Bar ファンキーブルー
阿佐ヶ谷ピエロ
第1話 風のような人
私は8月になると、いつも、ふとある人を思い出します。
その夜は、金曜日というのにまるで暇で、いつもの様に本を読んで過ごしていました。
すると、入口のドアを颯爽と開けて一人の女性が入って来たのです。
年の頃は26、7才ぐらいかな、実際には聞いてないので知らないんですが、まだ熱帯夜というのに彼女は白いニット帽をかぶり、カーデガンを羽織ったその下はパジャマに、スニーカーという姿でした。
お店は奥に6席に右手に2席というカウンターバーで、彼女は右手奥の席に座りました。
「金曜日なのに暇そうですね。でも、誰も居ない店を探してたからよかった。」彼女は初対面にもかかわらず、実にあっけらかんとしていて何故か不愉快な気分にならなかったこ
を今でも覚えています。
彼女が何を注文したかは、もう覚えてませんが、そのあとは楽しく雑談したのを記憶しています。
それから、彼女は私に事のいきさつを語り出しました。彼女はガンで入院していたが、ストレスが溜まったから病院を抜け出して来たという。彼女はそんな話も実に淡々とかたっ
いました。そのあと、他のお客さんが出入りして、店もそろそろ閉店を迎えていたが、彼女はまだ帰ろうとしなかったので、私は閉店後に立ち寄る行きつけの居酒屋に彼女を誘い
ました。そこでは彼女と私はいろんな事を二
時間ぐらい語り合い、外が明るくなって来たので店を出ました。8月の夏の日差しは私には強すぎましたが、彼女はその光をまっすぐ浴びようとしている様に私には見えました。
去り際に軽くハグして「またな。」と言ったが何か言葉の無力さに自分を恥じました。彼女が去り際に見せた笑顔が今でも焼き付いています。
あれから何年たったのか、もうわかりません。
でも、きっといつの日かまた会えることを楽しみにしています。
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