軽薄ギャル彼女→激重清楚彼女
あ
軽薄ギャル彼女
眉間に皺を寄せて腕を組む男の前には、ふてぶてしく椅子に足を組んで座る女が1人。
「今回の言い分を聞かせて貰おうか」
重苦しい低音で言葉を吐き出す。そこに怒気が含まれているのは誰が聞いても明白であった。女は驚いたように肩をビクッと震わせる。
「先輩と見たい映画の話で盛り上がってその流れで見に行っただけだってば!」
「……男と2人きりで映画に行くってそれデートだよな?雪乃、お前は俺と付き合ってるんだよな?」
「本当に何も無かったから!映画行ってそれで解散しただけ!」
見たい映画が被ったなら、彼氏じゃない男と連絡も無しにデートをする女、雪乃。まごう事なく、俺の彼女である。
「ホテル行ってないよな?信じていいんだよな?……ってこの会話何回目だよ」
「ホテルなんて行くわけないじゃん!ウチはアンタと違って友達が多いだけ!疑うなんて信じらんない!」
謝るでもなく、むしろ非難の目を向けられる。正直もう呆れる事しか出来ない。この流れは日常茶飯事。
それでも今の今まで別れを持ち出さなかったのは、なんだかんだで俺も雪乃の事が好きだったからなのだが……正直、それすらも怪しい。
なにより、彼女が度々起こすアウトゾーンスレスレの行為──アウトな行為もしているのかもしれないが──に対して特に何も感じなくなっている自分が怖い。
……いや、もう別れるとか、別れないとかもどうでも良くなってきた。
もう雪乃に期待できない。期待しない。別にこの関係を続けるも、続けまいも、どうだっていい。
俺が彼女に温もりを求めても、返してくるのは冷めた目線のみ。
こんなはずじゃなかった。
付き合った当初は他のカップルなんて目じゃないぐらいラブラブだった。
1日に何回も好きを伝え合った。結婚したら、なんて話を数え切れないほどした。施設育ちの俺には無縁の世界を沢山教えてもらった。世界が輝いて見えた気がした。
そんな幸せな日々は、いつまでも続くことはなかった。
いつからか、彼女は友達を優先するようになった。
俺以外の男と楽しげに接している所を何度も見た。その度に胸が張り裂けるぐらい苦しくなった。
でも今は、もうどうだっていい。
雪乃がサークルの男の先輩とサシで飲みに行っても、彼女曰く弟みたいだという金髪の男の後輩と手を繋いで歩いていても、俺とのデートを早く切り上げて男女数人でカラオケに行っていても、もうどうだっていい。
心が寒い。満たされない。
「てかさぁ、普通にウチ束縛激しいの嫌いなの。マジでそーゆーの止めない?アンタの束縛のせいでダチとの遊びを制限されるのフツーにダルいんだけど。そもそも文句あんならアンタも誰かと遊んだらいいじゃん」
開き直ったかのように俺に提案する雪乃。今までの俺だったならふざけるなと怒気をより全面に出していたかもしれないが、もうこの提案を受け入れるのも良いのかもしれない。
それが、彼氏彼女の関係が実質的に終わってしまう事を意味するのだとしても。
「……分かった」
それからというもの、俺は寂しさを紛らわせるように遊びに耽った。
酒、タバコ、パチンコ、競馬。縋れるものは全て縋った。
多くの施設育ちの同僚が高校卒業後に就職する中、将来を考えて進んだ大学に払うべきお金も、全て消えていった。
学費を払えず、大学は休学することにした。
自分が屑に成り下がっていると自覚しながらも、ポッカリと空いてしまった自分の心をもう一度満たそうと足掻く。
『ねぇ、大学休学したってほんと?』
『何があったか教えてよ』
『アンタの彼女なんだから』
『無視しないで』
雪乃が連絡を寄越したこともあった。でも、返信は特にしなかった。片手間に連絡してきたのであろうことは分かりきっていたからだ。
『ねぇ、今度前に話してた映画見に行こうよ』
『ねぇ』
『せめて反応して』
『前みたいに束縛してよ』
『もうアンタ以外とは遊ばないし関わらない。ウチにとって雄一が1番大事だから』
メッセージが80を超えたあたりから、流石に鬱陶しくなった。
『ねぇ、ウチのこと嫌いになった?』
『あんなこと言ったからだよね、ごめんね』
『もう無理に俺に関わるな。前みたいに別の男を優先したらいい』
ハッキリ言ってやった。それから雪乃から返信は来なくなった。
その会話のキャッチボールの終わりは、誰に言われるまでもなく、縁の切れ目そのものだった。
辛かった。悲しかった。彼女との幸せな日々を思い出すと自然と涙が出た。
彼女に対してもう何も感じないと思っていたが、まだ情が残っていたことに驚いた。
その日を境に、俺の堕落は加速していった。
メシもろくに食わずに酒を胃に流し込み、賭博に耽る。体を壊すのも時間の問題だった。
「あったま痛ぇ……」
外で遊び散らかした帰り。ふと体が怠いと感じた直後には悪寒が体を駆け巡った。
人混みに揉まれて電車に乗り、倒れそうになりながらもなんとか自宅まで辿り着く。
鍵を差し込んで回し、ドアを開ける。
──開かない。
もう一度鍵を差し込んで元の状態に戻すと、難なくドアが開いた。
元々鍵を閉め忘れていたのかと思ったが、俺は確かに閉めたはずだと自問自答する。
恐る恐る開けると──
「あ!おかえり!」
髪色が違う。服装も違う。雰囲気すらも違う。それでも、すぐにわかった。
「久しぶりだね」
雪乃が、俺の家にいた。
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