エンジェルナンバー

無限想起

プロローグ 天使の旅立ち

 この世界には、目に見えないが確かに自分を見守ってくれている者が存在する。


それは、天使という種族、特徴的な翼を背に有していて、人とよく似た姿の別の世界の生命だ。


 今日もある天使は、天界から人間界を覗いて見守っているようだ。天使達は、この世界では、人の希望と絶望に始まり、多種多様な事柄が、覗けることをよく知っている。


天界の歴史の中で、昔から慣れ親しまれ、多くの天使達が好んでのぞく、ポピュラーなシチュエーションが一つある、それは・・・


「あ!あのカップルがついに結婚するみたいだよ、長かったねぇ、幸せの始まりだねぇ、ほらザンも見てみて!」


 一組の幼馴染、紆余曲折うよきょくせつ、ついに結婚式!


 魔法の手鏡から、人間界の様子を覗いている天使は、自分の身に起こったことのように喜んでいる。無意識に翼をバタつかせながら、満面の笑みが止まらない。


「まーた結婚式を覗いてんのか、キティ」

ザンと名前を呼ばれた天使の少年は、もう飽き飽きといった風に受け答えをする。


「うん、これから結婚式を覗く時間もあんまり取れないからね、小さい頃に与えられたこの手鏡も、もう卒業だからさ」


 二人の天使は、人間界で言えば成人の日と似た意味合いを持つ日を、今日迎えた。今は、自らの家への帰路に就いている。


「もうすぐで実物が見れるかもな」

「それもそうだね」


 成人した天使には、皆等しく天界での仕事が与えられる。彼らに与えられたのは、数ある天使の仕事の中では、少し特殊な仕事だった。


「キティ、俺にも人間を導くことが出来るだろうか、正直その事だけで頭がいっぱいだ、天界を離れるのも少し寂しいしな」


 ザンは、とても真面目な性格でこの日を迎えるにあたり、先輩の天使達によく師事を仰いでいるようだった。古来より原初の天使達は、大きな関心を人間に対して寄せている。

 

 その原初の大天使に惹かれた天使達は、メッセンジャーと呼ばれる仕事に就く。

人間界に存在するいろいろな事象を用いて、対象の人間についてまわり、異変が迫っていることをどうにか伝える。

 大きな運命の変動を伝えることが彼らの役割だ。だが、近年は問題が発生していて、それが天使を悩ませる一つの要因だ。


 古きメッセンジャーの天使は言う、正確な理由は不明だが、天使側の力が人間界に及ぼす影響がとても弱くなってきていると。


 天使を信じる人間が減ったからなのかもしれない。それに加え、おきてを破る堕天使の存在、これは捨て置けない重要な問題だ。


「ザン!あんなに、先輩の天使の方々と勉強したじゃない、きっと大~丈~夫!」

キティは、そう言いながらザンの背中をバンッと音が鳴るくらいに叩いて励ます。


「痛ぇよ、もうちょっと優しく頼むよ、翼がもげる」

言葉では、そう言いながらも少しくもっていたザンの瞳は輝きを取り戻す。


「さあて、明日からは、しばらく人間界での仕事だ」


 いつもなんだか、ふわふわとしていて、ゆるゆるとした雰囲気のキティだが慣れない人間界での仕事にはやはり緊張しているようだ。


「俺たち下級の天使は、普通なら人間界に降りるのは固く禁止されている」


「貴重な経験が出来るし、幸運だね!」


「仕事で行くんだ、それとさキティ、飛行訓練の単位落としたろ?」

「なんとかなるもん」


 キティとザンが生活をしている家は、おとなり同士というやつだ。

二人は、生まれて間もなくそれぞれの両親の交流が深かったことから、ごく自然に引き合わされ、共にあった。


 何気ない休日、学問の試験前夜の追い込みなどたくさんの想い出が重なり、その身体に詰まっている。


 旅立ちの前日、思い出して、浸りたい気持ちは、山々。

二羽の幼馴染の天使は、天界の地面に、敷き詰められた、ふわふわな白い雲を踏みしめる。


 時間を少し巻き戻し、キティとザンの訓練生時代にさかのぼろう。師範に選抜されたのは、原初の大天使の1羽。訓練場にて、教官を務める、1羽の名は・・・

「ザドキエルと言う。」


「訓練生のキティです。」

「同じく、ザンと申します。」


これから、鍛えるのは、天使の中に眠る固有の能力

数練術と呼ばれる"白"にも、"黒"にも染まり得る、ポテンシャルを秘めた術式。


天使の操る数練術と、人間の操る学問としての数秘術は、字こそ似ているが、全くの別物と定義されている。


「全力で、防御しなさい」


 返事をする間もなく、発動されたザドキエルの数練術+ANo.4エンジェルナンバー4キティとザンは、圧倒的な力の大きさに、畏怖を覚えつつ、防御姿勢を取る。


「防御を固めるので精一杯だ!!」

「意識を失いそうっ」


44秒間、どのような表現を浴びせられているのか考える隙すらなく、キティとザンは、ただ耐え忍ぶ他なかった。


残り、4秒の時点で、ザンが意識を失い、その場に倒れた。

キティは、何か防御策を、その発せられるハイプレッシャーの中で、思い浮かべられたようだ。


結果的に、キティは、数練術を短期間で会得する。


「どの世界でも女の子の方が強いものね」


真理を突いている。










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