四:調達(ニ)
森の中へ入った僕等は、この迷路のような森のどこを探そうかと迷っていた。とりあえずまっすぐ歩いてみる。
「のう、モモロン」
「何ですか」
「モモロンは、この地へは来たばかりだそうだな。となると、チョコマの名前の由来とか知らないじゃろう?」
おや、うんちくを始めようとしているか? 知っていたら言って水を差してやりたかったが、それも意地悪いか。どちらにしても、由来など知りもしない。姫に聞いてみるとするか。
「はい」
チョコマってぐらいだから、ちょこまか動くからとかじゃ無いのか? と思ったのはここだけの話。姫は腕を組み、優越感に満ちた顔で口を開く。
「チョコマと言うのは、ちょこまか動くからチョコマと言うのだ!」
「へー」
完璧に当たっていた。分かり易すぎる名前だからな。あまりに捻りの無い由来に、僕の返事はつい適当になってしまったが、今回姫は何一つ悪くない。悪いのはこんな分り易い名前を付けた人間だ。
「……と言うのが一説で」
お、まだ説があるのか。少し興味が湧いてきた。姫を見る。
「ちょこっと待ってよ! ってくらい速いからチョコマとも言うらしい」
その理由を聞くと、ちょこまかの方が良い感じがするな。少し期待外れだった。今回もから返事になる。
「でな、他の一説は」
もういい。もういいですよ姫。どうせこういう由来には、そんな興味深い理由は無いから。僕はチョコマを探すことに意識を向ける。
「ちょっと困らせたいって理由で、チョコマと言うらしい」
「姫、それは嘘でしょう」
姫は嬉しそうに笑う。これでは彼女のヨイショをしているのと変わらないな。敢えてつっこまない方が良かっただろうか。正直二番目の由来の時点でおかしい気はしていたのだ。何でちょっとじゃなくてちょこっと待つのだ? そうそうそんな言い方しないし、ちょこっと待ってほしいからチョコマって言う名前のセンスは、相当イタい。
「……全部嘘だぞ、モモロン。本当は由来は不明なのじゃ」
姫はヒーヒーと呼吸を整えながら言った。それは少し驚いた。全部嘘なのか。しかも由来不明なのかよ。目茶目茶由来ありそうな名前なのに不明ってなんだよ。何でも良いから由来つけろよ、チョコマ。
僕が心の中で野次った所為だろうか。数メートル先の茂みがガサガサと音を立てたかと思うと、そこから気味の悪いダチョウに羊の角を生やしたような鳥が飛び出してきた。コイツがチョコマか。実際に見るのは初めてだが、ダチョウよりも余程気持ちが悪いな! 絶対に触られたくない!!
「おおっ! キモチョコマが出よったのう! 行けモモロン、捕まえるのじゃ!!」
「ええ、言われなくとも!」
僕はチョコマへと駆け寄った。だが、相手は時速四十キロの珍妙な生物。その俊敏な動きで避けられてしまった。その上、チョコマは森の奥へと逃げて行ってしまった。
「あーあ。逃がした」
「あれは一筋縄ではいきませんね」
幾ら気味の悪い生物でも、あまり生きたものを切りたくは無いのだが……。もともと食材になる運命だったのだ。仕方あるまい。僕は剣を抜き、チョコマの逃げた道へ駆け抜けていった。
「ま、待てモモロン!」
後ろから姫の声が聞こえてきた。姫には悪いが、これ以上距離を取られたくない。僕はチョコマを追うことに没頭した。
… … …
入り組んだ森の奥まで来ると、黒い影を見つけた。あの鋭い角の陰影は……! 右手が疼く。
「も、モモロン……速いぞ……」
ぜーはー呼吸を整えながら、姫は僕を見た。その時、僕と姫の目が合う。すると、姫は心配そうな目をこちらに向けていた。僕が人殺しにでも見えたのだろうか。安心しな、姫の期待は裏切らないさ。サビの殆ど無いピカピカの剣を一振りして気を落ち着けると、その剣を持って黒い影の近くまで飛び込んで行き、相手が抵抗する間もなくその剣を振りまわした。
剣を鞘にしまった瞬間、傍にあった木々がスパーンと切れていき、対象の相手を囲むように倒れ込んで行った。案の定ヤツは身動きが取れない。よし、成功だ。木の隙間から体を出したのは、正真正銘チョコマだ。チョコマの首に手を回して捕まえると、姫へと片手を上げた。姫は駆けよりながら、僕へ縄を投げた。縄をキャッチし、チョコマの胴に巻きつける。
「やった! 捕まえられたな!!」
姫は心配そうな顔など微塵も捨て去り、喜んでいた。良かった、さっきは変に心配を与えてしまっていたらしいからな。今度は力技で逃げられないように姫が縄を持ち、僕がチョコマを抱えて城へと急いだ。
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