第421話 イブだからってカップルだと思ったら、大間違いだよ!


 筋男くんと育子ちゃんは、こんな日でも募金活動に勤しむらしい。

 恵まれない子供たちのために。

 彼らは受験生だが、この日だけは、在校生と活動を頑張りたいようだ。

 なんでも、卒業してもみんなで聖夜に募金を頑張ろう! と意気込んでいるのだとか。


 これには俺も、昨年彼らに吐き捨てた『偽善行為』という言葉を、撤回しなければならない。


「筋男くん。育子ちゃん。悪かった……君たちのことを偽善だと言ってしまって」

 そう言って、頭を下げると、2人は首をブンブンと左右に振り、慌て始める。


「いいえ! 私たち、好きでやっているんで!」

「そうです! 逆にあの日、ドスケベ先生が言ってくれなかったら、きっと僕たちは活動を止めていたと思います」

「そうか……なら、俺は君たちを信じていいんだな?」

 俺がそう言うと2人はお互いの顔を見つめ合う。

「「え?」」

 

「来年も、再来年も、そのまた3年後も。毎年、お前たちが活動をしているか、見に来てやるよ」

 たった1人の言葉が、ここまで彼らを動かしたのなら、更に俺の言葉でその信念を強くしてやろうと思った。

 まあ、いじわるでもあるが……。


 だが、俺のそんな傲慢な態度すら、2人はクスクス笑い始める。


「ドスケベ先生なら、そう言うと思っていました!」

「負けませんよ! 毎年、見に来てください! ドスケベ先生」


「ハハハッ……頼もしいな。それより、君たち。いい加減、そのペンネームを使うのはやめなさい」

 最後の方は、かなり口調を強めたが。

「「分かりました。ドスケベ先生!」」

「……」

 仕方ないか。

 

  ※


 筋男くんと育子ちゃん達と別れ、俺とアンナは再度イブの取材を始める。

 アンナが「身体が冷える」と言うので、なんか暖かいものでも飲もうと提案。

 近くにあった屋台へと入ってみる。


 メニューを見るより前に、その独特な甘い香りが不快に感じる。

 しかし、これは俺個人の問題だ。

 その証拠に、アンナは手を叩いて、喜んでいる。


「うわぁ☆ チョコのいい匂いがするぅ~ ホットチョコレートだって! 飲みたい!」

「そうか……じゃあ買おう」

 チョコが嫌いな俺は、絶対に飲まない。


 屋台の中で、大きな鍋をかき回すお姉さんに声をかける。


「すいません。ホットチョコレートを1つ下さい」

「お1つで、よろしかったですか?」

「ああ……じゃあ、ホットコーヒーってあります?」

「ございますよ」

「なら、それを1つ。ミルクも砂糖もいりません」

「かしこまりました!」

 

 お姉さんとの会話を、隣りで聞いていたアンナが、クスリと笑う。


「タッくんたら、イブでもブラックコーヒーなんだね☆」

「まあな……」

「でも、寂しいな。チョコが苦手じゃなかったら、一緒に飲めたのにね☆」

「すまん」


 そうこうしているうちにお姉さんから、商品を渡される。

 アンナのホットチョコレートは、マグカップ付きで持って帰れるのだとか。

 俺は紙コップに、暖かいブラックコーヒー。


 うむ、香りはナイス……と匂いをかいでいると、どこからか、怒鳴り声が聞こえて来た。



「お客様! や、やめてください!」

 隣りの屋台からだ。

 若いお兄さんが、客に注意している。

「うるせぇな! 私は客だぞ!? ガタガタ言わずに、もっとワインを入れやがれ!」


 悪態をついている客をよく見てみると……。

 全身ツルツルテカテカなボディコンを、着た卑猥な女性が、顔を真っ赤にして叫んでいた。

 あんな立ちんぼガールは、1人しかいない。

 俺たちの担任教師、宗像 蘭先生だ。


「おかわりでしたら、有料ですので、お金を払ってください!」

「なんだと、コノヤロー!? 教師を敵に回すのか? お前の出身校を教えろ! 私はこう見えて、顔が広いんでな」

 酷い。自分のコネクションで脅しにかけてる。

 

「な、なにを言っているんですか……酔っているのはわかりますが、カスハラですよ?」

「ハラハラうるせぇな! そんなこと言ってたら、何も出来ないだろがっ! ワイン、もっとよこせ!」

「もう、この一杯だけですよ? 内緒ですからね」

 お兄さんがそう言うと、宗像先生の態度は一変し、優しい笑顔になる。

「ありがとぉ~ お兄ちゃん。優しいねぇ、今晩どう? 何時に終わるの? お姉さんが相手しようか」

 うわ……カスハラの次は、セクハラだよ。

 こんなのが担任教師だなんて、恥ずかしい。

 

 しかし、そんな発言にもお兄さんは、顔色変えず一言。

「いえ、結構です」

 目も合わせずに、マグカップにワインを注いで先生へ渡した。

「うへへへ。恥ずかしいのかな? タダでヤレちゃうんだよ?」

 まだ懲りない宗像先生だったが、お兄さんは至って冷静で。

 黙って背中を向け、別の仕事を始めだした。

「……」

 

 イブなのに、酒で寂しさを紛らわしているのか。

 ていうか、あんな大人にだけは、絶対になりたくない。


 俺がずっと隣りの屋台を眺めていた為、アンナが心配して、肩を指で突っつく。


「ねぇ、どうかしたの? 誰か知り合いでもいた?」

「いや……見間違えだ。ちょっと変な酔っ払いがいてな。ここじゃ安心して飲めそうにない。場所を変えないか?」

 宗像先生に見つかったら、面倒くさいし。

「いいよ☆ イブなのに、お酒で酔っぱらう人って、なんか寂しいよね。イルミネーションも楽しめないし、みんなでパーティー出来ないもん☆」

「そ、そうだな……」


 宗像先生、愛する生徒にめちゃくちゃ言われて……かわいそう。

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