第10話 邪な騎士タケル

「さぁ楽しもうぜ?」

殺意と愉悦の混じったサクトの笑みにゴブリン達は恐怖した。

それを見ていた朱華もゾクッと背中に寒気を覚えた。

ゴブリン相手とはいえ『殺す』という行為を楽しむなんて朱華には納得も理解も出来ない。

が、この身勝手に残虐非道を繰り返す化け物どもを野放しには出来ない。

だから『退治』するのだ。

そんな正義感でゴブリン達と戦うんだ、という解釈で朱華は拳を振るう決意をした。

一切の迷いを振り切った朱華はゴブリン達を圧倒し次々と殴り、燃やしていった。

ほとんどのゴブリンを倒し、少し動きを止めて息を整えていると背後から巨体のゴブリンが朱華を押さえ込んだ。

左手で首を掴み、右手は胸を掴んだ。

痛みと不快感で顔を歪める朱華にゴブリンは囁いた。

「オマエ、カラダイイ。オレノモノニナレ」

背筋にゾワゾワと怖気が走り、同時に怒りが込み上げてくる。

「誰がなるか!キモ鬼がーっっ!」

ゴブリンの左手を握ると力を込めてそのまま骨をへし折った。

ギャッ!と悲鳴をあげて踞るゴブリンの脳天に朱華の強烈な『かかと落とし』が炸裂した。

頭は片割れ血が吹き出してその場に沈んだ。


それを横目にサクトは「ヤるじゃねーか」と呟いてゴブリンを潰し、刻み、燃やして楽しんだ。

あらかた片付いたところで恐らく一番長く生きており、一番人間の言葉が理解できるであろう年老いたゴブリンを捕獲。

「オレハ、モウトシダ。ソウオカスモコロスモデキナイ。ミノガシテクレ」

命乞いをしてきたゴブリンだが矛盾だらけである。

若かりし頃に散々に犯し、奪い、殺してきただろう。

サクトにはそんなことより聞きたいことがある。

「さぁ?生かすも殺すも決めるのは俺だ。そんなことよりお前達とつるんでいる人間がいるな?そいつは誰だ?どこにいる?」

サクトの問いにゴブリンは怯えた様子でコクコクと頷き、全てを話した。

私利私欲でゴブリン達を利用していること、名前はタケル・エンドウだということ、騎士だということ、業者に多額の金を渡して洞窟に電気を通して悪行の拠点としたこと。

そして街では人々の信用を得て善人としてのうのうと生きていること。

今この時は騎士の任務で出払っていること。

「まぁそうだろうな。だいたいわかってたことだがこれで確証が持てた。」

話が終わり、サクトには自分を見逃す気はないことを悟った老ゴブリンは杖をかざして魔法を放った。

「シネ!ニンゲン!」

転がっていた斧、棍棒、剣、槍などゴブリン達の武器が宙に浮き、一斉にサクトに向かって飛んできた。

が、その全てはかわされて地面や壁にぶつかった。

老ゴブリンのすぐ前に移動していたサクトは腰に装備していた刀で容赦なくで頭を落とした。

「ま、苦しまず逝かせてやるよ。年寄りへのせめてもの労りだ」

トンッと地面に落ちた頭と胴体に火を放ち焼き尽くすと息を切らして駆け寄ってきた朱華に目を向けた。


「そっちも終わった?」

「あぁ、話も聞き出せたしな。この洞窟のことは父さんにも国にも報告しねーと。やっぱり人間の中にゴブリンと組んでる奴がいる。連れ帰れる人間は…いなかったな。」

女性の死体、助けにきたのであろう男性達の死体ばかりで生存者はいなかった。

遺体の回収は警察に任せる。


ゴブリンから聞き出した話を大まかに朱華に話して洞窟の入り口から出ようと向かっていると若い男の声が聞こえてきた。


「あ~あ、やってくれちゃったね~。いいコマだったのになぁ。留守番はまさかの全滅かよ」


金髪の長い髪をひとつに束ねた軽そうな男、二十代半ばくらいだろうか。

鎧を纏い、腰には長剣を携えている。

口振りから考えてもゴブリンを使っていた人間で間違いない。


「ん?あ!勿体ねーな。女の子もみんな死んでんじゃん!ゴブリンの奴ら荒っぽく使いやがって。チッ!まぁいいや。また街から拐って…お!」


男は奥から運んでおいた殺された女性の遺体を見て文句を垂れた後、朱華の存在に気づくとニヤッと笑った。


「いいのがいるじゃん!しかもまさかのJK!超上玉!うっはー!ラッキー!!」


ウザすぎるノリで喋り続ける男に苛立ち始めたサクトはハァッとタメ息をついて口を開いた。

「で、お前だな?ゴブリンを使っていたのも。洞窟に手を加えたのも。それに女達に薬物を打ってヤったのもな」


「…!!」


薬のことは聞かされていなかった朱華が驚いて遺体に駆け寄って腕を調べた。

腕には注射の痕があった。

女性は皆、薬を打たれてゴブリンや恐らくこの男、タケルにも犯されていた。


「あぁわかる?そうそう。俺の優しさだよ。より気持ちよくヤられて、その後はワケわかんないまま殺られる。身も心も最小限の苦痛で済む。くっ!はははは!!」


悪趣味極まりない発言に朱華の怒りが爆発寸前だ。

それに気づきつつ、サクトはどうすべきか考えた。

こいつは改心などしない。殺したほうが今後の街の平穏を保ち、面倒を減らせていい。

が、基本的に殺処分依頼されていない人間は一応捕獲と決まっている。

「さてどうすべきか…」


すると朱華がサクトの肩をガシッと掴んだ。

その手の力の具合で十分に怒りが伝わった。

だが朱華はらしいというか感情を押し殺すように言った。

「今のあたしが戦えばきっと本当に殺してしまう。だからあんたにお願いするわ。半殺しで!」

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