第19話 ミハイルのターン!


「おい! タクト、あいつは誰なんだよ!?」

 ミハイルが上目遣いで頬を膨らます。

 なんか、しかも涙目になっている。


「タクト! 聞いているのか!?」

「え……あいつは赤坂 ひなた。全日制コースの生徒だ」

「どこで知り合ったんだよ!」

 なんでそこまでムキになるんだ? そんなにあのパンティーのデザインが気に入ったか?


「この前、宗像先生に質問があってだな……その時に玄関で『不法侵入者』と因縁をつけられてな」

「んで? それでなんで、タクトの名前を知ってんだよ?」

「なぜと言われてもな……やつも俺と同じ白黒ハッキリさせたい性分らしいのだ。それで互いに生徒手帳を見せあったからな」

「……ッ」

 ミハイルはなぜかその場で顔を真っ赤にして、床を蹴り続ける。

 俺がしばらくその行為を見届けると、何を思ったのか、ミハイルはポケットから何かを取り出した。



「これ……」

「え?」

 目の前に出されたのはミハイルの生徒手帳。

「なんのつもりだ?」

「タクトがあいつと……その、白黒ハッキリさせたんだろ?」

「まあな」

「だから……オレもダチだから」

 ええ!? いつからダチ認定したの?

 意味わかんな~い。


「まあ古賀がそう言うなら……」

 俺は希望通り、まじまじとミハイルの証明写真を見つめてやった。

 ふむ、この時は髪を下ろしているな。やっぱ女にしか見えん。

 抱きたい、マジで。


「そんなに見るなよ……タクト。もういいだろ……」

 なぜ目をそらす?

「いや、もう少し見せてくれ」

「も、もういいでしょ……」

 ダーメ!

「いや、まだ見終わってない」

「まだ……なの?」

「もう少し」

「い、いやっ……恥ずかしい……」

 そんなエロゲみたいな声を出すな!

「まだまだ……」


 ガンッ!


 鈍い音が頭上で響く。

「なにをやっとるか! 馬鹿者が!」

 ズキズキと痛む、頭を摩りながら振り返ると……。


「宗像先生……」

 めっさ睨んでるやん。

 そういえば、体育と日本史を兼任しているんだったか?

 恐らくスポーツウェアなのだろうが、正直いって水着に近い。

 スカイブルーのランニング、ブルマ……?

 へそ出し、気持ち悪い巨乳のおまけつきだってばよ。

 これが今流行りの環境型セクハラというやつか。


「さっと着替えんか! 新宮、古賀」

「そ、それがですね……ここって男子更衣室ですよね?」

「は? そうだけど」

「なんか、さっき全日制の女子が着替えて、大変だったんですよ」


「だぁっはははははは!」


 相変わらずの下品な笑い方。

 しかも笑うたびにお乳がボインボインしてるから超キモい。


「結構! 結構! ラッキースケベ大勝利だな!」

「いや、顔見てわかりません? 殴られたんですよ? むしろ、こっちが被害者であることを訴えたいですね」

「どうしてだ? 女の裸を見たんだろ? それぐらい、なんてことないだろが!」

 と言って、爆笑する痴女は酒臭い。

 この教師は仕事とか言いつつ、事務所で酒飲んでじゃねーのか?

 あ、わかった。コーヒーに混ぜているな!


「とりあえず、着替えろ。たぶん、その女子は時間が間に合わなかったのだろうな」

「間に合わない?」

「ああ、以前も言ったように、我が一ツ橋高校は校舎がなく、更衣室が全日制と逆なんだよ」

「はぁ!? なんでそうなるんですか?」

「知るか! んなもん、こっちが決められる立場じゃないんだよ。だから今度からはあんまり早くに来て更衣室をのぞくなよ~?」

「のぞきませんよ!」

 

 隣りに目をやると、ミハイルは顔をまっかかにしている。

 ふむ、思春期とはわからぬものよ……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る