第10話 chase
「お前、バイクは校則で禁止されてるだろ!」
「それより驚くところあるでしょ!それよりも、俺の跡を追ってそろそろ警察も来る頃やろね。」
クソがと捨て台詞を吐いたがもう遅く、建物に反射した赤色灯が目に入る。パトカーが数台到着し、彼らを包囲した。
「仁君に和希君、本当に助かるよ。礼はいつもの通りね、例の動画も後で」
あざーすと2人は礼をして、去っていく警官を見送った。これで悠斗は初めて一つ仕事を無事終えた、乱闘にならなくて済んだ事にホッとしていた。
「それで、澤村はメンバーなの?」
悠斗は歩道のポールに跨り聞き出した。
「そうだよ、高校入学してから仁さんに誘われてね。俺子供の頃からバイクレースしててさ、それで運転技術を買われたというか。あ、日常でもバイク乗ってることは絶対に言うなよ。」
「言わないけどさ、メンバーにいることに驚いてるんだよ単純に。」
この学校で所属しているのは自分だけだと思い込んでいた悠斗にとっては良い事だった。
「もしかして、学内の生徒で他にもメンバーっている?」
「どうだろ、ミーティングでも見たことないし居ないんじゃないかな?」
学内で新たなメンバーを探し出す事に望みが見えた、麗花も上手く使えばとよからぬ事を思いついていた。
「宮前さんを使うなよ、過激派のファンに襲われるぜ。」
「じゃあ、2人共そろそろ帰ろうか。動きまくったけん疲れたろ?」
荷物をまとめ終えた2人から声が掛かり、澤村はヘルメットを被り直した。
「仁、なんか食って帰ろうや。」
「和希さんの言う通りやね、いつものとこ行こっか。」
各自乗り込み店に向かって澤村が先導となり走り出した。
「悠斗も気合い入っとったね、良いよその構え。」
「このままだと俺らも追い越されるな」
何言いよるんと和希は笑いながらツッコミを飛ばす、仕事が上手く行き2人は上機嫌だ。
「あとは、こいつも使いきるようならなね。」
そう言いながら仁は手元の警棒を指差した。
「俺達は絶対に刃物や銃は使わない、あいつらと違ってさ。」
そう仁は思い出しながら呟いた、あくまでもこれは身を守る為の物だと。
「じゃあ、これの使い方教えてください!今のままだと追いつけるような気がしなくて」
悠斗は車内で叫んだ、1日でも早く目的を達成したい思いからだった。相手に対してビビってばかりじゃ話にならない、いつかはかつての友人とも向かい合う時が来るだろう。
「良い意気込み!上手い奴が1人おるけんそいつに習おうかね。でもまだ慌てんで良かよ。」
「そう、俺らは別に戦うことがメインじゃないしね。今は頭使っていこうぜ。」
悠斗の頭を差しながら言った後、仁は警棒をシート横のケースに入れた。戦いが全てじゃない、それはわかる。しかし現実問題blasting crewは襲ってきた。自分を守るため、周りを守るため、戦う時は覚悟を決めなければならない。
「そろそろ着くね。近くに止めとこか。」
着いたのは悠斗の家の近くに古くからあるボロい中華屋だった、2人は店内入ってすぐ目の席を陣取る。
「とりあえず餃子5人前と焼飯で。」
「吉川が描いてくれた地図間違いなかったな、あいつらのクオリティどんどん上がりよるばい。」
今日の反省会が始まった、上手くいったからかお互いを褒め合っている。
「悠斗、どうだった初めての仕事。」
「怖いですよ、喧嘩にならなかっただけまだ。てかこんな事ここで話して大丈夫なんですか?」
「大丈夫っすよね、おいちゃん!」
「おう、よかよ!もう店閉めたしね、貸切ばい!」
微妙に話が噛み合ってない中華屋のおいちゃんはサービスでコーラを持ってきてくれた、会話には入って来ないがカウンター越しでずっとニコニコしている。
「俺達は協力のし合いよ、同じ地域助け合わんと。」
「そうそう。福岡の人ってさ、みんな人情深いんよ。繋がりが繋がりを呼んで大きな物になる。悠斗もこれから面白くなるよ。」
店に長居し過ぎるのも悪いと3人が残した餃子を和希が全て食べて店を後にする。時計を見ると23時、想像より長い時間が経っていた。
「澤村はもう帰るやろ?俺は仁と悠斗を送って行くけん。」
仁の解散の合図で、澤村は手を振りながらバイクでかっ飛ばして行った。
「じゃあ、今日の2つ目の仕事に参りましょうか。」
「え、まだあるんですか?」
「澤村はもう帰らせんとね、俺らだけでやることやけん。悠斗にもまだ付き合ってもらう。」
えぇ…と悠斗が項垂れていると、和希は昨日の朝刊を見せてくれた。
「これって親不孝通りのクラブで起きた暴行事件、結構な人数がやられたとかでニュースにもなってましたよね。」
「そう、その被害者の内1人を除いて全員メンバーなんよね。」
「mellow&chillinとしても黙っとくわけにはいかないってことよ、それに和希さんの大学の後輩だし。」
「写真も映像も出回っていない、首謀者もわかっていない。」
「クラブにかち込むのも危険だしね、そもそもこの地域がやべえか。今は出来るところから探っていこうっていう算段よ。」
「今日は現場近くの小さい箱に行こうってわけ。関係者も一部おるしね。悠斗、入る時にこれ使い。」
悠斗に渡されたのは偽造された免許証だった。写真もいつの間に撮られていた物かわからない、精巧な作りだった。身分証明書無しではクラブに入ることは出来ない為、和希が前もって準備してくれていた。
「よし行こっかね。」
2人は車内にジャケットを脱ぎ捨て降りた、中央区で行動する時はチームで動くかそうでないかが重要だ。
club fragment、キャパは100人にも満たないような小さな箱。DJが回す曲は10年以上前の曲で学生やにわか者が集まる場所ではない。仁と和希はもはや顔パス、悠斗も身分証は確認されたが無事に入れた。
「お疲れ、DJ himiは来てる?」
DJ himiは事件当日回していたDJ陣の1人だった、事件現場は目撃しているはずだと仁達が目をつけていた。
「そこにいるよ、呼んでこようか?」
和希がこの場に呼び出すよう従業員の1人に依頼する。
「仁さんに和希さんお疲れ様です、えっと彼は。」
DJ himiか奥から走って駆け付けてきた、襲われたメンバーの知り合いで、クラブに紹介したDJらしい。
「うちの新入りだよ。この前の件見てるでしょ、話聞いて良い?」
「ここだとあれなんで1回出ましょうか、俺もう出番終わったんで。」
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