第62話 カノジョの事情

【紫垣美月】


 無邪気な寝顔を寄せ合うカノパイたちをを見ながら、改めて思う。


 ホントに、カノパイたちは寝てても起きてても凄い仲良しだよねー。


 それに、なんだかんだ後から割り込んできたウチにも優しくしてくれる。


 でも、だからこそ……。


「そういや、美月とこうやって落ち着いて話したことってあんまりなかったよな」


「んぁ? あー……そうかも?」


 隣のコウ先輩に話し掛けられて、意識をそっちに戻す。


 そういえば大体カノパイたちと一緒にいるし、こうして二人きりでゆっくり話すのって何気にレアかもね。

 昨日の夜は二人きりだったけど、流れ星の話で盛り上がってたしねー。


「なぁ、美月。違ってたら悪いんだけどさ」


「うん?」


 コウ先輩、流石にそんなジッと見つめられるとウチでもちょっと照れちゃうんだけど?


「近々、俺たちから離れよう……とか、思ってたりする?」


「っ……!?」


 ……いーや、これは。


「つーか、もしかして最初から期を見て離れるつもりだったんじゃないか?」


 参ったなー。


 まさか、見抜かれてた・・・・・・とはね。


「優香と玲奈が勝負してる時も、いっつも一歩引いたとこにいるしさ」


「それは……」


「まぁこれに関しては、別に美月は俺のカノジョの座なんて狙ってないからっていうのも大きいんだろうけど」


「……あっはー」


 思わず苦笑が漏れた。


 まぁ、そりゃ流石にわかるか……つっても、カノパイたちはたぶん気付いてない気もするけど。


 実際のとこ、ウチはコウ先輩にマジで恋してるわけじゃない。

 だからウチは、玲奈先輩や優香先輩とコウ先輩を取り合ったりはしない。


「もちろん、美月が望んで俺たちから離れるのならそれを止めたりはしないよ」


 コウ先輩は、ウチを気遣うみたいに優しく笑う。


「だけど、もしもそうじゃないなら……理由を聞かせてもらえるくらいの仲にはなれたと思ってたんだけど、俺の勘違いだったかな?」


 たはー、その言い方はズルいよね……。


「……最初は、マジでただ興味本位だったんだよねー」


 観念して、話し始めることにするかー。


「噂の三人の中に混じれたら面白うそうかな、って」


 ちょうど前のとこ・・・・を離れた後にコウ先輩からの告白……うーん、告白? まぁとにかくアレがあったから、ちょっと試してみようと思っただけ。


 そこに深い理由なんてない。


 花火を見に行ってたら河原で先輩たちをちょうど見つけて、冗談半分で話し掛けに行った。

 いや、むしろ冗談99%?


「てか、ぶっちゃけホントに混じれるとは思ってなかったんだけど。だって、コウ先輩がウチに言った言葉なんて本心じゃないのは明らかだし……そもそも、あれを告白って言い張るのも結構な無理筋じゃん?」


「ははっ……まぁな」


「なのに勝手に色々考えちゃってウチを受け入れちゃうとか、ホント愉快な人たちだよ」


 ホントに、いつも愉快で……いつまでも、一緒にいたいって気持ちになっちゃって。


「だからさ」


 だから、これ以上は駄目。

 これ以上一緒にいると、マジで離れられなくなっちゃう。


「コウ先輩のことを好きでもなんでもないウチがいつまでもここに混じってるのは、やっぱ違うっしょ」


 ウチは不純物で、本来いちゃいけない存在。

 だから、この旅行が終わったらここから離れようって決めてた。


「……?」


 ウチの話を聞いて、コウ先輩はなぜか不思議そうに首を捻る。

 んんっ……? 何も難しい話とかしてないと思うんだけど……?


「俺は別に、違うとか思わないけど?」


「うん?」


 あれ? やっぱ、なんか伝わってないみたい……?


「確かに俺たちは三人だけで何かすることが多かったけど、そこに金森さんが加わったりすることもあったし、美月が加わっちゃいけないって理由もないだろ?」


「そういうのとはちょっと違くない……?」


 うーん……これは、ホントは言いたくなかったんだけど……。


「あぁ、もちろん言いたくないことは言わなくていいから」


「んんっ……!」


 的確ぅ……!


「……や、話すよ。ここまできから、話しちゃった方がスッキリするし」


「マジで、無理に聞き出す気はないぞ?」


「そこまでシンコクな話じゃないって」


 眉間にシワを寄せるコウ先輩に向けて、笑ってひらひらと手を振った。


「やっぱ、ウチがいることでカノパイたちとコウ先輩もそれまでとは色々違う感じになったじゃん?」


 口元が、ちょっと苦笑気味に変化したのを自覚する。


「これ以上ウチのせいでみんなの関係性が変わっちゃうのは、嫌なんだよねー」


 結局のとこ、ウチが望む関係性の中にウチ自身の居場所はないってわけ。


「んー……まぁ確かに、全く変わってない、とはいえないかもな」


 コウ先輩も、少しだけ苦笑する。


「でも」


 それを、微笑に変えた。


「それの何が駄目なんだ? 全く変わらない関係性なんてないだろうし、外部要因が加わるかどうかなんて些細なことじゃないか?」


「そう……かな」


 ウチには、そうは思えなかった。


「……ウチ、これまで何回かやからしてんだよねー」


 ふぅ……マジで、ここまで話すつもりはなかったんだけど。


「基本は、薄めの関係を広めに構築するスタイルなんだけどさ。ここは居心地いいなーって子たちと、長く一緒にいるとさ。壊れちゃう・・・・・わけ」


 頭の中に、徐々に空気が悪くなってくイヤ~な感じが蘇ってくる。


「ご存知の通り、ウチは距離感ぶっ壊れてるじゃん? ウチが交ざると、元々の関係性が徐々に変わってって……元は仲良かった人たちの距離が離れてったり、なんかギクシャクしだしたり……まぁ言ってみりゃ、ウチはサークラってわけよ。ウチ自身は、皆と仲良くしたいだけなんだけど……だから今は、どっかで線引してウチの方から離れることにしてんの」


「……なるほどな」


 ここまで言ってコウ先輩にも、ようやく伝わったみたい。


「ごめんな、美月。辛い話させちゃって」


「だーから、そんな大袈裟なもんじゃないっての」


 実際言うほど気にしてるわけでもないんで、コウ先輩の言葉を笑い飛ばす。


「その上で……これは、自分のことを最大限棚に上げさせてもらって言うんだが」


 と、コウ先輩は。


俺たちを・・・・まだ舐めてるな・・・・・・・?」


 ニッ、となんだか好戦的な笑みを浮かべた。

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