第3話 infiltrate①

「クソ、この時間だと混むからマジで嫌なんだよ。202号線抜けた方が良いやろか、いやどうしようか。平尾通る方のルートが良いよな、どれも引っ掛かりそうやし最悪やん。」


「道ぐらい適当で良いっすよー、全然間に合いますし。」


先輩が助手席でソシャゲをしながら適当な相槌を打つ中、運転しながらずっとぶつぶつ言ってるのは赤髪でストリート系ファッションに身を包んだ和希さん。聞くと地元大学の2年生らしいが、雰囲気と性格は先輩とは逆で、2人の共通点は見出せない。


「集会が始まるのは19時半、そろそろ少しずつメンバーが集まって来てるんじゃない?久しぶりに気分が上がるぜ、ばり楽しみや。」


久しぶりの潜入のようで先輩だけは嬉しそうにしている。今向かっているblasting crewの拠点は板付近辺の倉庫を改造して使っているらしい。学生達とはいえ土地と建物を借りられるだけの資金力はあるようだ。


「今になって怖くなってきたんですけど、何か武器とか持っていきます?」


先輩はガハハと笑いながら悠斗の質問に返す。


「いやいや、あっても人数的に敵いっこないって!何かあったら逃げるだけだよ!やばい時どうするか考えてはいるから、そこらへんは安心しとって!ね、和希さん。」


おう、と和希さんは冷静に。確かに相手の規模からも戦える相手ではない、逃げるのみだ。


途中見事に渋滞に引っ掛かり、19時過ぎに拠点近くのコンビニに着いた。大通り付近の工場や倉庫で働いている人が帰宅の為に少し通るぐらいで静かで人通りは少ない。人目を避けて活動するには丁度良い場所だろう。


「和希さん、頃合いを見て連絡します。寝とっても良いですけど、あまり寝すぎんといてくださいよ!」


「ほいよー、待機しとくわ。3人共気を付けてな。」


疲れからか欠伸をしながら、和希さんは車内で仮眠を取る体制に入っていた。コンビニから4、5分歩くと倉庫街の1画に人が集まっているのが見える。恐らくblasting crewの拠点だろう。先輩は足を止めた。


「よし、2人ともここで一旦ストップ。ちょっとそこの壁に隠れて様子を伺おう、双眼鏡貸すからこれで見てみ。」


覗くと、付近には傘下組織と思われるガラの悪い人達が周囲を警戒して彷徨いている。着ているジャケットは先輩が言っていた通り、一部に鍵爪が描かれていた。倉庫前にはバイクと車が停まっており、バイクのタンクにはblasting crewとレタリングされている。


「とりあえず集会が始まるまではここで待機しとこうか。んー、以前に比べたら警戒レベル上げてるね。まあ、市内の状況考えたら仕方ないけどさ。」


程なくして外に出ているメンバーが倉庫の中に入って行く、時間的に集会が始まるようだ。


「そろそろやね、隣の倉庫のフェンスから見ようか。あそこに登ったら丁度中の様子が見えるんよね。」


フェンスをよじ登るが立て付けがあまり良くないようで、3人も登るとふらふら揺れる。麗花は持ち前のバランス感覚で器用に捕まっていたが、悠斗は今にも落ちそうだ。


「あんたしっかり捕まりなさいよ、落ちても知らんよ?」


「先輩も麗花もおかしいって、危ねえし中もよく見えねえし。」


「そんなことないよね。あっ麗花ちゃん、このカメラ使って中の様子撮っておいて。念の為にさ。」


「はーい。自慢じゃないですけど私撮るのも上手いんですよ!」


2人が準備を進めている中、悠斗は漸く体制を整え、中が見やすいポジションへ移動した。良いタイミングだったようでメンバー全員が整列しており、集会開始の号令が聞こえた。

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