episode4 デモンズイーター①
(女だったのか⁉)
マントを脱ぎ捨て姿があらわになったデモンズイーターの姿にジルドは唖然とした。ジルド自身が悪魔と断じたように、流れてくるデモンズイーターの噂はそのどれもが恐ろしいものばかり。なので勝手に男だと思い込んでいたのだ。
ジルドは自然と後ずさりながらデモンズイーターを見る。
(おかしな話だが女神が降臨されたらこんなお顔をしているのかもしれない……)
デモンズイーターはジルドが今までに見てきたどの女よりも美しい顔立ちをしていた。神と悪魔は表裏一体と声高に唱えたのは誰だったか。
初めて目にする白金色の髪が彼女の神々しさを際立たせている。身に着けている軽装鎧はどうやら希少中の希少である
中でもジルドをもっとも強く惹きつけたのは、
この世のものであってこの世のものでない。まるで
「僕の話は聞いていたね?」
少年の問いに対し、デモンズイーターは屈伸運動を始めながらコクリと頷く。
「うん。相手はダゴ……ン」
初めて聞くデモンズイーターの声は見た目とは全くの正反対だった。少なくともジルドにはとても幼いものに聞こえたのだが、返ってそれが酷く恐ろしいものに思えた。
「いつものようにやり方は任せる。あとわかっているとは思うけど──」
「大丈夫。〝霊核〟は絶対に傷つけな……い」
「なら行っておいで。くれぐれも油断しないように」
「うん、太郎丸はわたしがいない間、ちゃんとリアムを見ているんだ……よ」
「案ずるな。さっさと倒してくるがよい」
デモンズイーターはコクリと頷き、
「じゃあ行ってく……る」
言うが否や一陣の風を残して、デモンズイーターはジルドの前から姿を消してしまう。当然なにが起こったのかわからないジルドは、名前が判明したリアムに視線を移した。
「あのデモンズイーターはどこに消えた?」
「え? 今のを見ていなかったのですか?」
「……見えねぇよ」
リアムは驚いたように目を何度か瞬かせた後、今度はひとり納得して頷いた。
「なんだよ。その妙に納得したような顔は」
「それは気になさらずに。ちゃんと悪魔の下へ向かいましたのでご安心ください」
リアムはデモンズイーターが脱ぎ捨てたマントを拾って汚れを丁寧に落とすと、太郎丸を伴ってそそくさとこの場から立ち去ろうとする。
ジルドは慌てて声をかけた。
「ちょっと待て。どこに行くんだ?」
「どこって、ここで突っ立っていても仕方ないですから。彼女が〝駆除〟を終わらせるまでの間、どこかその辺の店で待たせてもらいます」
「リアム、我輩もちゃんと店に入れるのであろうな? 可愛いワンちゃんお断りではなかろうな?」
「田舎町だから大丈夫じゃないの?」
「そうは言うが今泊まっている宿屋は最初可愛いワンちゃんお断りであったではないか」
「あそこはこの町で一番格式高い宿屋みたいだから。とにかく行ってみればわかるよ」
歩みを再開させるリアムと太郎丸。交わされていた呑気すぎる会話を聞いて、ジルドは大いに呆れてしまった。
「こんなときに店なんかやってるわけないだろ!」
この状況で商売をする者がいるとすれば、それは余程の命知らずか阿呆のどちらかだ。そして、間違いなく後者であろう、と。
足を止めた少年は一瞬の間を置いた後「ああ」と得心したように頷いて、
「言われてみれば確かにそうですね」
「なんじゃ、やっておらんのか。吾輩五色団子が食べたかったぞ」
「やっていないものは仕方がないよ。──じゃああそこで待たせてもらおうか」
言ってリアムが向かった先は、町の象徴である樹齢五百年の老木だった。木の幹にゆったりと背中を預けたリアムはカバンから二冊の本を取り出し、そのうちの一冊を読み始める。
平時であればなんてことのない光景だが、今このときに至っては不自然極まる光景である。だが、それ以上の光景がジルドの目の前で行われていた。
「──おい」
「……なにか?」
リアムは生返事をするだけでこちらを見ようともしない。
ジルドは強めに声を発した。
「おい!」
「だからなんです?」
面倒くさそうに顔を上げたリアムに、
「色々とおかしいだろう」
ジルドはリアムを睨みつけたまま隣に座っている太郎丸を指差した。
太郎丸は前足の肉球を使って器用にページをめくりながら、リアムから渡された絵本を当たり前のように読んでいる。
「この絵本は本当に
満足そうに頷く太郎丸へ面倒臭そうに視線を向けたリアムは、
「なにがおかしいのですか? 私には絵本を読んでいるだけのようにしか見えないのですが……」
心底わからないといった表情を向けてくるリアムに、ジルドは次に言うべき言葉を失った。
フサフサの尻尾を揺らしている太郎丸はジルドを見上げて、
「
「聞いてないし、用意するわけないだろ!」
「まぁまぁ。時間はそれほどかかりませんから大人しく待っていてください」
そう言って何事もなかったかのようにリアムは再び本に視線を落とす。
(もう俺の理解の及ぶところじゃねぇ)
完全に
(こいつも大概だな)
ジルドはこれ以上ないくらい大きな溜息を吐くのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます