Uber Hearts(ウーバーハーツ)

黒井真(くろいまこと)

第1話 集荷

「確かに、お預かりしました」

 そう言って、ロゴ入りの帽子を脱ぎ、一礼する。

 自転車にまたがる前に、荷台に取り付けられた箱の中身を確認。箱には、ちゃんとお客さんから預かった荷物がすっぽりと収まっている。緩衝かんしょう材もちゃんと隙間を埋めている。うん、問題ない。


 再び、お客さんに軽く一礼してから、僕は自転車のペダルをぎ始める。


 ハートは繊細だから、配達には気を遣う。帽子と同じ、白地にピンク色の文字のロゴが大きくプリントされた荷台の箱は、特殊な衝撃吸収アンチ・ショック仕様だけど、それでも、もし中身に何かあったら取り返しのつかないものだから。


 もちろん、ユーザーさん自身で、ちゃんと中身を梱包こんぽうしているはずだけれど、中には不器用な人もいるだろうし。

 だから、<Uber Heartsうち>では、オプションで梱包サービスがある。けれども、利用する人は少ない。それはそうだろう。誰だって、赤の他人に自分のハートを見せたくはない。

 だから、いまだに僕は、自分が配達している箱の中身を見たことはない。箱に入った状態で手渡されて、そのまま相手に手渡すからだ。


 それでも、心配な人もいるのだろう。オプションには配達員の指名制度もある。でも、それを利用する人も少ない。

 僕自身が指名されたのは、これが初めてだ。

 さっきのお客さん、以前に僕が配達した人だろうか? きれいな顔の男の子だったけど、顔を見ても、送り状に書かれた名前を見ても、心当たりはなかったのだけれど。


 でも、箱の中を見ることはできなくても、ずっと配達の仕事をしていると、感覚でわかるものはある。


 ポイントは、「暖かさ」と「重さ」だ。


 さっき受け取ったハートは、なかなか重い。この集荷の前に、営業所で受け取った二つの内、一つは軽いが、もうひとつはかなりの重量だったから、三つ合わせるとなかなかの重さだ。


 本当は、重いものから手放したいが、効率の良いルートを選ぶと、一番最初に軽いものを配達することになる。ちょっとキツいけど、仕方ない。

 僕はペダルにかけた足に力を込めた。 昨夜の雨で、街路樹の葉はまだ濡れている。午前中の陽光に照らされてキラキラと光っている。


 その輝きは、そのままハートを贈ったり、贈られたりする人たちの人生のきらめきのようだ。正直、お客さんである彼らのことを僕は少し、羨ましいと思っている。僕には、きっとこの先もずっと、そういうことは起こらないだろうから。

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