第379話 ショタスレイヤー


「うう……新宮さんには、この姿を見られたくなかったですぅ」


 自分で着ておいて、よくもまあ言えたもんだな。

 しかし、改めて彼の着ているコスプレ衣装を上から下まで眺めて見ると……。

 確かに卑猥だ。


 よく見るバニーガールとは違い、全身真っ白だ。

 バニースーツにストッキング、ヒールまで全てホワイトで統一している。



 天然パーマのショートボブからは、白くて長い耳が2つ生えている。

 頬はリンゴのように赤く、とても幼い。俺の一個下には見えない顔つきだ。

 こちらを伺いながら、身体をくねくねとさせ、股間を隠しているように感じる。

 確かに際どいバニースーツだから、自ずと彼のシンボルが誇張されてしまうのは仕方ない。

 俺だったら、絶対にフサフサの毛が大量にはみ出る自信はあるな……。


「ん?」


 そう考えると、思わず首を傾げてしまう。

 隣りに立っているリキも、別府温泉で裸を見たから、ちゃんと毛が生えていたのをよく覚えている。それも剛毛。

 股間だけじゃない、すね毛もだ。

 俺も別に濃いってわけじゃないが、ちゃんと第二次性徴を迎えた自負がある。

 しかし……ミハイルといい、この住吉 一もツルツルのピカピカじゃないか。


 バニースーツの下に、ストッキングを履いているとはいえ、毛が一本も無い。

 女より女らしい細い脚……う~む、非常に貴重な生物だな。


 しばらく、ジーッと彼の身体を眺める。


 特に注目したのは、一の股間。ふぐりだ。

 腰を屈めて、至近距離からじっくりと見つめる……。

 顎に手をやり、考え込む。


「これは……」


 最近、ずっと悩んでいた。

 俺はミハイルに欲情してしまう男……つまり、“そっち”の気があるのではないか、と。

 可愛ければ、誰にでも股間が反応してしまう。節操のない男……。

 否定したくてもできない現状に困惑していたが。


 一の股間は、確かに一般的な男性のサイズからすれば、小ぶりで可愛らしいのかもしれない。

 しかし、見ていても全然感じないんだ。

 1ミリも興奮できない。

 つまり……俺はノンケと言うことだ!


 そう確信した俺は、一に「ちょっと、こっちに尻を向けてくれ」と頼む。

 当然、彼は恥ずかしがるが、年上の俺に対しては従順だ。


「こう、ですか?」


 そう言って、ウサギの尻尾がついたバニースーツを俺に見せつける。

 ミハイルほどではないが、美尻だ。

 小さくて柔らかそう。


「悪いが、少し触ってもいいか?」

「えぇ!? そ、そんな! 新宮さん……なんで」

 顔を真っ赤にしている一を無視して、俺はエナメル生地の尻を撫で回す。

「ふむ……おお。いやらしいケツだ。しかし、それだけだな」

 つい本音が出てしまった。

 だが、これでようやく安心できる。

 股間はピクリともしない。

 やはり、俺はノン気だぜ!


 一の尻を揉み揉みしながら、ひとり頷いていると、叫び声が上がる。


「うわぁん! 酷いです!」

 上を見上げると、バニーボーイが泣きじゃくっていた。

「あ、悪い……男同士だからいいかなって」

「良くないです! 僕のコスを……いやらしいって酷いですよぉ」

「いや、コスのことを言ったんじゃなくてだな」


 言い訳しながらも、彼の尻を揉みほぐしているが。

 泣き止まない一を見て、リキが間に入ってきた。


「タクオ! お前、なに年下の子を泣かせてんだ! 早く離れてやれ」

 首根っこを掴まれ、無理やり一から引き離される。

 ミハイルに負けない馬鹿力だから、冷たい大理石に顔を叩きつけられた。

「いって!」


 そんな俺を無視して、リキは泣いている一の頭を優しく撫でてやる。


「なあ。もうあんまり泣くなよ。俺はそのコスプレってのか? 良いと思うぜ」

 そう言って、親指を立てて笑う。

「え……僕のコス。気持ち悪いとか、嫌らしいとか思わないんですか? 男の人からは結構嫌われるのに」

「そんなこと思わねーよ。自信を持てって。俺は好きだぜ。そのコスプレ」

 リキとしては、あくまでも、泣いている一を励ますための言葉だと思うが……。

 言われた本人が、そうは受けとめていないようで。

 涙で潤んだ瞳をリキへと向ける。

「スキ? 本当……ですか」

「ああ。マジだよ。好きなことやものは、堂々としている方がカッコイイと思うぜ。俺の知り合いが教えてくれたことさ」


 話の流れからして、その教えは腐女子のほのかから、教わったものだろう。

 あいつのは、堂々と晒しちゃダメなやつなのに……。



 その後、BL編集部から地味な腐女子……の社員が降りてきて。

 リキを大事な客として、エレベーターに案内した。


「じゃあな、タクオ! それに、一もな!」

 なんて、笑顔で手を振るリキ先輩。

「おお。また学校でな」

 と俺も床から手を振って見せる。

 だって、未だに身体が痛むからね。

 それにしても……俺がセクハラしたおじさんみたいな扱いになっていて、ムカつくわ。


 受付男子である一といえば、終始俺に尻を向けたまま。

 エレベーターに乗り込むリキを見つめていたからだ。


「……素敵な人」


 俺は耳を疑った。

 思わず、立ち上がり一に声をかける。


「おい、一。何を言っているんだ?」

「あの……ダンディーなおじ様。なんて言うお名前ですか?」

 そう言って、瞳をキラキラと輝かせる。

 涙の輝きではない。

 これはときめく女子に近いものだ。

「え、リキのことか?」

「リキ様……なんてカッコイイお名前なんでしょう。僕、ズキュンって来ちゃいました」

「は? なにが?」

 思わず、アホな声が出てしまう。

「僕のコスを褒めてくれる男性。初めてなんです……なんだか、胸がポカポカして。なんだろう、この気持ち」

 と胸の前で、祈るように手を合わせるバニーボーイ。

「……」 


 博多ってマジな話。

 多いのかな……そっち界隈。

 とりあえず、俺は知らねっと。

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