第5話 その五 銀のロマンティック…わはは  川原泉 白泉社

 川原泉。昭和35年組と呼ばれる少女漫画家の英才たちの中でも、きわめて異質な作風を持つ漫画家である。

 少女マンガとは少女たちの恋愛や、青春を描写した作品が多いが、白泉社は例外的に、少年漫画に近い作風の作品を連載することが多いが、川原泉の作品は、それともまた異なる。

 基本はコメディテイストながら、哲学的な描写や薀蓄、台詞が多く、かといって重たくはない。その作風からファンには親愛を込めて「キョージュ」と呼ばれることも多い。


 さてそんなキョージュの作品には、短編、中編が多い。その中でもこの作品は、単行本全一巻の中編に分類される。

 題材はフィギュアスケートペア。日本勢が弱いあの部門である。

 主人公はバレエダンサーであり、素質は素晴らしいものがあるが表現力に難がある少女と、スピードスケートの金メダリスト候補であったにも関わらず、怪我をしてトップスピードを維持できなくなった青年。

 こんな二人が偶然出会い、偶然コーチに発見され、フィギュアの世界に飛び込んでいくというのがストーリーである。


 当時の世相というか現実を反映して、日本のフィギュアスケートペアは層が薄い。しかし世界の壁は厚い。

 あっさりと世界選手権に出る二人だが、トップとの差は歴然。しかしながらそこで絶望したりはしない。マイペースながらも訓練を積み、現在でも不可能なペアでのクワドラプルを会得する。

 しかし逆境は続く。内容は伏せるが特訓に、思いもよらない助力を得て、二人はプログラムを完成させる。


 そして迎えた世界大会。ショートプログラムで2位を獲得した二人は、最後の舞台へと至る。

 そこで繰り広げられるのは、凡庸な衆目を感動させるような演出ではなく、あくまでも川原泉らしい展開である。


 大会後、二人はまた日常に戻る。

 二度と立つことはない華舞台。しかし読者の脳裏に広がるのは、例えようもなく美しい余韻と、涙がこぼれるような感動である。

 笑う大天使でもあったが、この人はコミカルな演出が得意であり、絵柄もそれに即している。だが物語だけで読者を泣かせるのだ。そして笑わせることも出来るのだ。

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