【書籍化】元カノと今カノが俺の愛を勝ち取ろうとしてくる。 ~ポンコツたちの大体やらかす恋愛頭脳戦(笑)~
はむばね
第1章
第1話 犬系女子か猫系女子か
「ねぇ
「孝平くん、猫のように気まぐれでミステリアスな女性って素敵だと思わない?」
右側から、『今カノ』
左側から、『元カノ』
ほぼ同時に、俺へとそんなことを言ってくる。
『は?』
そして同時に、眉根を寄せた顔を突き合わせた。
「あははっ、青海さんってやっぱり孝平のこと全然わかってないよねー。孝平は、犬系女子が好みに決まってるでしょ?」
「前半について、そっくりそのままお返しするわ。貴女の妄想と事実をごっちゃにしないことね。孝平くんは猫系女子が好きなのが現実よ」
優香は、明るくて感情がハッキリ出る犬系女子。
玲奈は、表情に変化が少なくて比較的クールな猫系女子。
それぞれ、自分こそが俺の好みであるという主張だ。
さて、実際のところは……どうだろうな。
『勝負』にも関わってくるだろうし、ここは真剣に考える必要がある。
なんて俺が考えている間にも、二人はバチバチと火花を散らし合い──
◆ ◆ ◆
【紅林優香】
ここで孝平に犬系女子……アタシを好みだと認めさせることが出来れば、この『勝負』で圧倒的に有利になること間違いなし!
全力で犬系女子の良さをアピールしちゃうよ!
「ほら、女は愛嬌っていうし? やっぱいつも笑顔な女の子の方が傍にいて癒やされるでしょ?」
「古い価値観ね。大体、いつも笑顔だなんて能天気なだけなんじゃなくて?」
「ぐむ……そこはほら、辛いことがあってもグッと堪えて笑顔を浮かべてる的な……」
「そんな偽りの笑みで、本当に癒やされるのかしら? そもそも、辛いことを隠すっていうのは犬的じゃないわよね? 素直さが犬の特徴なんでしょう?」
「ぐむむ、確かに……」
あっ、しまった確かにって言っちゃったよ……!
でもアタシ、実際なんかノリで喋ってただけだもんな……。
ぶっちゃけ、犬系女子っていうのもフワッとしたイメージでしかわかってないし……。
「その点、私はクールで滅多にデレを見せない理想的な猫系女子よ」
「はいダウト! いっつもすぐデレ見せるくせに! そして言うほどクールでもない!」
「は? 妄言にしても、もう少し真実味のあること言いなさい」
こ、この女……! 自分の言葉を微塵も疑っていない目だ……!
こんなアピールをしてる時点で、デレが溢れてることに気付いてない……!
「そんなことより……簡単には懐かない、孤高の存在。だけど、心を許した人にだけは時折見せる甘い一面……そのギャップがたまらないと思わない?」
「それはまぁ、確かに……?」
猫系女子が魅力的っていうのは、そうかもしれない。
青海さんが本当に猫系女子なのかはともかくとして。
「人は誰しも、自分だけが誰かの特別でありたいと思うもの。それに、今どきは自立した女性が好まれるの。とあるアンケートでは、八割近くの男性が自立した女性を好ましいと思うという結果になったそうよ。そういう意味でも、男性に依存することなく孤高の美しさを貫く猫系女子が好まれることは明白」
「そ、そうやって頭いいっぽいこと言って煙に巻こうとするのは良くないと思います!」
「貴女のその発言の頭悪さ感は半端ないわね……」
ぐむぅ、ぶっちゃけ青海さん相手に口での勝負だと分が悪いかも……!
それなら……!
◆ ◆ ◆
【青海玲奈】
ふっ……紅林さんを論破することほど容易いものもないわね。
「ていうか、重要なのは理論より実際に孝平がどっちを好きかだもんねっ! ねっ、孝平?」
「ん……? まぁ、そうかな?」
私相手に議論するのは不利だと見たか、紅林さんは孝平くんに水を向ける。
その露骨な話題逸らしに、孝平くんもちょっと苦笑気味だった。
「孝平、犬は可愛いと思うでしょ?」
「あぁ、そうだな」
「だよねっ! わんわん!」
いや、それはもう犬系女子というか単に犬の真似をしている女子でしょう……。
「わんわんっ! ご主人さま、大好きー!」
「おっと」
って……!
「ちょっと紅林さん! 何をどさくさに紛れて孝平くんの胸に顔を擦りつけてるの!?」
「いやぁ、犬だからなぁ。犬だから仕方ないなぁ。あっ、わんわん」
「貴女は犬系女子であっても犬そのものではないでしょう!? というか貴女それ、ただ孝平くんに触りだけよね!? もう鳴き声がついでみたいになっているじゃない!」
「ご主人さま、撫でて撫でて!」
「ははっ、よしよし」
「わんわんっ!」
この女、止まらないわね!?
孝平くんもノッちゃって、頭を撫でたりしてるし……!
羨まし……いえ、滅多にデレない私は羨ましいだなんて思わないけれど。
これが『勝負』に響くのは避けないといけないわね……。
そう、だからこれは仕方なく……苦渋の決断として、仕方なくやるだけよ……!
◆ ◆ ◆
【
「にゃ、にゃーん……」
おっと、玲奈まで猫真似をしながら擦り寄ってきたな……。
「あれれー? 青海さん、デレは見せないんじゃなかったのー?」
「これはデレではなく、あくまで猫系女子のプレゼンテーションよ……にゃん」
猫手を顔の横にやって、玲奈は少し赤くなった顔を逸らす。
「ほら、孝平くん……せ、せっかく猫がいるんだから喉の一つでも撫でないといけないと思わない……? にゃん」
「こんな感じか?」
「んひゃぅっ!?」
言われた通りに玲奈の喉をそっと撫でてみると、その身体がビクンと大きく震えた。
「な、なかなか悪くないわね……もっと撫でてくれていいのよ……? にゃん」
「ぐむむ……孝平孝平、アタシも色んなとこもっと撫でてほしいな! ほら、お腹とか!」
「ちょっ……! 貴女、孝平くんにどこを撫でさせようとしてるのよ!? お腹って、それはもう完全に性的なやつでしょう!」
「青海さんのさっきの反応の方が性的だったと思うんだけど!?」
「猫だから、喜んでちょっとゴロゴロいっただけよ!」
「いや完全に喘ぎ声だったから!」
「まぁまぁ、犬も猫も仲良くしようぜ?」
『んひゃぅっ!?』
優香のお腹と玲奈の喉、それぞれ撫でてやると睨み合っていた二人はビクンと震える。
「そ、そうね……犬と喧嘩するのは良くないわね……にゃん」
「う、うん……猫とも仲良くしないとね……わん」
玲奈と優香、お互い赤くなった顔を見合わせた。
「だけど……結局、孝平くんはどっちが好きなの?」
「そうだね、それは確認しとかないとだね」
それから、ジッと俺の顔を見つめてくる。
その質問は、犬か猫のどっちがって意味なんだろうか。
それとも、優香か玲奈のどっちがって意味なんだろうか。
いずれにせよ、俺の答えは。
「同じくらい、好きだよ」
そうとしか言えなかった。
今は、まだ。
「そう……なら、仕方ないわね……にゃん」
「今はそれで許しちゃうぅ……うへへ……わん」
……もしかしたら、引き続き喉とお腹を撫でながら答えたせいかもしれないけど。
◆ ◆ ◆
ちなみに。
「相変わらず凄ぇな、白石たちは……教室でするプレイじゃないぜ……」
「同じくらい好きって、あれ完全に犬と猫じゃなくて二人のことだよね……?」
「めちゃくちゃ澄んだ目で言い切ったよな……」
「言ってることは、普通に二股宣言なのにな……」
俺たちに対して、クラスメイトからは畏怖を含んだ視線が向けられていた。
割といつも騒がしい俺たちは、こうして注目を浴びるのが常だ。
正直に言えば、かなり恥ずかしい。
注目を浴びるのも、人としてだいぶアレなことを堂々と宣言するのも。
だけど、俺はもう決めたから。
彼女たちのアプローチに、正面から応えると。
二人の、『彼氏』として振る舞うと。
◆ ◆ ◆
どうして、こんなことになったのか。
元を辿れば、一年と少し前のあの日まで遡ることになる──
―――――――――――――――――――――
本日中に4話目まで投稿する予定です。
よろしくお付き合いいただけますと幸いです。
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