三話 また

 




 僕は、ひたすら逃げた。

 

 脇目も振らず……何も考えず、ただ足を動かしていた。


(ここまで来れば………)


 村から飛び出して数分後、混乱していた頭がやっと回り始めた僕は後ろを振り返った。

 その後ろには何もおらず、暗闇と森が広がるだけ…………


「ギギャァ!!」

「な、なんで………!?」


 ………ではなく、1匹のゴブリンが背後から醜く追いかけて来ていた。おそらく村からついて来たのだろうが………逃げるのに夢中で気づかなかったのか……?



(どうする……もう僕の体力は限界、すぐに追いつかれる………!!)


 ……倒す……のか? でも僕にそんな力は…………


 

(…………いや…………!)





「…………やるしか、ない!」


 覚悟を決め、僕は立ち止まってゴブリンへと向かう。


(確か、ゴブリンは火に弱いってお父さんが………)


「撃て……『火球かきゅう』!」


 お父さん曰く、魔法を発動する時に『撃て』や『放て』などといった言葉を付け足した方が威力が上がるらしい。僕はその言いつけを信じ、大声で叫んで魔法を放った。


「グギィッ!!」

(よし、当たった……!!)


 ゴブリンは魔法を見ても避けるそぶりを見せず、見事に火の球を喰らっていた。これでゴブリンも参ったはず…………!



「グッ、グギァ!!」

「なっ……全然効いてない………!?」



 しかし、僕の魔法はゴブリンの体に小さな火傷を作っただけでまるで効いておらず、怯むことなく僕へと接近して来ていた。


(な、なんでこんなに……いくら僕の魔法が弱いといっても、ゴブリン相手に効かないなんてこと………!!)


 

 


『やっちまえゴブリンども、村を潰すんだっ!!』



(……………いや、お父さんは『ゴブリンは火を見ただけで怯える』って………だとすれば………!)

「ス、『ステータススキャン』!!」


 ある予感を頼りに、僕はゴブリンのステータスを確認した。





名前・グリーンゴブリン

種族・魔物


能力ランク

体力・12

筋力…腕・9 体・7 足・15

魔力・1


魔法・1

付属…『火属性耐性強化』(火属性の攻撃に耐性を持つようになる)

称号…【召喚しょうかんされし魔物まもの】(召喚された魔物につく称号、特に効果は無し)





(火の耐性……そういうことだったのか!)



 ゴブリンは本来、火が苦手だ。だからその耐性を付属させた…………多分それをしたのは、あの盗賊たち…………




「………………?」







「グッ………ラァウァッ!!!」

「っ、しまっ……ぐぁぁっ!!?」


 僕はその称号に疑問を浮かべてしまい、その隙を突かれるようにゴブリンの持つ短剣で斬られてしまった。

 

「がぁっ……あァ……!!」

(い、痛い………こんなに、剣がぁ………!!?)


 感じたことのない痛みに、ついその場でうずくまってしまう。そして恐るおそる受けた傷を確認するが…………想像していたよりも深くはなかった。


「で、でも……動けな……い…………!」


 しかし……恐怖が体を完全に支配してしまっており、指先ですら動かすことができないままだった。


「グギャギャ……!!!」

「ぅ………!!」



 ……………このままじゃ、死ぬ。そんなことは分かってるけど………駄目だ………意識、が……………




「ここ………まで、なのか…………また…………」




 ……………………

 







「ヒヒィ……!」

(………く、る……………)


 謎の違和感に反応する余力もなく、僕はゆっくりと近づいてくるゴブリンの気配を感じ取ることしかできなかった。




「ご、めん………お父さん、僕……ぼく、は……………」



























『…………ずに頑張ってね。』





 刹那、何かが『記憶』を揺らした。

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