第103話 二次会は荒れぎみ

 無能教師、宗像 蘭によって一ツ橋の生徒たちは全員酔っぱらってしまった。

 自ら飲んだものがいるが、宗像先生の持参してきたみかんジュースにウイスキーが混入していた疑惑があり、真面目な生徒たちまで被害にあってしまった。

 これはちょっとした無差別テロではなかろうか?


 大半の真面目な生徒たちは酒を飲んだことがないので、倒れるように寝込んでしまった。

 ヤンキーグループは逆に飲み過ぎて、いびきをかいている。

 かろうじて、意識を保っているのはギャルの花鶴 ここあぐらいだ。

「ちょっとさ、あーしに勝てる男とかいないわけ?」

 その前にお前は未成年であることを自覚しろ。


 バーベキューを担当していた男性教師たちまで、居眠りしながら肉を焼いていた。

 というか、焦がしているだけなんだけど。


 俺とミハイルだけはみかんジュースを飲まなかったので、被害にあわずにすんだ。

「なあ、タクト。みんな寝ちゃったけど、どうしよっか?」

 うろたえて、おろおろと辺りを見回すミハイル。

 こいつ、けっこうお節介焼きというか心配症だよな。


「そ、そうだぞ、新宮。どうしたらいい?」

 涙目で俺の両手を握ってくる宗像先生。

 お前が主犯なんだから、警察に出頭してください。


「ふーむ、このままみんなを家に帰したら、親御さんにクレーム入れられますね。というか、三ツ橋にも怒られます」

 俺が冷静に分析していると、隣りで宗像先生が見たことないぐらいキョドッている。

 ヤベッ、ちょっとおもしろくなってきた。

「ヤダヤダ! 蘭、三ツ橋の校長には知られたくないよ! あのおっさん、めんどくさいもん!」

 酒を飲むと幼児退行するのか、このおばさん。


「ですが、もうバレてません? グラウンドの周りをよく見てください」

 そう既に部活の練習をしていた三ツ橋の生徒たちがずっとこちらを不思議そうに見ているからだ。

「ぐえっ! あいつら、なんでこんなところで部活なんかやってんだ!」

 いや、あなたがこんなところでバーベキューしたからでしょうが。

「グラウンドなんだから当然でしょ」

「三ツ橋の校長にバレたら嫌だ! ちょっとあいつらシメてくるわ」

 そう言って、宗像先生は真面目に部活をしている生徒たちに突進していった。

 モンスターティーチャーだ。



 宗像先生は大声で叫んだ。

「おい、お前ら! 集合!」

 顧問の先生でもないのに、三ツ橋生徒を気迫だけで強引に集めさせる。

 健気にも彼らは横暴な教師の命令に従い、宗像先生の元へと群がる。

「いいか! 一ツ橋の生徒たちはみんなお昼寝中だ! だからこのことは黙っていろよ!」

 酷い言い訳だ。


「「「はーい」」」

 お前らもそれで納得するの。


「一ツ橋の子供たちはな、毎日働いて休日に学校にくる勤勉な学生たちだ。日頃の疲れが出てしまったんだよ……」

 話が変な方向にむいているぞ。

 宗像先生のとってつけたような説明にもかかわらず、数人の生徒たちは何人か泣いていた。


「うう……私たち一ツ橋の人のこと誤解してました」

「毎日働いて休みに学校で勉強するなんて、マジリスペクトっす」

「俺も編入しよっかな」

 最後の人、惑わされたらアカンで!


 こうして、どうにか三ツ橋の生徒たちを洗脳することに成功した宗像 蘭であった。


「しかし、どうしたものか……このまま、家に帰すわけにはいかんぞ」

 尚も俺の股間に顔を埋める赤坂 ひなたを見下ろしながら呟いた。

 背中のブラのホック、取ってやろうかな。


 俺がそんなよこしまな考えを抱いていると、ミハイルがひなたの背中に体操服をかける。

「ひなた、起きろよ。タクトにくっつきすぎ!」

 ミハイルがひなたの肩をゆするが、びくともしない。

「にゃーん……」

 新種のウイルスにかかったようにネコ語が抜けてない。



「ところで、タクト。なんでお家に帰したらダメなんだ?」

「そりゃそうだろよ。だって未成年を飲酒させている時点で大問題だ。ヤンキーグループは日頃から飲んでいるみたいだから、あまり問題にならんかもしらんが……」

「そうなの? 力とここあは小学生のころから飲んでいたよ」

 それって虐待じゃないですか?


「ま、まあ人の家庭なので、聞かなったことにしておこう……。だが、千鳥や花鶴なんかはバイク通学だろ? 飲酒運転したら逮捕されるぞ」

「ええ!? そうなの?」

 口をあんぐりと大きく広げて驚くミハイルさん。

 この人の常識とかアップデートされないんですかね?

「当たり前だろ。そういう法律だし、事故って死ぬ可能性だってある。逆に誰かを死なせる危険な行為だ」

「知らなかった。物知りなんだな☆ タクトってやっぱすごい!」

 あなたがおかしいんです。


 そうこうしているうちに宗像先生が戻ってきた。

「名案を思いついたぞ、新宮、古賀」

 何やら不敵な笑みで俺とミハイルを交互に見つめる。

「どうするんですか、こんなにたくさんの酔っ払い学生たちを」

「フッ、この名教師、蘭ちゃんからしたらお茶の子さいさいだ!」

 今日日聞かない言い方ですね。

 自信満々の笑顔で宗像先生はこう言った。


「このまま全員、学校に泊まらせよう!」


「……」

 やはりバカはバカでした。

 期待した僕が無知でごめんさい。

「わーい! 遠足みたいだ☆」

 ジャンプして喜ぶ15歳、高校生。ちなみにヤンキーです。


「ははは、古賀は偉いな。さっそく寝ている連中を三ツ橋の食堂に連れていこう。あそこなら晩飯もあるしな」

 この人、食堂で毎回晩飯パクってるんじゃないか?

「あ、オレ、力には自信あるんで連れていきます☆」

 自ら手をあげるミハイル。

 やけに乗り気だな。

「うむ、じゃあ古賀と新宮で手分けして生徒たちを連れていってくれ。私はテントとバーベキューとかの後片付けをするからな」

 歓迎会じゃなかったの?

 放課後に重労働とか、ブラック校則じゃないですか。

 勤労学生ですよ、俺たち。


「仕方ない、やるか。ミハイル」

「うん☆ 学校に泊まれるなんてレアだよな☆」

 レアなんてもんじゃない。前代未聞の出来事だよ。

 俺はとりあえず、ひなたに服を着せてあげて、彼女をおんぶしてあげる。

 ミハイルはほのかと日田の兄弟をひょいひょいとおもちゃのように軽々と持ち上げる。

「よし、行こうぜ☆」

 たくましい。

 俺なんか細い身体の女子を一人おんぶするだけでしんどいのに。



 そこへ花鶴が声をかけてきた。

「おもしろそうだから、あーしもやっていい?」

 あれだけ酒を飲んでピンピンしてんな。

 酒豪だわ。

「んじゃ、花鶴は千鳥とかを頼むよ」

「りょーかいだぴょーん!」

 アホな返事をすると、これまた花鶴 ここあはひょいひょいと千鳥のほかにがたいのよいヤンキーたちを4人もかつぐ。

 お米じゃないんだから。

 さすが伝説のヤンキーだわ。



 グラウンドと食堂を行き来すること、30分ほどで一ツ橋の生徒たちを無事にテントから脱出させることができた。

 三ツ橋の食堂は俺たちがスクーリングで使っている教室棟から出て、駐車場の目の前にある。

 全日制コースの生徒たちが昼飯を食べているところだけあって、敷地はかなり広い。

 フローリングで冷たい床に、一ツ橋の生徒たちを寝かせた。



「はぁ、疲れた」

「そうか? オレは楽しかった!」

 あなたは規格外の体つきなんでしょうよ。

「あーし、飲みなおしたいな~」

 もういい加減にしてください。


 俺たち3人は一仕事終えると、縦長テーブルのイスに腰を下ろした。

「てかさ、布団とかどうすんのかな?」

 花鶴がスマホをいじりながら言う。

「さあ? 宗像先生のことだ。なにかしら持ってくるだろさ」

「ワクワクすんな、タクト☆」

 そのポジティブな性格、ちょっと尊敬できます。

「あ、家に連絡しなきゃな…」

 なんて言い訳すれば、いいんだろうか?

「あーしは親が無関心だからパスで」

 荒れているんですね。心中お察しします。


「オレはあとでねーちゃんに電話するよ☆ でもさ、寝ちゃっているやつらの親には誰が電話すんの?」

 ミハイルに言われて気がついた。

 どうしたらいいもんか。


 その後俺とミハイル、花鶴の3人は、眠っている生徒たちのスマホを拝借して各自の家に「オレオレ」とか「あたしあたし」とか言ってどうにかごまかした。

 まさか俺たちがこんな詐欺に手を染めることになるとは……。

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