから、そんな単純な行動では終わらないと思うけど。」僕らは、学生時代に戻った様な、議論をしながら焼酎を酌み交わしていた。

 大分酔いが回ってしまった寺山は、座敷でごろ寝を決め込んでいたので、僕は、女将に後を頼んでから帰宅する事にした。

「先生は、何時もあんな調子なのよ。」彼奴の扱いは慣れている様だな、と思い、女将にそれなりのチップを渡してからタクシーに乗った。

 明子のアパートから一寸長い寄り道してから、マンションに帰ると、僕も酔いが回っていたので、シャワーを浴びると、直ぐに寝てしまっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る