書籍化作品。虹色の約束。後編
結芽
第一時限目
あれからすぐ夏休みに入り、あたしはライブに向けて毎日の様に桂太君達とスタジオを借りて音合わせをした。
あっくんの偉そうな態度には渉君を初めみんなが不満を抱いていたが、急遽菜緒がマネージャーを務めてくれる事になり、たまに発射される菜緒からあっくんへの毒舌には、みんなが拍手をして誉め讃えた。
そんなこんなで迎えたライブは大成功。
あたし達の他に、もう2つのバンドも参加してのライブだった為観客は満杯。
緊張しすぎたあたしは、マイクを通して
『ど、どうも初めま……おえっ…』
とおえつを発してしまい、観客を魅了した…
ライブ終了後のアンケートには
『またおえつが聞きたいです』
とのコメントが数多く寄せられ、こんなあたしにも少数のファンが出来た。
そんなライブ中、あたしが歌いながらも探し続けたのは拓の姿。
隅から隅まで目を凝らして探しても、案の定拓の姿は無く、和也さんとおばさんの姿も見つからなかった。
拓探しをしていたのは桂太君も同じだった様で、どことなく元気が無かったっけ…
夏休みが終わり、学校が始まってからもあたしと拓の会話は一切無く、同じクラスだとゆうのに目を合わせる事すらしなかった。
勿論部活でも会話は無く、それに気付いた敦子先輩はあたしから事情を聞いて号泣。
拓に話を持ち掛けたが、拓はそれを冷たくあしらいやがて部活にもあまり顔を出さなくなった。
一つ変わった事と言えば、あの時をきっかけに霧島君とまた話をする様になった事。
前みたい2人で会ったり霧島君の家に行ったりは無かったが、タカや他のクラスメイト大勢で、カラオケや大の苦手なボーリング等に休日を使ってよく集まる様になっていた。
きっと、今思えばそれは霧島君の気遣いだったのかもしれない。
そして、溜め息を吐いては泣き顔になるあたしに何かを察していたのだろう。
霧島君を初め、タカやみんなもあたしに拓の事は一切触れようとしなかった。
『拓』
多分この名前を出されてしまったら、あたしは泣いてしまうだろう。
それ位に、あたしの拓への想いは変わらずに溢れ出す一歩手前まで来ていた…
あたしの中で何も解決する事なく、ただ止まり続けている拓への気持ち。
でも、悲しい事に季節は止まる事をせずにただ月日だけが過ぎて行った。
『過去を変える事は出来ずとも、未来は我の手の中にあり』
中学の卒業式の時に、最後のホームルームで担任が祝いの言葉としてあたし達に捧げた贈り物。
今になって、この言葉がどんな思いを込めて贈られた物だったのかあたしは情けなくなりながらも深く胸に刻み込んだり。
季節は11月の下旬。
誰もが待ちに待った、高校生活の一大イベントである修学旅行の日が訪れた。
随分前から少しずつ計画して来たこの行事。
皆が期待で胸踊らせる飛行機の中、あたし1人だけが不安と寂しさに包まれながら旅行先、沖縄へと飛んだ。
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