第375話 受け入れてしまったタクト


 ミハイルから一通りのストレッチを見せてもらった後。

 流れで、俺も彼から習ったストレッチを挑戦することになった。


 自慢じゃないが、俺の身体は硬い方だから、ミハイルに無理だと断りを入れようとしたが。


「大丈夫☆ オレがちゃんとついているから。出来るようになるよ☆」


 と半ば強制的に、マットへ座らせられる。


 股関節を左右に開こうとするが、ミハイルのようには上手く出来ない。

 それを見た彼は、ニコッと笑ってこう言った。


「仕方ないよ☆ タクトは初めてだもんね。ちょっとオレがほぐしてあげるよ☆」

「え……? ほぐす?」


 嫌な予感しかない。


 ~10分後~


「う~ん……タクトって本当に硬いね。ガチコチだよぉ」


 ミハイルの小さな口から、吐息が漏れた。

 そして、俺の耳元に当たる。

 くすぐったいような、気持ち良いような……。

 

 現在の状態といえば。

 俺の背中を一生懸命ミハイルが小さな手を使い、押してくれている。

 後ろから抱きしめるように……。


 彼が言うには、普段からデスクワークが多いから、俺の腰と股関節も硬いらしく。

 今後の活動のためにも、しっかりと筋肉などを伸ばした方が良いとのこと。


 股関節を奇麗に開脚はできなかったが。

 責めて腰ぐらいは伸ばした方が良い、とミハイルに強く注意を受けた。

 まあ、俺の執筆活動を心配してくれているからだと思うが……。


 大きく息を吐いて、両手をマットの上に乗せて、前へと突き出す。

「ふぅ……」

 俺としては、だいぶ伸ばせたような気がするが、ミハイル先生は納得してくれなかった。

「あ~ ダメダメ。硬すぎるよぉ。タクトってさ。なんで、そんなにカチコチなの? 普段からやらないから、柔らかくなれないんだよ!」

「す、すみません……」

 怒られちゃったよ。

 ていうか、さっきから誤解を生むような表現ばかりしている気がする。

 カチコチとか、硬いとか……。



 見兼ねた彼が再度、補助に入る。

「いい、タクト。力をいれたらダメだよ。オレの呼吸に合わせて、ゆっくり前に腰を入れようね☆」

「お、おう……」


 言われた通り、彼の吐息に合わせて、ゆっくりと身体を前へ突き出す。

 ミハイルは優しく俺の腰を両手で押してくれた。

 超がつくぐらいの密着で。

 背中越しとは言え、彼の心音が伝わってくるほどだ。

 当たり前だが、女装していないので、ノーブラと思うと、興奮してしまう。

 ストレッチに熱中するミハイルは、恥じらいがないように感じた。

 頬と頬がくっついてしまうほどの至近距離で、俺に囁く。


「ほらぁ。ちゃんと入ったよ☆ タクト、すごいね☆」

「あ、ありがとう……」


 どことなく、ミハイルから甘い香りを感じた。

 きっと普段から使っているシャンプーだと思うが、その香りが更に俺をドキドキさせる。

 

 気がつけば、俺の股間もマットレスへ直進してしまった……。

 今の状態を隠したいがために、腰をどんどん前へと突き出す。

 

「すごいすごい☆ ちゃんと、マットに身体をつけられるぐらい、前に腰を入れられたねぇ☆」

「おお……ミハイルのおかげだよ」

 本当は股間が暴走したから、逃げただけなんだけど。

「気持ちいいでしょ? もうちょっと、押してあげたらいいかな☆」

 そう言って、彼は俺の身体に覆いかぶさる。

 もちろん、やましい気持ちなんて、全然ない。

 ただ、俺の身体を柔らかくしてあげたい、という一心で、伸ばしているだけだ。


 しかし、ミハイルの思惑とは裏腹に、傍から見れば、ヤバい男たちに見えるだろう……。


「よいっしょと。これで、う~ん……」

 

 ただ、背中を押しているだけなのだが、ついでに彼のブルマもお尻辺りに擦りつけられる。

 ミハイルが身体を前後に動かす度、俺の尻がペチペチと音を立てる。

 別に痛くはないが、彼の可愛らしい、ふぐりを思い出すと、なんか快感を覚えてしまいそうだ……。


「ふん。よいっしょ☆ どう? タクト☆ 気持ちいい? 痛くない?」

「ああ……すごく腰が楽になれた気がするよ」

「そっか☆ なら、良かった☆」

「……」


 そんな事を二人で仲良くやっていると、離れた場所から熱い視線を感じた。

 眼鏡をキランと光らせた女がこちらを見つめている。

 北神 ほのかだ。


「フッ。落ちたな」


 口角を上げて、そう呟く。


 クソがっ。

 誰も落ちてねーわ!

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