第5話 説明会


 入学式が無事に終わったかと思うと、どS先生の宗像教師に呼び止められた。

 今から説明会があるそうだ。

 宗像先生の案内のもと、会場から校舎に移動させられた。

 入る前に「本校の玄関だ」と宗像先生は言う。


「これが?」


 学校の玄関と言うにはあまりにも狭く、ただの引き戸式の扉で我が家のベランダのそれと同じやつ、いやそれよりもボロい。

 これって裏口でしょ?


 続いて「これがお前らの使う靴箱だ」と歩きながら指差す。

 超ちっせーし、ボロボロ。恐らく金属製なのだろうが、ところどころ錆びている。

 靴箱を抜けると、小さな部屋の前で足を止めた。

 入口のプレートには『自習室』とある。


 宗像先生が「この教室は全日制コースの生徒が普段使っているのだが、三ツ橋みつばし高校の校長の好意で貸してもらっている」と説明。

 貧しいのね、お宅の学校。


「通信制コースだけが校舎を使っているわけではない。全日制コースの生徒も利用している。迷惑をかけないようにしろ」

 全日制ってそんなに偉いの? いじめに近いぜ……。

「それからすぐ上の事務所だけが我が一ツ橋高校が所有するものだ」

「貧乏すぎ……」

 俺が微かな声で呟くと宗像先生がそれを聞き逃さない。


「新宮! 何か文句があるなら大きな声で話せ!」

「いえ、滅相もございません」

 宗像先生が怒鳴り声をしかける。こうかはばつぐんだ!

 どこからか失笑が聞こえる。笑いたいやつは笑え。


 『借り物』の自習室に各々が入っていく。


 俺はそこで1つ気が付いたことがある。

 遅れてきたから他の生徒を見ていなかったのだが、全員、私服だ……。

 いや俺だけスーツとかバカみたいに浮いてるじゃん……。


 イスに座って、辺りを見渡すと、明らかに二極化されている。

 教室の真ん中から分断され、非リア充(オタク、根暗)とリア充(ギャル、ヤンキー)

 陰と陽のように対となしている。


 俺はその丁度、境界線。分断される席についた。(そこしか空いてなかった)

 つまり非リア充派とリア充派の境目に座っているのだ。

 居心地が悪いったらありゃしない。


 宗像先生が教壇につき書類を配り終えると、説明を始めた。

「えー、これでお前たちは晴れて本校に入学できたのだが……皆には伝えておかねばならないことがある」

 ドSな宗像先生が、更に鋭い目で俺たち生徒を睨みつける。


「お前らはバカだ! だからシンプルに2つしか言わん!」


 え? この人、今バカって言った?

 俺たちついさっき入学したばっかだよ?

 成績も出てないのに、バカにされちゃったよ……ウケる~!



「1つ、喫煙を認める! 2つ、レポートは絶対に貸し借りするな! 以上!」

 俺は一瞬、この教室。いや生まれ故郷である福岡から飛びぬけ、大気圏さえも突破するほど、頭が真っ白になった。

 レポートの件は良いとして、喫煙って……俺たち未成年やん。法律で禁止されてますがな。


「お前ら半グレのようなやつらは約束を守らん! なので、最初から約束を破ってやる! こっちからな!」

 人間不信にも程がありますよ、先生……。

 それにちょい待て! 半グレって俺たち非リア充ってコミュ力は低いけど、基本真面目でしょ?

 一括りにしないでくれる?



「お前らバカどもは何回言っても、隠れてタバコを吸う! 特にトイレだ!」

 あー、確かに駅とかで大きな方してる時、隣の個室から臭うよね……。

 ウンコしながら吸っては吐いての繰り返し。正直、タバコよりもウンコ吸ってない? って思うけど。


「いいか! 本校、一ツ橋高校に校舎はない。あくまで全日制コースの三ツ橋高校の校舎を借りているに過ぎない」

 やっぱ、金がないんじゃん。俺が卒業する前に潰れるんじゃないのか?

 入学金を自分で払っているんですけど。返金制度とかありますかね……。


「よって、お前らが隠れて吸うたびに、吸い殻が校舎に捨てられている。スクーリングの度に私が三ツ橋高校の校長に叱られるのだ! それだけは絶対にイヤだ!」

 なんか私情がめっちゃ入り込んでない?

「だから喫煙所を設けている。この自習室の窓から見えるだろう」

 と、先生が窓を指差す。確かに外には手書きで『喫煙所 絶対にここで吸え! by宗像』とダサい看板がある。

 その下には恐らく灰皿代わりなのだろう。ペンキ缶らしきものがあり、隣にはベンチがある。



「レポートも写してはいかんが、タバコだけはちゃんと決められた場所で吸え!」

 なにここ? 俺、来ちゃいけない所にきたの?

「あと、スクーリングには絶対に来い。ちゃんと来ないと単位をやらんぞ」

 あれ? 今の3つ目じゃない? 先生もバカなの?


「では、ここまでで質問があるものはいるか?」

 宗像先生がそう言うと、辺りは静まり返った。


 俺は周りを見渡すと非リア充派は『タバコ』というワードで縮こまっている。

 対して、リア充派は宗像先生の話自体聞いておらず、各々がスマホを触ったり私語をしたり、居眠りまでしている。


 ここは動物園だ。

 ヤバい、ヤバい、間違いなくヤバい!

 入学先を間違えた。クソ編集の『ロリババア』がここを薦めたから入ったのに、まるで人間として扱われてない。

 やはり俺のような非凡な人間は『あの場所』に還るべきだ。



「質問、いいっすか?」

 俺の隣りにいた席から手が挙がった。入学式で隣りにいたヤンキー少女だ。

 少女は宗像先生を真っすぐな目で見つめている。

 入学式ではやる気ゼロだったのに、初日から質問とは勇気あるな。やっぱツンデレ娘じゃないか!


「なんだ?」

 宗像先生が問うと、少女は黙って席を立ち、教壇にいる宗像先生の前まで歩み寄った。

 その姿はとても堂々としており、ヤンキーでなければ、天使の行進といったところか。

「あの……」

 先ほどの威勢はどこに行ったのか。か細い声で先生に耳打ちする。

 なるほど……天使さまの聖水かな。


「はあ!?」

 驚きと共に宗像先生が顔をしかめる。

「ったく、これだからお前らは全日制コースに通えないんだ……」

 ん? どういうことだ? おしっこしたらあかんのか? それともウンコなのか?

「コイツが言うには今タバコを吸いたいんだと」

 ファッ!

「いいぞ、吸ってこい……」

 先生は呆れた顔で少女を手で追い払うように、喫煙を促す。

 少女は宗像先生のことなど気にせず、タバコを片手に自習室から出て行った。


 続けて、先生は「他にもタバコ吸いたいヤツいるか?」と生徒に尋ねると、「俺も私も」と生徒の大半が教室から出て行った。

 ま、リア充グループだけだがな!


 俺はバカバカしくなっていた。

 なんのために、行きたくもない高校に願書を出し、親父からスーツまで借りて入学式に挑んだのか。

 つくづくこの学校に嫌気がさす。


 本当にこんな高校で三年間もやっていけるのだろうか?

 そう思うと俺は席を立っていた。


「なんだ? 新宮、お前もタバコか?」

 疑いを俺にまで向けられたことに腹が立つ。

「違いますよ……お手洗いです!」

「ハハハ、そりゃそうだろな! お前にタバコは似合わんからな!」


 嫌味のつもりですか?

 ワロスワロス。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る