第304話 婚約条件

 

 勢いで俺は冷泉 マリアと結婚の約束をしてしまった。

 だが、内心は……絶対結婚なんてしたくねーわ、と思っていた。


 マリアって今はハーフで可愛い美少女だけど、成長したら劣化してゴリラみたいなムキムキ女になると確信していたからだ。

 小学生だから、低身長で貧乳というか絶壁だけど……きっと大人になったら、爆乳のキモい女になるもん。


 そこで、俺は彼女に将来結婚できないような追加の約束をしておいた。

 小指はまだ結んだままの状態で。



「マリア。この約束についてだが、もうちょっと補足しておいていいか?」

「え?」

「結婚についてだが……お前が手術。あと、そうだな。俺が小説家としてデビューして、尚且つ売れたらってことにしよう」

 それを聞いて絶句するマリア。

「ど、どうしてそうなるのかしら?」

「俺は将来、映画監督を目指す男だ。だから、小説ぐらい書けないとなれないだろ? それにタケちゃんも小説家として売れているしな、ハハハ」

 なんて笑ってごかます。

「そうねぇ……ぼっちのタクトじゃ、まだ最初は小説家としてデビューしないと、映画は作れないものね」

 見え見えの嘘なのに、なぜか納得されてしまった。


 

 これで大丈夫だろ。

 俺は小説家なんて全然やる気ないし、もしマリアの手術が成功しても、結婚は回避できるはずだ。

 しかし、彼女はそれを真に受けてしまう。


「タクトなら……うん。タクトなら絶対なれるわ! 私が初めての読者だから、あなたの凄さを一番知っているもの」

 なんて満面の笑みで断言されてしまう。

「う、そうかな? 無理だと思う……けど」

「いいえ! あなたには文才があると思うわ!」

 そこまで褒められるとなんだか怖くなってきた。


 ならば、俺だけじゃなくて、彼女自身にも約束を追加しておこう。


「マリア……実は俺からも悩みを告白していいか?」

「え? タクトの? まさか病気なの!?」

「いや、俺のは……そういうんじゃないんだ。こう見えて俺っていう男はな。こだわりが強くて。女の子に対するハードルが高いんだ」

「?」

 病気じゃなくて、性癖だと伝えたいのだが、マリアは不思議そうな顔をして話を聞いている。

「つまりだ……俺はちっぱい。貧乳が大好きなんだ!」

「え……」

 絶句する心臓病患者。

「今のマリアは完璧というほどに貧乳というか絶壁だ。しかし、成長すれば、異国の血が流れているお前のことだ。きっと、キモ……じゃなかった成熟した胸になるだろう」

「な、なにを言っているの?」

 汚物を見るかのような目で睨まれる。

「急にすまない。だが、俺は曲がったことが大嫌いなんだ。確かにマリアは可愛いと思う。しかし、大人になって目も当てられないようなゴリマッチョ……じゃなかった。大人の女性に成長したら、きっと俺はお前を愛せないだろう」

 ただ、俺の性癖を暴露しただけ。

 それを聞いたマリアは呆れた顔でため息をつく。

「ハァ……前から感じてたけど、タクト。あなたって小学生のくせして、ペドフィリアなのね」

 ガチの病気認定されちゃった。

「でも……そうね。タクトの好きな女の子は今の私のような感じなのね。なら、それをキープすればいいのでしょ? つまり胸はなるべく小さいままで。身長も低いままにすれば」

「え……」

 今度は俺が絶句してしまう。

「私が貧乳で低身長の大人になれば、タクトは愛してくれるんでしょ? できるだけやってみるわ」

 やるんかい!

 なんかもう、あとには引けなくなってきちゃった……。


  ※


 その一ヶ月後、マリアはアメリカへと旅立った。

 手紙を書きたいと彼女が言うので、自宅の住所を教えたが、一通も届くことはなかった。

 俺も怖くて、その後の彼女を詮索することはしなかった。

 もし、手術に失敗してしまったら……想像するのも怖くて。


 マリアがいなくなった俺は、またぼっちになってしまった。

 一人で映画を観て、それを小説にしても、誰も読んでくれる人がいない。

 なんかつまらないというか、さびしく感じる。

 しばらく考えこんだ末、俺は誰かの創り出した話ではなく、自分自身の世界を描くことにした。

 貯めていたお年玉の貯金を下ろして、ノートパソコンを購入し、オンラインの小説投稿サイトに自身の作品をあげてみた。

 広大なインターネットという海の中に、俺が創り上げた小説を泳がせてみる。

 最初は反応なんて、全然なかったが、次第に何人かの読者がついてくれて、俺はその人たちが待ってくれるからと、がむしゃらに書き続けた。


 それに熱中し始めた頃、彼女との思い出は、少しずつ薄れていった。

 別に本気で小説家を目指してたわけじゃない。

 ただの趣味レベルで書いていたに過ぎなかった。

 でも、中学生の時に今の担当編集から、スカウトの電話がかかってきたことで、それは現実へと近づいてしまう。

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