第237話解放された人
クルセルの王城地下にある広大な部屋には、結晶から解放された人達の喧噪で時間が経てば経つほど騒がしくなってきていますが、何故か誰もその場を動こうとせず周囲の人達とどうなってるんだと話し、どうやら現状の確認を優先してるようです。
なんかしっかりとした人達だな…。
普通、部屋の中心にいる自分達に説明を求める為に詰め寄ったり、怒鳴ったりしそうなのに、まずはその場で状況確認って教育がされてるのかな?
地球の人間だったら騒ぎ出したりして収集がつかなくなりそうなのに…。
そう思いつつも様子を伺っていると、見る限り高価な服を着ている若い男性が自分の元に歩み寄り、声をかけてきます。
男性はフォルク=ダイアンと名乗った後、質問をしてきます。
「すまない、君は誰で、我々は何故ここに居るんだ? 何がどうなっているのか状況を説明して貰いたい」
どうやらこのフォルク=ダイアンって男性はどうやら内政を担当していた子爵の位を持つ貴族のようで、同僚と会議をしていたはずなのに、気が付いたらこの場に居たとの事です。
「そうですね、どこから話せばいいのか分かりませんが、皆さんの国、クルセルですよね? 結論から言うと1000年以上前に滅びました」
「滅びた? クルセルが? 何故だ!! それに1000年以上前とはどういう事だ!」
自分の言葉に食って掛かるフォルクを落ち着かせ、説明を続けると落ち着きを取り戻しつつあったフォルクが混乱したような顔をし、考え込んでしまいます。
まあ普通そうだよね。
仕事してたと思ったら急に知らない場所に居て1000以上時間が経っているうえに国は滅びたとか言われたら誰でも混乱するよね。
うん、仕事終わりにいきなり異世界に転移させられたからその気持ち結構わかる…。
「と言う訳で、クルセルは滅んでるし、周辺の村も町もみんな滅びて人はほぼ居ない、王都は結界で時間が止まった状態で維持されては居たけどそれ以外の場所は木々に覆われて魔物が跋扈する場所になってますよ、そして皆さんは大地に魔力を流し続ける為に結晶に閉じ込められていたようです、目的は分かりませんが、閉じ込めたのは恐らくネレースでしょうね」
説明を聞き終えたフォルクは頭を抱えていますが、まずは現状説明と思ったのかざわつく人達を静め大声で現状説明を始め、説明が終わると、貴族や王族、騎士や兵士は居ないか問いかけをし始めます。
どうやら貴族も王族も居ないようで、騎士や兵士が大体600人程名乗り出ましたがそれ以外は普通の市民だったようでその場でフォルクの指示を待っている感じです。
「マサト殿と言ったか、貴方は創造神ネレース様よりこの地を与えられ管理を任されたとの事、ならばここに居るクルセルの住民は貴方の国の臣民という事になりますのでお声をおかけ頂き今後の方針をお聞かせください」
そう言い片膝をついて頭を下げるフォルクですが、なんか物分かりよくない?
いくら混乱してるとはいえ普通そんな簡単に人を信じないよ?
これも国民性なのか? だとしたら詐欺とかに引っ掛かりやすそうな国民性だな…。
さて、どうしたものか、もっと混乱して収拾がつかない事を予測してたけどこんなにあっさりと混乱が収まるとは…。
とは言えこの場で待機とは言えないし、まずは転移魔法のゲートで地上に移動させて住んでた家に戻って貰いたいけど、食料とか腐りそうな物や金物はゴブリン達に回収させたから炊事すらままならないんだよね。
そう思いながらもフォルクに一旦地上に移動をし、その後、戸籍を作成しその後、生活必需品や食料を取り自宅の戻るように指示を出します。
とは言え食事を作れない人や親が居ない子供も居る為、数日の間は炊き出しをおこない、施設を作るなりしそんな人達でも生活を営める様にと伝えておきます。
「恐れながらマサト殿、いえマサト様、生活必需品と食料を配布はよろしいとして職は如何いたしますか? マサト様のおっしゃる通りなら王と周辺の田畑は荒廃し農民は作物を育てられず、商人も売る物がないと思われますが…」
「そうだね、農民も商人もそれに職人も仕事が無いよね。 とは言え急に元の生活をと言っても人口も減っているし、暫くは食料の配給と言う形で生活してもらって、徐々に仕事を割り振っていこうと思ってる」
そうフォルクに方針を伝え、ゲートを開きクルセルの住民を地上に移動させます。
恐らく何も変わっていない街並みを見て何も変わっていないと思う人達ですが王都は閑散とし人の気配が全くない事でどうやら1000年以上も眠っていたと実感し始めている様子です。
ロゼフの指示のもとアイテムバッグからゴブリン達が回収した包丁や鍋、そしてコンロのような魔道具を並べ、また別のゴブリンは食料を用意し各自生活に必要な物を持って家路につきます。
家族全員が結晶に閉じ込められていた場合は良いけど、親兄弟が居なくなり自分一人だけ生き残った子供などは現実を受け止めきれず人の列を眺め家族を探しています。
こんな中途半端な人数を生かすならいっそクルセルの住民全員が消滅してたら無駄な悲しみも無いだろうに。
なんせ気が付いたら1000年以上経っていて家族や恋人が家に帰っても居ないから、恐らく帰った後急に悲しみがやって来るだろうな。
自殺者とかでなければいいんだけど。
そう思いながらも戸籍の作成と生活用品と食料の受け渡しをする列を眺めていますが恐らく10万人近くいるので早々に終わる感じがしません。
うん、ゴブリンが悪いんだな! ゴブリンが戸籍の作成から生活用品と食料の受け渡しをしてるからみんな若干怯えた感じだもん。
フォルクに言って騎士や兵士にやらせよう、そしてついでにフォルクを住民のまとめ役に任命しよう!!
ロゼフを相談役に付ければ大丈夫だろうし、我ながらいい考えだ。
そうと決まればフォルクを呼んでまとめ役に任命し騎士と兵士に戸籍作成と配布、一人で配布物を運べない人には兵士が手伝うように指示をしておきます。
日が沈むまでには終わるだろうけど、その後が大変だな…。
フォルクだけじゃなくて使えそうな人間を確保し住民の生活を何とかする事と並行して住民が減って閑散としてるとはいえ国としての体制を整えないと。
住民が居ないから移民をとか言ってたけど、急に10万人近くが増えると反対に困るんだよね。
農民の為に王都周辺の開墾と魔物討伐もしないといけないし、商人達が商売を出来るよう経済を回さないといけないし。
うん、中途半端からのスタートは一番困る!
この分だと、明日から激務になりそうだな、ロゼフとフォルクが…。
異世界の過労死は労災降りないからね。
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