神ひな川の反省会

お礼を兼ねた反省少なめライナーノーツ

 第一回神ひな川小説大賞、お疲れ様でした!

 今回は川系企画トップタイの参加数でまさしく氾濫の体でしたね……(喉元過ぎれば氾濫を忘れる元闇の評議員)。また、評議員の方々の愛と熱のある講評の重みでどんどん増えていく字数は圧巻でした!

 これはお礼をせねばならない……ということで、ライナーノーツを兼ねた講評へのお返事をしていきます!


‪第一回神ひな川小説大賞 大賞は 辰井圭斗さんの『イスマイール・シャアバーニ』に決定!|神崎ひなた @usamiharu0330 #note https://note.com/usamiharu0330/n/n5f00eeeb7d8b‬



『ハッピーエンドへの導き方』


 一番槍を取るためにチューンナップした作品です。主催の神ひなさんのテーマ決め打ち……というか、ハッピーエンドとペガサス概念から『幸福な死』というテーマを作り、そのためのフックとして『ネタバレ』を配置しました。参考にしたのはこづかい万歳のステーション・バー怪人とfgoのマーリンです。生の映画を観てるようなもんだよ……。



〈謎のハピエン厨〉


 三番槍、狐さんの作品は、死神と出会ったある男性の物語でした。死神という要素が登場すると、お話がどうしても暗い方向に行きがちなのですが、そこはうまく操縦されていて、登場人物にとっての命題、「人生」と「ハッピーエンド」についてしっかり書ききっていると感じました。

 主人公の心中は複雑です。振り返ってみれば幸せな人生だったけど、それはすべて死神によって演出された物語に過ぎなかったのではないか。そして、そんな人生を「幸せだった」と感じていいのか。しかし、彼の胸にはどうしようもなく「幸せだった」という実感がある……。

 本当の最期には家族への想いと共に、「陳腐で見え透いた幸福な終焉、ハッピーエンドだった」で物語が閉じられる。複雑でありながらも、そう想って死んでいけることは、ぼくは幸せなのだと思います。死は本当になんの前触れもなく訪れます。必ずしも、誰もが家族に看取られて旅立っていけるとは限りません。ですからぼくは彼が幸福に物語を閉じられたと思っています。狐さんはサイバーパンクの世界だったり、登場人物のキャラクターから発せられる言葉を操るのが巧みな書き手さんだという印象があるのですが、今回はまた違った良さを感じさせていただきました。

 ハッピーエンドについて考えさせられる、短いながらも深い物語だと感じました。面白かったです。



〈狐のお礼〉


 講評ありがとうございます!

 この作品のハッピーエンド概念はかなり意地の悪い取り扱い方をした自負がありまして、他の方の感想でも男が幸福だったかは評価が分かれたんですよね。僕はネタバレ許容派なんですけど、昼ごはんくらいは自分で決めたいし……。

 死神のキャラ性も僕の中でかなり塩梅の調整に苦労したんですよね。ムカつく感じと可愛げのある感じの両立がうまく伝わればいいかな……。



〈謎の金閣寺〉


【『ハッピーエンド』の主体と客体】

 ネタバレを嫌うひとりの男性が、逆に平気でネタバレしてしまうタイプの男性と出会って、いろいろ揉めたりするお話。

 という、上記の一文はほとんどただの導入部分でしかないのですが。でもこの『ネタバレ』という要素の使われ方がなかなか面白いというか、物語の入り口として機能しながらもガッチリお話の本質に食い込んでいて、思わずむむむと唸らされたような部分があります。

 タイトルの通りこの物語は『ハッピーエンド』にまつわるお話で、そしてなるほど『ハッピーエンド』という概念は、その名前そのものが重大なネタバレの要素を含んでいる、という事実。いや普通に当たり前のことではあるのですけれど、でもそれを〝実際にやる〟とどうなるか、という形で物語にしてしまう、その発想そのものに小気味よいものがありました。

 ここから先はややネタバレを含みます。

 構成が面白いです。前編と後編でくっきりふたつに別れたお話。前編だけを見るとちょっとしたショートショートのような趣ですが、それを踏まえてさらに踏み込んでくる後編の感じがとても好きです。物語の芯というか、面白みを感じさせる部分の変調ぶり。オチの切れ味が魅力の口当たりの良いショートショートから、読み手の思考や感情を動かしてくるどっしり手堅い内容へ、というような。要は落差と言えばそうなのですけれど、でも別に前編後編で話が切り替わっているというようなことはなく、文章やお話はスムーズに連結した上でのそれというのが大変綺麗で好みでした。

 さらにネタバレ気味になりますが、やっぱり好きなのはその後編で語られている内容。主人公に共感、というか彼の立場になって考えたときの(ここが地味にうまいというか、単純な共感でなくこっちから彼の身に立って考えるように仕向けられている感じがもう大好き)、このなんとも絶妙な座りの悪い感じ。隔靴掻痒というかなんというか、きっと非の打ちどころのない幸せな終幕なのに、でもそこに行き着くしかなかったこの状況そのものに納得できない感覚。ちょっと捻れたようなこの不思議な状態を、そのまましっかりひとつのお話の形に仕上げてしまう、その構造というか構成というかがとても美しい作品でした。



〈狐のお礼〉


 講評ありがとうございます!

 構成とか構造が褒められるとニコニコしてしまいますね……。まさしくハッピーエンド概念は観客にとってのものと舞台上の登場人物にとってのものがあって、観客に操作される形でそっちに進まないといけない……みたいな形は、ある種ノベルゲー的なハッピーエンドの書き方として意識した部分ですね。バランス感覚としては、露悪的になりすぎないことを意識しました。

 男は最終的に自分の末路を悔しげに納得してしまうんですけど、これは僕自身の実体験も混ざってます。自分が納得していない選択肢の先に幸せを感じてしまった諦念みたいな概念、割とあると思うんだよな……。



〈謎の念者〉


 一番槍レース三番手の狐さん。神速勢だ……

 ネタバレ否定派の主人公が酔った状態でネタバレ肯定派に絡んでしまうが、実はネタバレ肯定派の男は死神で、そいつは主人公の人生を操作し始めた……というような筋書きのお話です。「ハッピーエンドとは」という命題に正面から向き合い形とした作品と言えましょう。

 主人公は(恐らく人類一般から見ても)幸せな形で生涯を送り、そして閉じることとなったでしょう。しかし、それは結局死神の干渉の結果に過ぎず、そのことが主人公に不快感を覚えさせ、単なるハッピーエンドとは一線を画した終わり方を感じさせます。

 勿論人生というものは独立したものではありえず、常に他の存在からの干渉を受け続けるものでもありましょう。ただ、「他者の道楽のために」「単一の方向性に誘導される」という点がとても不気味で、不愉快なものだったのかな……と。私なんかは他者の操作の結果であっても不幸な人生を歩むよりはずっとマシではないか何て単純に考えてしまうのですが、実際にそういう目に遭ったものであればそう単純に割り切れるものでもないのかも知れません。「あぁ、とても楽しい、幸福な人生だった。だからこそ嫌なのだ」という独白が全てを象徴しているように思えます。

 また、命が尽きようとしている主人公と太陽が没していくシーンの美しさも目を引く所でした。

 狐さんは毎度思いますが「二者の思想的な懸隔や対立」を軸に話を動かすのが本当に上手いなと思います。もう芸の域だと思うのでこれからも突き詰めて尖らせていってほしいなと思ってます。



〈狐のお礼〉


 講評ありがとうございます!

 思想的な対立、前作の『水神とナイフ』や『義体探偵』でも取り扱ったんですけど、テーゼ・アンチテーゼ・ジンテーゼは最近意識している部分ですね。これは二作目でも要素に組み込みました。

 ネタバレ容認派とネタバレ拒否派の対立は根深いんですけど、人生のネタバレになってくるとテーマとして重厚感が出ましたね。プッチ神父現象だ。

 落日と寿命のモチーフ、王道だけど好きなんですよね……(朝焼けと黄昏の概念が特にすき)


『ルート254の旅人』


 いつもタイトルを間違えがち。サブテーマは『天使』と『選択肢』。モチーフとしてポルノグラフィティの『ハネウマライダー』とMIU404の分岐点の概念を意識しました。(ハネウマは書いてる途中に閃いてイメソンとして扱いました。歌詞とかかなり意識してるよ)

 天使は神ひなさんの作品『ソラシド』で用いられたテーマだったので、主催者を狙うために配置することを決めていました。あとはもう完全に手癖。好きなものを盛り付けた。



〈謎のハピエン厨〉


 狐さんの二作目です。走り屋の男が翼の折れた天使と出会う、逃避行の物語。めちゃくちゃ好きでした。

 荒廃を感じさせる世界観に、天使という存在を放り込む発想が素敵だと感じました。お話もきちんと起承転結の段階を踏んで進んでいくため非常に読みやすかったです。

 また、主人公が真っすぐで、爽やかで、終始を好感を持てるような好青年として物語を牽引していく様子が、読み手として頼もしく映り、また物語の盛り上がりに拍車をかけてくれたように感じました。

 クレーターを天使の羽で飛び越えていくシーンなんかも、アインズの信念を演出するシーンとして非常に効果的だったと思います。

 物語の閉じ方もすごく良かったです。未来に対する希望とこれまでの選択、これからの選択について想いを寄せて走り去っていく、二人の後ろ姿がなんと爽やかなことか。

 二人きりの物語を非常に上手に描かれた作品だと強く感じました。個人的に五億点です!



〈狐のお礼〉


 講評&中間ピックアップありがとうございます!

 SF世界に概念としての天使をぶち込むの、めちゃくちゃ好きなんですよね……。荒野とバイクなら翼を折った天使が映えるだろうって判断です。(描写イメージもアメリカンな感じ)

 主人公である九十九は、真っ直ぐにしか進めない人間として設計しました。ルート254という直線道路に全てを委ねて、ただ自分の背中を追うために走り続ける。自ら選択肢のない道を進むという点でアインズと対比させる形ですね。

 2人きりの物語は『スタッフド・パスト』や『塵迅パルス』から書き続けているテーマなので、めちゃくちゃ好きなシチュエーションなんだな……って自分でも思いました。色んな乗り物で荒野の旅路を走らせてる気がする。



〈謎の金閣寺〉


【もうただひたすら格好よくって気持ちいい!】

 どこまでも続く真っ直ぐな道の途中、翼の折れた天使をなぜだか拾ってしまった、とあるバイク乗りの旅路のお話。

 SFです。とても気持ちの良い終末系SF。本来ならまったく交わることのなかったであろう対照的なふたりの、冒険の旅路というか一種の逃亡劇というか、なんだったらある種のロードムービー的な物語。いやロードムービーという語の使い方があっているかどうか自信がないのですけれど、でもその言葉のイメージがぴったりくるというか。

 見渡す限り一面の荒野、ただまっすぐ伸びる直線道路と、そこを突き進む改造ホバーバイク。映画的な画の強さがあって、しかもそれがストーリーをそのまま象徴しているので、物語に入っていきやすい。その上でこの〝道〟が本当にいい仕事しているというか、ただの設定に終わらずテーマ性の部分までしっかり担っていて、総じてものすごく綺麗に組み上げられた物語だと思いました。いろんな要素の使い方がすごい。

 まず登場人物が素敵です。彼らのキャラクター性というか、その存在が非常に対照的であるところ。折れた翼を背に生やした少女と、ハードな世界に生きる走り屋の男性。全然違う世界の生き物、というのは実はまったく字義通りの意味だったりして、しかもそれぞれの暮らす世界を象徴するかのような役割を果たしているのがまたすごい。先ほど『終末系SF』と書きましたけれど、実はこのお話にはもうひとつの顔があって、同時にディストピアSFでもあるんです。

 まるで天使のような姿の彼女、アインズの暮らしていた『上』の世界。対する主人公ツクモの生きる世界、すなわち彼女の落ちた先は『下』であり、それは『上』からの落下物によってかなり不便な立場に置かれた世界。ある種の格差によって分たれているのは間違いなくて(少なくとも下よりは上の方が安全)、では『上』の世界が幸せなのかといえば、決してそうとも言い切れない——というか、まさにディストピアそのものの管理社会であるという。

 この対照的なふたつの世界を、対照的なふたりがそれぞれ象徴して、でもふたりはいずれもその世界の代表でおなければ平均でもなく、むしろイレギュラーにならんと欲する存在であること。そしてそれが故に始まる冒険の、そのきっかけでもありまた原動力でもあるのが、お互いにとってお互いの存在である——という、もうなんでしょう、この構図やら関係性やらのえも言われぬ気持ちよさ!

 すんごいです。こういう細かな要素を相対化させることで物事を描き出す手法というか、練り上げられた設定のひとつひとつがもう全部好き。例えば、天上の鳥籠を逃れるために彼女がとった行動が、なんと「翼を折る」だったこととか(普通は翼って羽ばたいて逃げるためのものですよ?)。あるいは無力な少女を手助けするヒーローであるはずの主人公が、でも同時に彼女のおかげで〝道を外れるための力を得ている〟ことも(それも意識的なもののみならず、物理的にも力を与えているからすごい)。こういういろんな要素の逆転やら対比やら、それらがあちこち幾重にも張り巡らされている上に、しまいには相互に連携しあってより強みを増すかのような演出(構造)。

 いやもう、本当に気持ちが良かったです。そして書くタイミングがなくて最後になっちゃいましたが、純粋にキャラクターが格好いいのも嬉しい。それもいわゆる『強キャラ』的な格好よさでなく、姿勢や生き様から滲み出る魅力。立ちはだかる世界に打ち勝てるほどの力や異能があるわけでもないのに、でも決して臆せず前を向くふたり。いやふたりでいるからこそ前を向けること。きっとどこまでも進めるだろうし、むしろ進む先がふたりの道になっていくのだろうなと、そんな確信を抱かせてくれる物語でした。本当に爽快! ふたりとも大好き!



〈狐のお礼〉


 講評ありがとうございます!

 映像的な画の強さは僕自身も意識してるポイントで、ロードムービーの脳内イメージとして『イージー・ライダー』とかジブリの短編『On Your Mark』のワンシーンをすごく参考にしました。

 少女が翼を折って逃げたのは、キャラクター性の演出としての部分と僕自身の趣味の部分がありますね……。空を飛ぶのが当たり前の世界から逃げるとなると翼を折る選択肢は普通にあると思うし、アインズの下の世界に対する期待を象徴しているわけです。それ自体が大きな選択である、そういう行動なわけですね。そんなある種の逸脱した存在に翼を持たせるのは、まんま前作である『滞空日和』からの着想です。

 対比構造大好きのオタクとして、これからもガンガン書いていきます!



〈謎の念者〉


 一番槍レーシング参加者の狐さんの二作目。荒野を走る走り屋と、折れた翼の天使のお話。異なる世界に暮らす二人が出会い、一蓮托生となる物語ですね。

 まず舞台設定が素敵ですよね。荒野を走り屋が疾走する様も、警察とカーチェイスを繰り広げるシーンなどは映像映えしそうですし、映画化して劇場で見ると迫力がありそうな絵面が容易に想像できてしまいます。

 それと、二人の世界の違いなんかも面白い要素の一つです。地上は地上で落下物のせいで気が安らかではないし、天上の世界は天上の世界である種のディストピア物のような制度設計がされている、という。異なる世界を出自とする二人が出会ったのが、二人がまさしく「規範から外れる」存在であったからというのが良いですよね。ツクモはツクモでバイクの違法改造に手を染めるアウトローですし、アインズはそもそも天上の世界の管理社会ぶりに閉塞感を覚えて逃避した身です。そういった意味で二人は生まれは違っても共通するものを持っているんですよね。

 前述しましたが、映像化されてほしくなるような小説でした。


〈狐のお礼〉


 講評ありがとうございます!

 九十九とアインズの一蓮托生感も書いているときに意識したポイントですね。どちらかがどちらかを助けるのではなく、お互いに助け合う関係が好きなんだよ!!! という感情を込めた結果、99と1という象徴じみた名前になりました。

 アウトローぶる割に長いものに巻かれたがる九十九がバイクの違法改造に踏み切ったのはアインズに出会ったからで、そういう意味では九十九にハンドルを切らせた存在なんですよ。だから一見対極に見えて似た者同士なんだよな……。



 愛のある講評をくださった闇の評議員のお三方、Twitterやカクヨムのレビュー等で感想をくださった皆さまに敬意を表しつつ、反省会を終わらせていただきます。ありがとうございました!!!!!

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神ひな川の反省会 @fox_0829

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