十四・工作(三)
結局、顔バレを防ぎたがっていたアズキやアランも城へと招かれることとなり、僕達は四人で馬車に乗って、ポイぺ城へと戻ることとなった。
その道中、ポイぺ王とは様々なことを話した。僕が姫と出会い、急にモモロンと名付けられたことや、僕達がムネモシュネ国へ行った時の話を。ポイぺ王は時に笑い、時に怯えながら話を聞く。ちなみに、怯えるのは全体的にムネモシュネ王に対してだ。話を聞き終えると、ポイぺ王は立ち止まって僕達の方を見る。
「本当は僕、この国が大好きなんだ。だからこそ、この国にはちゃんとしてほしくて。この国を大事にしたくて、けれどそう思えば思う程、自分の発言が怖くなったんだ。そしたら何をどうしたら良いのか言葉に迷って、結局何も言えなかったんだ」
「はい」
「僕は、この国がもっと色んな国の人で賑わって欲しいと思うし、もっともっと、みんなが笑顔で働いている姿を、ずっと見続けていきたい」
「はい」
「こんな僕に、出来るかな?」
ポイぺ王は、不安そうに尋ねた。その問いの答えに対しては、彼に一番近い存在の彼女が答えた。
「ええ、なれますとも。貴方様に、国への愛と、国を守る強き意思があるのであれば」
姫はニヤリと笑った。姫の挑戦ともとれる発言に、ポイぺ王は、笑顔で答えた。
「ありますとも!!」
全員の表情がほころんだのも束の間、ポイぺ王は目を逸らして気まずそうに頬を掻く。
「……そう、何時か胸を張って言えたらなぁ。と、思います……」
「今言うのじゃ、うつけ者ぉ!!」
姫の、珍しく全霊をかけたツッコミであった。
… … …
城へ着くと、大臣が玄関で出迎えてくれた。詳しくは中でとのことだったので、僕達は先程ポイぺ王や大臣と話をした部屋へ戻ることに。そこで、賊についての結果発表も行うこととなった。言わずもがな、酷い結果だったがね。
「えっと、大臣。向かったところ、実は賊が彼らの手によって既に捕まっていたそうなのです」
「おや。それは素晴らしいことですね」
「ええ、ですが、それではポイぺ王には響きようがないと思い、彼らに賊の代わりになってもらおうと工作をしたのですが、それもままならず……申し訳御座いません」
僕、そしてアズキとアランが深々と頭を下げる。何故か姫だけ腕を組んで偉そうなのが腹が立つが、そこは放っておこう。僕達が頭を下げていると、大臣は声を出して笑っていた。
「よして下さいよ、大丈夫ですから。顔を上げて下さいな」
「そ、そうですよ。僕なんかの為に……」
僕達は申し訳なさそうに顔を上げる。大臣は静かに首を振り、「良いんです」と優しい声つきで言った。
「分かりますよ。王が、変わったことは。そうでしょう?」
「そ、そうなのかな……でも、目標は出来たよ」
王は視線を、部屋の隅に置いてあった甲冑へと向けた。それを見て決心したかのように頷く。
「僕、強くなりたい。皆さんみたいに、もっと」
僕達は深く頷いた。今度は、だったら良いなぁとか言わないでくれよ。と、心の中でつっこみつつ。
「そう思うだけでも、立派な進歩です。それもこれも、貴方がたのお陰で御座います」
「じゃろうじゃろう?」
そこは謙遜しといて欲しいぞ姫。しかし姫は僕の思いなど知らず、大臣へとグググと前のめりに近づいていく。大臣やポイぺ王が驚いた顔をしていると、姫はふふんと満点のスマイルを見せる。
「そこでじゃ、ちと礼をしてもらえんかのう?」
「え、ええ。勿論ですが……」
大臣の了承を得ると、姫は両手を上げて喜んでいた。一体、何を考えているのやら。ロクな予感がせず、額に手を添える僕だった。
… … …
その夜は、イリス国から姫がやって来てくれたことや、賊を捕まえたことを理由に、ポイぺ王よりパーティーを開催して頂いた。序盤はポイぺ王の姿を見つけられたものの、早一時間もすると彼の姿が見つけられなくなる。どうしたのだろうか。ポイぺ王の姿を探しに外へ出ようと試みる。その途中、女子トイレから姫が顔を出した。
「大だったと思う? 小だったと思う?」
「セクハラはよして下さい」
僕は姫を通り過ぎると、姫が駆け寄って僕の隣を歩き出した。
「実は、大じゃ」
「いや、知りませんって」
「おや? 知りたくないのか?」
「知りたいわけないでしょう、姫が大をしていたか小をしていたかなんて」
一応姫だし、その前に、美人な女性なんだから。まぁ、もう大だと聞いてしまったが、正直何の感情も浮かばない。姫はケラケラと笑うと、「違う違う!」と手を振った。
「私のウンコの話じゃ無いぞモモロン、大蛇の話なんじゃ」
洒落のような口調で言うな。そうは思ったものの……大蛇とは?
「見てみぃ、アレ」
トイレの横の小窓へと指を差す。窓を覗くと、その光景に僕は目を丸くした。
あのすぐに怯え、震えていたポイぺ王が、大蛇のデザインを施された甲冑を着たゴツい兵士へと、剣を向けていたのだ。大蛇ってあれのことか。何時ものことだが、紛らわしい言い方をする人だ。
ポイぺ王が剣を持って飛び込むと、すぐに右手で弾き倒されてしまった。まぁ仕方あるまい。剣を握った手が硬くて、まだ持つのに精一杯って感じだからな。
「ポイぺ王、そんなヤワな剣筋では、マルモットも倒せませんぞ」
「は、はい……!」
マルモットと言うのは、名のとおり丸っこいモルモットの様な動物だ。正し、リス科と言う謎の生物。見た目は本当に丸っこいモルモットなのに。
余談はここらで止めておくとしよう。ポイぺ王は倒されたあと、よろよろと立ち上がりもう一度剣を向ける。うむ。アランより強くなる意思はあるらしい。……とか言うと、くしゃみでも聞こえてくるだろうか。
「ぶえっくしぇい!! ……マリア。マツリ。ごめんな。早く帰るから待っててくれぇ」
どうやら僕の悪口を、妻と娘の愛の囁きと勘違いしているらしい。アイツは論外だな。もう一回くしゃみが聞こえてきたが、構わず僕は視線をポイぺ王へと戻す。
「お願いします!」
ポイぺ王は、打たれても打たれても、その一声を発して起き上がってくる。そんな姿が、イリス国を守る為に必死に剣技に励む兵士達を思い出すようで、少々微笑ましい気持ちになる。僕は自分の為だけにがむしゃらに力を磨いてきた。民、愛する人、家族……守りたい誰かの為に頑張る彼等、そしてポイぺ王、はたまたアズキやアランも、やはり僕よりも余程素晴らしい人間なのだ。
「あれが続けば、見違えるように痩せるじゃろうなぁ」
「姫もなさったらどうですか?」
「何おう! 私はホラ、知力派じゃろう?」
何処がじゃ。せめて、その少したるんできたお腹をへこますくらいの運動はして欲しいものだ。僕の気持ちに反して、姫は僕の手を引きパーティー会場へと駆け出す。
「モモロン、早く戻るぞ! 早く戻らんと上手い飯が無くなってしまう!!」
こりゃあまた太るな。……運搬屋さん。出来ることなら、姫の運搬も頼んでもらえないだろうか。
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