第四十三章 野郎ばかりのラブストーリー?

第377話 童貞が苦労すること、それはプレゼント選び(女物)


 薄暗い部屋の中、モニターの灯りだけを頼りに、検索を続ける。

 今、閲覧しているサイト名は……。

『これなら、女子も大喜び♪ クリスマスイブにヤレること間違いなし!』

 という怪しいサイトだ。

 まあ、主に付き合っている彼女へあげるクリスマスプレゼントを想定しており。

 ズラーッと写真が縦に並んでいる。

 アクセサリーだとか、バッグに化粧品。あとは女物の服。


 普段、見慣れないホームページを見ていて、頭が混乱してきた。

 目がチカチカする。

 かれこれ、3時間ほど女性向けのプレゼントを紹介するサイトばかり、検索しているせいだ。


 プレゼントをあげる相手の誕生日が近いから。

 来月、12月の23日が、“彼と彼女”の誕生日。


「まあ、貰ったからには、ちゃんと返すのが礼儀だよな……」


 デスクチェアに、もたれ掛かって、飲みかけのマグカップに手を伸ばす。

 ぬるくなったブラックコーヒーを飲み干すと、ひとり自室の天井を見上げた。


 思い返せば、生まれて初めて俺の誕生日を祝ってもらったもんなぁ……。

 相手は、男の子と女装男子だけど。

 でも、貰ったものがすごく高価で、尚且つミハイルの心がこもったプレゼントだ。


 あれから毎日、着ている手作りのパジャマと、胸ポケットに入れている万年筆。

 アンナは無職だからと夜なべして、上下セットのパジャマを。

 ミハイルは、わざわざ近所のスーパーで慣れないバイトまでして、高価なプレゼントをくれた……。

 正直、万年筆なんて、アナログなもんは使わんが。


 でも、この2つを身に纏っているだけで、なんだか元気が湧いてくる。

 ハードな執筆活動も難なくこなせてしまうから、不思議だ。

 

「やはり、ここはあれか? ミハイルが得意な料理系のプレゼントで、女の子のアンナは王道のアクセサリーか……」


 そう呟いた瞬間、背後から声が聞こえてきた。


「アクセサリーとか、ナンセンスですわ」


 振り返ると、青ざめた顔をした妹、かなでが立っていた。

 数ヶ月間に及ぶ受験勉強で、頬が痩せこけている。心労によるものだ。

 母さんに勉強を強いられたことが、苦なのではない。

 オナ禁ならぬ、男の娘もの同人を禁じられているためだ。


「か、かなでか……ちょっと、見ないうちにお前、ゾンビみたいな顔になったな」

「ヘッ、どうせ。あと数ヶ月すれば、受験が終わりますわ。そしたら、溜まりきった鬱憤を、男の娘とショタでぶっ放してやりますから!」


 と女子中学生が、拳を作って見せる。

 気になる点といえば、人差し指と中指の間に、親指が挟まれているところだ……。

 今日日、見ない卑猥なジェスチャー。


「そ、そうか……まあ勉強がんばれよ」

「こう見えて、かなでは頭良いので、余裕ですわ。それよりも、おにーさま。プレゼント選びということは、アンナちゃんのですか?」

「ああ……女の子にあげるプレゼントなんて、初めてだから。悩んでいるんだ」

 中身は男だけどな。

「それなら、この正真正銘の女子、かなでに任せてください!」

「え?」

「女の子が一番、喜ぶプレゼントを知っていますわ! 鉄板中の鉄板!」

 と鼻息を荒くするかなで。

 頬はこけているくせに、胸だけは無駄にデカく、腰を屈めたせいで、ブルンと揺れる。

 キモッ。


「それで、お前の考えるプレゼントってなんだ? 参考に聞かせてくれ」

 俺がそう言うと、かなでは腕を組み、自信満々といった顔でニヤつく。

「ズバリ! 指輪……リングですわ!」

「指輪か……確かにドラマとかで、よく見るよな」

 バカな妹が提案したこととはいえ、何故か腑に落ちる。

 しかし、相手は女装した男の子。アンナだぞ?


「う~ん……」

 その場で唸り声を上げる俺に対し、かなでは優しく笑いかける。

「おにーさま。リングをアンナちゃんにあげて、聖夜を楽しんでくださいまし。しっぽりとね♪」

「はぁ?」

「一年分の愛をイブに出しきってくださいまし!」

「……」

 ダメだ、こいつ。受験勉強で頭がイカレてやがる。

 

 ていうか、プレゼントに指輪とか……。

 俺って、完全にアンナをカノジョ扱いしてないか?

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