第12話 禁止令と新たな提案

 青海家での勉強会を終えて。


「今後、誰かの家での勉強会は禁止」


 俺は、二人に対して厳かにそう告げた。


「全く勉強にならないからさ……」


 結局この二回の勉強会で、ほとんど勉強出来てないからな……。


『はい……』


 二人も流石に反省しているのか、反論はない。


「ぐむぅ……! 自業自得とはいえ、勉強会自体が失われちゃったのは痛い……! 痛すぎるよう……! 主にアタシの成績的な意味で……!」


 ただ、優香は悩ましげに眉根を寄せ頭を抱えていた。


「本当に自業自得すぎて、同情の余地が全くないわね」


「半分は青海さんのせいなんですけどぉ!?」


 冷ややかな目を向ける玲奈へと、優香が食ってかかる。


「私は、貴女が仕掛けてきたから報復に出ただけ。貴女さえ大人しくしていれば、どちらも平和な勉強会だったというのに……争いとは、虚しいものね」


「そんな見え透いた嘘を誰が信じると!? 最初から仕掛ける気じゃなければ、そもそも勉強会なんて提案しないでしょ!」


「まぁ、酷いことを言うのね? 貴女のためを思っての提案だったのよ?」


「ぐむぅ……! 絶対嘘だけど、実際ありがたい側面もあっただけに強く否定はしづらい……! まさか、ここまで見越しての提案だった……!?」


「恨むなら、痴女に生まれた自分を恨みなさい」


「別に痴女に生まれたわけじゃないっていうかそもそも痴女じゃないっていうか何より青海さんにだけは言われたくないんだけど!? 今この瞬間もあの下着つけてるんだよね!?」


「二人共、ちょっと落ち着けって……」


 瞬く間にヒートアップする二人を、苦笑しながら宥める。


「あとな、優香。別に、勉強会そのものを無くそうってわけじゃないから」


「えっ……?」


 俺の言葉に、優香はキョトンとした表情となった。


「言ったろ? 『誰かの家での』勉強会は禁止だってさ。勉強会自体は、放課後の教室かどっかで引き続きやろう。休日も、自習室とか図書室なら開放されてるし」


「助かるぅ! それ、とっても助かるよぅ! ありがと~!」


 両手を組み、若干涙目になって礼を言う優香。


 流石の二人も、人の目があるところならあまり無茶はしないだろう。

 ……しないといいな。


「まぁ、紅林さんの成績を考えれば仕方のないことではあるけれど……私としては、少し紅林さん贔屓に感じないでもないわね……」


 一方、玲奈は表情に若干の不満が見られる。

 玲奈からすれば、普通に勉強会をしたところで得られるものは少ないだろうしな。


「あぁ、だからこうしよう」


 とはいえ、こうなることは予想済み。


「玲奈、俺とテストの総合点で勝負しないか?」


「? 別に構わないけれど……それに、何の意味があるというの?」


「まぁそう焦るな、話はここからだ」


 この玲奈の反応も想定通りで、俺はニッと笑ってみせる。


「優香が一科目赤点を取るごとに、俺にハンデとして十点加点。その上で玲奈が勝てば、俺が一つなんでも言うことをきく……ってのはどうだろう?」


「……!」


 俺の提案に、玲奈は大きく目を見開いた。


 ちなみに、俺と玲奈の成績はそこまで離れてない。

 玲奈といえど、あまりハンデが重なると勝利は危ういはずだ。


 逆に言えば、ハンデさえなければ玲奈の勝ちは堅いだろう。


「つまり、紅林さんに調きょ……もとい、勉強を叩き込むほどに私が有利になっていくということね……! わかったわ、受けましょう!」


「いや怖い怖い怖い! 今この人、完全に調教って言いかけたよね!? アタシに対して向ける目、完全に家畜を見るやつになってるよね!? そりゃ赤点回避出来るなら嬉しいけど、今度はアタシのリスクが高すぎるっていうか何でも言うこと聞いてもらえるとか青海さんばっかりズルいと思います!」


 優香が、早口で一息に言い切る。


「もちろん、優香にも同じ特典を用意する」


 俺は、今度は優香へと不敵な笑みを向けた。


「一つも赤点取らなかったら、何でも一つ言うことをきこう」


「ホント!?」


 優香の顔に、パッと笑みが咲く。


「覚悟なさい、紅林さん。貴女に一つも赤点を取らせないよう、ビシバシいくから」


「望むところだよ! アタシ、どんな厳しい指導にだって耐えてみせる!」


 威圧感を放つ玲奈に、前向きな表情の優香。

 二人、ガッチリと固く握手を交わしあった。


 よし……どうにか、上手い着地点に導けたんじゃないだろうか。

 玲奈と優香、今だけはお互いにWin-Winの関係だ。


 俺としては、ぶっちゃけ勝負そのものについては勝っても負けてもどっちでもいい。

 というか、優香の成績のことを思えば俺の負けになるのが理想形だろう。


 まぁ何でも言うことをきくっていっても、二人だってそんな無茶なことは……。


「にゅふふ、何でもかぁ……あれかこれか……いや、でもその程度じゃもったいない気もするからぁ……キャッ!? そこまで踏み込んじゃう!?」


「うふふふ……何でも……何でもね……何でもということは、何でもという意味……つまり、孝平くんを自由に出来るということ……嗚呼、なんて甘美な……」


 無茶なことは言わない……よね?

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