序章 在る村の出来事 (『てんせい』編)

一話 風が舞った

 






 今日の朝は、珍しく早く起きれた。





「……よし!」



 僕は勢い良くベッドから起き上がり、着替えて家の外へと出る。今日はいよいよお父さんが魔法を教えてくれるということだったので、いてもたってもいられなかった。


(お父さんは…………居たっ!)


 外に出て周りを見渡すと、お父さんは庭の切り株の上に座ってぼんやりと森を見渡していた。そんなお父さんに僕は声をかける。



「お父さん、今日から魔法を教えてくれる約束してたよね。早速教えて!」

「……ああ、そういえば今日だったな……でも、こんな朝早くからやるのか? ご飯もまだじゃないか?」

「大丈夫! それより早くやろうよ!」

「分かった分かった………それじゃ始めようか!」



 僕の急かしに、お父さんは応えてくれた。













ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー













「まず最初に、魔法がどういうものが簡単に教えるぞ……俺の手を見ているんだ。」


 そう言われ、僕はお父さんの手のひらをじっと見つめる。するとどこからともなく赤い光が現れ、お父さんの手の中心へと集まっていき……小さな炎が燃え始めた。


「……それが魔法なんだね!」

「ああ、魔力を込めてな色んなことを起こす……それが魔法だ。他にも水とか風とか色々あるぞ。」


 お父さんはそう言って水や風も作り出してくれる。


 『魔法』……それは、人が持っている『魔力』という不思議な力を使って起こす、とてもワクワクする物だ。


「……まあ、取り敢えずこんなもんだな。」


 一通り見せ終わったのか、お父さんは仕切り直すように魔法を収めて話を切り出す。



「……厳密に言えば、今見せたのは魔法って言われるほどのものじゃ無い。ただの手品みたいなものだ。」

「えっ、そうなの? じゃあ 早く魔法を見せてよ!」

「おいおい、慌てるなって……今から見せてやるから。」


 僕がブンブン腕を振ってお願いすると、お父さんは両手を構えて近くの森の木へと向かう。


「魔法っていうのは、詠唱をすることで初めて発動することができる。こうやって…………







 …………撃て、『水弾すいだん』!!」



 お父さんが何かを言った瞬間、手に青い光が集まっていき水が現れていく。そこまではさっきと一緒だったが………今度のその水たちは球の形へと変化していき、一気に飛んでいった。


「うわっ!?」


 それを間近で見ていた僕は驚いて尻餅をつきながらも、その球の行方を追う。

 そんな水の球はそのまま一直線に飛んでいき、狙っていたであろう木にぶつかって弾けていった。


「こ、これが魔法……?」

「ああ、初級魔法・水弾だ。水を固めて相手を攻撃する、基本中の基本の魔法……まあ、俺は中級が精一杯だけどな。」

「しょきゅう……ちゅうきゅう……?」


 聞き慣れない言葉に、僕は少し混乱する。それを見かねてかお父さんが説明をしてくれた。


「要は魔法の難しさの呼び方だ。1番簡単なのが『初級』、次に『中級』、その次が『上級』って感じにどんどん難しくなっていく。ウルスはまず初級から覚えていかないといけないな。」

「へぇ、そうなんだ……何か複雑だね。」

「そうだな、まあそこはあんまり気にしなくていい。特訓を続ければ自然とできるようになるからな………で、だ。次は『詠唱』だな。」

「詠唱……さっきお父さんが魔法を使った時に言ってたやつ?」


 さっきの魔法……お父さんが『水弾』と口にした後に飛んでいっていた。それが何か関係しているのかな?


「ああ、簡単に言えば『魔法を使うために言わないといけない言葉』って思っておけばいい。」

「言わないといけない……じゃあ、魔法の名前を言えば魔法が使えるってこと?」

「基本はな。魔法が上手い人はわざわざ名称を口にしなくてもできるそうだが…………俺の『ランク』じゃ無理だな。」

「……『ランク』?」


 僕がそう聞き返すと、お父さんは顔を情けなさそうに言った。


「そうか、まだウルスは見たことがなかったな………ウルス、ステータスって唱えてみろ。」

「…………? 分かった、『ステータス』………うぇ!?」


 お父さんに言われた通り、僕はそう口にした瞬間……急に目の前に何やら見慣れない文字や数字が浮かんできた。


「お、でたな。どれどれ………」






名前・ウルス

種族・人族

年齢・6歳


能力ランク

体力・7

筋力…腕・10 体・8 足・12

魔力・4


魔法・1

付属…なし

称号…なし






「ほぉ、まだ訓練はしたことないはずだが……そこそこあるな。魔法は……まあ使ったことがないから仕方ないな。」


 お父さんはその浮かんできた数字たちを覗き込んでブツブツと呟くが、僕にはその意味が全く分からなかった。


「こ、これは何なのお父さん?」

「これは今のお前が持つステータス……力だ。ウルスがどれくらい強いのかっていうのを目で見ることができる。便利だろ?」

「そ、そうなの? よく分からないけど……じゃあお父さんのステータスは?」

「見たいか? じゃあ俺の体に触れて頭の中でステータスって思い浮かんでみろ。」

「頭の中…………」


 僕はお父さんの手を握り、その言葉を思い浮かべた。


(……『ステータス』)







名前・ハルラルス

種族・人族

年齢・35歳


能力ランク

体力・78

筋力…腕・48 体・50 足・90

魔力・33


魔法・5

付属…なし

称号…【成人せいじんあかし】(成人に成ったものに送られる称号。また、この称号を持つものは魔法以外の全能力に+1加算される)






「出た……これがお父さんのステータス! 僕よりずっと高いよ!!」

「そりゃもちろん、俺は大人だからな。でもウルスも鍛えれば俺より強くなれるかもしれないぞ!」

「えっ、そうなの?」

「ああ、ステータスっていうのは鍛えれば鍛えるほど高くなる。例えば、ウルスが何度も魔法の練習をすれば魔力と魔法のランクが上がって、より難しい魔法が使えるようになる。頑張れば頑張るほど強くなれるんだ。」

「へぇ〜頑張れば、頑張るほど……!」














「お〜い! ウルくん、おじさん!! 何してるのー!?」



 その時、不意にどこからか僕達を呼ぶ声が聞こえた。その方へ目を向けると……幼馴染のラナがこっちに走ってきていた。


「あっ、おはようラナっ!!」

「お〜、ライナ。こんな朝早くからどうしたんだ?」

「えっと、今日は早起きしちゃって散歩してたの! そしたらウルくんとおじさんが居たから来ちゃった!!」


 ラナは明るく笑ってそう言う。


 ラナは隣の家の子で、同い年なのもあっていつも一緒に遊んでいる仲良しの女の子だ。綺麗な短い金髪に可愛い顔立ちから、村の人たちにもよく可愛がられていたりする。その度に僕の後ろに隠れるのは勘弁して欲しいけど。


「それで、ウルくんは何をしてるの?」

「僕は今、お父さんに魔法とかステータスのことを色々教えてもらってるよ。」

「魔法!? いいなぁ〜私にも教えてよおじさん!」


 ラナは羨ましかったのか、お父さんにチラチラアピールしていたが……駄目だとお父さんは頭を横に振った。


「ライナは父さんに教えてもらいなさい、俺が勝手に教えたら怒られちゃうからな。」

「えぇーケチ! じゃあいいもん、ウルくんの魔法を見るから!」


 ラナはむくれながらそう言って、切り株にずかっと座り込む。そんな彼女に僕は軽く笑いながらも、気を取り直してお父さんに魔法のことを聞く。


「……それで、僕は最初に何を覚えたらいいの?」

「そうだな……まあ最初は好きな属性がいいと思うぞ。水とか何か好きな物はないか?」

「好きな………」



 何がいいだろう………やっぱり派手な炎とか、電気とかが……………








「……………!」







 その瞬間しゅんかんきゅうかぜった。


 



 その風は少し強く……木々も軽く揺れるくらいのものだったが、決してなんてことのない…………ただの風だった。



(………………今の、は………)






 しかし、なにかをばすように…でも、それでいてあたたかみのあるような……そんなオモイをわせるかぜだった。







「きゃ……!」

「うぉ、いまのは強かったな……お、そうだ!」



 途端、お父さんは何か思いついたような顔をして僕にこう告げた。




「ウルス、『風』魔法はどうだ? 俺しか使えない魔法の中に風魔法もあるんだが、風なら一番教えやすい……どうだ、やってみないか?」


「風……魔法…………」





 風…………か。





「……うん、風の魔法を覚えたい! 教えてお父さんっ!!」



「よし、じゃあ早速やるぞウルス!!」

「ウルくん、頑張って!」



「うん……頑張るよ!!」






 これが事件の………『始まり』の1週間前の事だった。







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