第357話 自分が書いている作品、どの『ラブ』か分かりません


『てめぇら、さっきからガタガタうるせぇんだよ!』


 関西のヤクザ組織、腐王ふのう会へと赴いた主人公、大林おおばやしと弟分である幹村みきむら

 書籍化を打診されたにも関わらず、作品が気に入らないと一蹴された為、大林は怒りを抑えられずにいた。


『おい、こら。大林……お前、今なに言うた? わざわざ編集長が直々に会って下さってはるのに。なめとんかぁ!?』

 オールバックの男が、関西弁で大林に怒号を上げる。

 だが、大林も負けずにいた。

『なめてぇよ。俺の作品を拾ってくれるって言うから、わざわざ関西くんだりまで来たってのに。これじゃ意味ねぇだろ!』

 それを聞いた関西ヤクザたちが鼻で笑う。

『はん。お前が書いた作品なぁ……あんな古臭いラブコメ、誰が読むねん。それにヒロインは男の娘やと? 中途半端なもん書きやがって、NL、GL、BL。どの層にハマるんじゃ!』



 それまで黙って観ていた俺だったが……驚きを隠せずにいた。

 タケちゃんの映画だよね、これ?

 なんか一般人には、わからない用語が次々と使われているんだけど……。



 立ち上がり、睨みあう大林と関西ヤクザ。

 見兼ねた弟分の幹村が、すかさずフォローに入る。


『あの、兄貴を勘弁してやってください! 兄貴は……まだ創作界隈に戻ってきて、間もないんです! なろう系とか、テンプレとか、そういうの全然知らないんです!』

『アホがっ! だからって、わしら腐王会がこいつの作品を書籍化したら、大騒ぎじゃ! わしらはな、腐女子の皆さんをターゲットに出版しとんねん。読者が求めているのは、純粋なBLや。男同士の絡みが欲しいんじゃ!』

『そんな……話が違うじゃないですか。兄貴の作品を書籍化してくれるって……今の関東、創作会は平気でAIに百合を書かせるような奴らです。だから、腐王会に頼んだんじゃないですか』

『幹村! お前、腐女子と百合族を喧嘩させる気か? わしら腐女子と百合はなぁ、てめぇの股間に草が生える前から、盃交わしとんねん。戦争になったら、誰が責任持つんじゃ! おお、コラァ!』



「……」


 あれ、前作と話が全然違うんだけど。

 ヤクザはどこにいったのかしら。


 呆然とスクリーンを眺めていると、なんだかんだ揉めてはいたが、利害が一致した両者は、書籍化のため、関東の創作会を潰すことに。

 大林たちは、関西の腐王会から力を借りて、戦争を始め。

 見事に復讐を果たすのであった。

 しかし、最後は弟分である幹村がヒットマンに殺されてしまう。


 葬式会場に現れた大林は、冒頭で話していた薄毛の男と再会する。

 

『先輩、書籍化できなくて、残念でしたね』

『うるせぇよ。線香あげにきただけだ……』

『え、先輩なら、ペンタブの1つぐらい持ってくると思ったのに……。あ、ハジキ持って行きませんか? 護身用に』

 そう言って、大林に拳銃を手渡す。

 受け取った拳銃に、弾が装填されているか、確かめた大林は、何を思ったのか。

 薄毛の男に向かって、銃口を突きつける。

『先輩?』

 驚く相手を無視して、大林は静かに引き金をひく。

 三発ほど腹に打ち込むと、薄毛の男は地面に倒れて、死んでしまう。

 だが、大林は弾がなくなるまで、撃ち続けた。


 そして、最後に一言。


『書籍化するつもりもねぇのに、編集部がSNSをフォローしてくんじゃねーよ。勘違いしちまうだろうが』


 どこから持ってきたのか、アサルトライフルを取り出し、冷たくなった男の身体を穴が開くまで、撃ち続ける大林。


 ~FIN~



 スクリーンの幕が閉じるまで、俺は微動だに出来ずにいた。

 感動していたからだ。

 きっと、この作品は、タケちゃんからの贈り物だ。

 作家なら誰しもが、抱いている感情を、タケちゃんがヤクザ映画として、昇華してくれたんだ。

 涙が止まらない……。


 帰りにパンフレットを買って行こうっと。

 て、あれ?

 映画に夢中で気がつかなかったが、マリアのやつ、まだトイレか。

 まさかとは思うが、便器の上で居眠りしているんじゃないだろうな。


 そう言えば……アンナとタケちゃんの映画を観ていた時も、途中退席して、最後まで観なかったような。

 嫌なデジャブ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る