No.85432198 ブログ より

1日目

「今日はようやく目的地に辿り着いた。

辺境の星なので直行便がなく、ここまでいくつもの乗り換えが必要だった。

船にいる間は眠っているからいいが、乗り換えのたびに起きることを考えると、ずっと起きていたほうが良かったかもしれない。


昔研究者が使っていたという港は、この星に似合わないぐらい大きかった。

ぽつんと1人手続きをする間、大きな水槽にたった一匹だけいる金魚ってこんな気分だろうかと考える。


港を出ると、砂が広がっている。

この星に元からある遺跡を壊さないよう、港は街からかなり遠くに作られているのだという。

ここに一つだけ残っているという案内ロボの指示に従い、車で移動する。

かなり旧式だが、運転に問題はなかった。


しばらく進むと、街が見えてくる。

街と言っても廃墟だ。

ここの住民は、大昔に星を捨てている。


遺跡と言うには新しく、廃墟と言うには立派すぎるその街は、石畳の続く美しい街だった。

大きな広場には噴水のあと。白い壁と木材の織りなす優しい佇まいの建物。その壁のあちこちによくわからない文様があるが、看板か、もしくは魔除けのまじないなのだろう。

この星には魔法があったはずだ。


私は専門家ではないので詳しくないが、条件が合えば魔法が使える星は存在するのだという。

魔法が発達するかどうかは、主に星の成分によるそうだ。

そしてその成分比により魔法はその星独自の進化を辿ることが多く、他の星では使えないことが多いのだという。

この星の人々も、魔法での星の脱出は果たしていない。


この星の植物や動物の採取は禁止されている。人の痕跡を残すのも最小限にしなければならない。あまり触るのも良くないのだろう。

せめて沢山の景色を目に焼き付けようと、色々な路地を歩き回った。


見たことがあるような葉と、見たことのない花が咲き乱れるテラスを見上げた。

一階の窓の向こうには古ぼけた家具が鎮座している。

軒下には、何に使ったのかわからない底のあいた鍋。

小さなまじないの文様が入ったガラス玉のようなもの。

何かを模したエンブレム。

確かに誰かがそこにいた跡。


この日は広場の隅にテントを張り、眠った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る