第2話 blasting crew

終礼後、全速力で学校を抜け出した悠斗と麗花は自転車でぶっ飛ばし、大学キャンパス跡地裏にある先輩の家に着いた。とりあえずチャイムを鳴らす。2階の窓から髭面でロン毛の男が少し姿を見せて手を振ってきた、あの独特な雰囲気は変わってないんだなあの人。先輩は満面の笑みで玄関を飛び出して来る。


「久しぶりやん悠斗!2年振りになるんやない?お、麗花ちゃんもいるし、入れよ入れよ。」


中学時代と変わらず誰でもウェルカムといった感じで家に入れてくれた。山城先輩は中学1年の時出会った先輩で、当時は全校生徒の悩み相談窓口的な存在で学校内外問わず知られており、悠斗もその相談した1人だった。それ以降色々と接点が増え仲良くしてもらっている。


「急すぎてびっくりしたよ、2人共元気そうで安心した。」


先輩の部屋に入るとアイスコーヒーとお菓子を用意してくれた。一口飲み喉を潤してから本題を切り出す。


「先輩って、今の市内の裏の勢力というかその、昔からあの類は色々詳しいですよね?」


「まあね、中学時代以上にリアルなものを見ながら調べているしねー。特に今の福岡市は激しいよ、どこも危ない。やけん楽しいんだけどね。」


椅子に跨りゲラゲラ笑いながら話す、先輩も無駄にテンションが高いのは変わらずで安心だ。

先輩自体はその側の人間ではないが、中学時代から裏社会について興味が有りあらゆる事を調べ尽くしている、教師から危ないから辞めろと散々言われてきていた筈だが、まあ素直に聞くわけないだろう。


「有名過ぎて聞くのが引けるんですけど、blasting crewについて詳細に教えて欲しいですよね。」


「あー、blasting crewね。それも一般的に出回ってないようなことが知りたいってことか、おけおけ。」


先輩の部屋の本棚には自分で調べ纏めた書類が整理されている。各地域、各チーム年別毎に分かれており過去5年近くのものまでは保管してあるようだ、先輩はその中からblasting crewについて3、4冊ファイルを取り出して見せながら話をしてくれた。


「blasting crewだけど、博多・東エリアを張ってるのは知っとるよね?区域内の傘下組織だけで50近くはあるらしい、人数までは詳しく知らんけど。あ、あまり知られてない話なんやけど、blasting crewのマークあるやん?鍵爪。あれを傘下組織のマークの一部に使わさせてさ、傘下組織かどうか判別出来るようにさせてるらしいんよね。」


先輩からすれば常識の範囲内なのだろう、ファイルに書いてない事も次々と話が出てくる。書記係の麗花は慌ただしくノートに書きながらも上手く纏めていた。


「blasting crewの正規メンバーってそう簡単になれるんですか?あまりジャケット着てる人博多、東区でもあまり見かけないんすけど。」


「無理無理、簡単にはなれんよ、メンバーに気に入れられて推薦される。そこがスタートラインで所謂プロスペクト(見習い)になれるらしい、しかも最低1年間は正規メンバーに成れないらしいよ。それだけじゃなくて傘下組織だって沢山あるのに成り上がりでメンバーに昇格という話が無いのが凄いよね、徹底してるというかさ。」


つまり恭弥と釆香はプロスペクトの最低1年間を経て正規メンバーとなったというわけだ。今高校1年だから、中学時代からblasting crewのメンバーの誰かしらと接点があることになる。


「あと1つ言っておくと俺達の中学出身者にOBはいねーよ、そもそも区域が違うしな。けどよ、現メンバーに俺達の地元出身者が何故か2人いる。それも…今日知りたかったのはこれやろ?俺もその情報を掴んだ時は驚いたさ、あの真面目ちゃん2人が例のジャケット着てるなんてよ。」


気づかれていた、こんな話を普段するような奴とは思っていないからだろう。それに恭弥と釆香とは昔から仲が良いということは勿論知っている。


「まだまだチームについて知っとることは多いんやけど、詳細に話すと長くなるもんなぁ。あ、今日は水曜日だし、blasting crewが集会を開いているはずっちゃんねー、試しにこっそり見に行かん?」


またこの先輩は無茶なことを言い出したと悠斗は落胆していると。


「それ見つかったらやばいでしょ!やめとこ!悠斗、それだけはやめよ!」


麗花が持っているボールペンを叩きつけながら叫んだ。無理もない、市内トップレベルの悪共が集まる組織の拠点に行くのは命知らずだ。


「今まで何度も色んなチームに潜入してきたし、上手くやりゃ大丈夫だよ。身内にも協力させる。俺に尋ねにきたんやし、2人の事どうしても知りたかろ?」


悠斗と麗花は一呼吸置き、覚悟を決めて頷いた。


「じゃあ決まりと、迎え呼び出すわ。」


時刻は18時を過ぎるところ。場合によってはもう帰れないだろう、親に何て説明付けようか。そんなことを考えながら30分程待っていると先輩の知り合いがバンで迎えに来た。


「じゃ、和希さんblasting crewの拠点まで頼むぜ。」

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