第21話 おっ! 体育の時間ですよ! その2


「ふむ……」

 授業の時といい、なぜリア充と非リア充はこんなにも分断されるのか……。

 俺たちは紛争状態なのか?


「おっほん!」


 咳払いしたと同時にセクハラ教師のメロンが、上下左右に踊り出す。

 やめて……きついっす!


「今日は初めてのスクリーングの生徒もいるからな……簡単に説明するぞ」

 そう言うと、宗像先生はバレーボールがたくさん詰まったカーゴを持ってきた。

 げっ! よりによってバレーか……。

 俺は自慢じゃないが、生まれつき球技は苦手なんだよ!

「いいか! よく聞けよ、半グレども!」

 だから『俺たち』は半グレじゃねーーー!


「今日はこれからこのボールで2時間遊び倒せ!」

「ウソでしょ……」

 呆れる俺とは対照的に、リア充グループから歓声があがる。

 おいおい、お前ら授業ではえらく不真面目なのに、遊びに関しては勤勉なことですね。


「ミーシャ♪ 一緒にやろ」

「シャーーー! やるぜ! ミハイル」

「う、うん!」


 ミハイルさんまで、えっらい元気じゃないっすか……。

 さすが伝説の『それいけ! ダイコン号』の三忍だとこと。


 と……思いにふけている間に、俺は一人ぼっちになっていた。

 しまった!

 クソ……もう既に皆(非リア充)はグループを作ってしまった……。

 このままでは、宗像先生とイチャイチャバレーになってしまう。

 それだけは回避したい。


「あの……」

 か細い声が俺を呼ぶ。

 振り返るとそこには見かけたことのあるキノコ! じゃなかったおかっぱ男子が一人。


「確か……日田だっか?」

「え? なぜ拙者の名を?」

 男二人で互いの顔を見つめあう。

「おまえ、さっきトイレで話しかけただろ? 日田ひた?」

「いえ、拙者は遅刻してきたので、先ほど校舎に着いたばかりですが……」

「いやいや、お前は確かに日田なのだろ? ほら、さっき古賀のことを……」

「なりませぬ!」


 日田が俺の口を塞ぐ。

「ふぐぼごご……」

「申し訳ない、がっ! その名を口に出してはなりませぬ。殺されますぞ!」

「ふご、ふご」

 首を縦に振る。


「ぶっは! なにをする!? お前は日田 真一だろうが!」

「失礼をば。氏の身を案じたが故の無礼を……ですが、拙者は真一ではありません」

「なんだと!? じゃあお前は?」

「……拙者は日田真二しんじです。真一の弟です。兄ならそちらに」

 そう言って指差した壁に、縮まったおかっぱがもう一人。

 どうやら病欠らしい。つまり見学。

 一ツ橋高校は病弱な生徒も熱心に入学させていると聞いた。

 きっと兄の真一もその類なのだろう。


「あ……本当だ」

「拙者たちは一卵性の双子です。日田家が次男、真二と申します。以後よろしく」

 ご丁寧に頭をさげる。

「そうか……真二か。認識した。俺は新宮 琢人だ」

「新宮殿、拙者とバレーボールしませんか?」

「まあ構わんが……」


  ~10分後~


「ではいきますぞ~」

「来いっ!」

 日田 真一ではなく、弟の真二が「はーい」と律儀にも掛け声とともに優しいサーブ。

 俺も影響を受けたのか「はーい」と返す。

 続けること1時間……なにが楽しいのこれ?


「はぁはぁ……やりますな。新宮殿」

「やるもなにも……二人でやってるだけだろ……」

「確かに……では次こそ、本気でやりましょう!」

「構わんが……」

「いきますぞ!」

 真二の強烈なサーブが俺の横っ面をかする。

 見事な豪速球! いや、当たってたらケガしてだろ……。

 本気すぎて、ドン引きだわ。


「ああ! 新宮殿!?」

「え?」

 真二の慌てぶりを見て、振り返る。

 豪速球はリア充グループに向かって、一直線!

 やばい……ほぼヤンキー軍団に直撃すること不可避……。


「いがん! よでろ!」

 普段大声を出さないせいか、痰がらみで上手いように喉が鳴らない。

 ただ、俺の叫び声に何人かの生徒たちは気がつき、危険ボールを察する。


「逃げて!」

「危ない!」

「死ぬぞ!」


 人波が掻き分けられ、最後に残ったのは伝説の……金色のミハイル!


「ミーシャ! よこ!」

「よけろ、ミハイル!」

 危険を察知した花鶴と千鳥。


「え?」

 だが、ミハイルはキョトンとしながら花鶴と千鳥の顔を見つめている。

 なにをやっているんだ!? ミハイルのやつ!


「古賀ぁ!!! よけろぉぉぉ!」

「タクト……?」

 振り返った時、遅い……と俺は思わず目をつぶってしまった。

 怖かったんだ、目の前で可愛い子がケガするところを。

 彼女いや……奇麗なミハイルの顔に傷が入るなんて、ましてや出血するところなんてみたくない。


「クッ!」

 後悔から唇を噛みしめる。

「新宮殿……見てくだされ」

 真二の声でようやく瞼を開くとそこには、驚愕の映像が俺を釘付けにした。


 華奢で、女みたいな顔で、俺より身長も低いのに、古賀 ミハイルは豪速球を片手で静止させていた。

 なんなら、ボールを指上でクルクルと回して遊ぶ余裕っぷりだ。


「さすがは、金色のミハイル……」

 隣りにいる真二がそう漏らす。

「なあ、その金色っているか?」

 めっさ笑顔で俺に手を振っているよ……ミハイルさん。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る