第211話朽ちていない遺跡
夕方になってやっと到着した遺跡を前に絶句しているのも当然で、目の前に広がる遺跡は、遺跡と言うよりもどこかの国の王都と言ってもいいほど高い城壁に囲まれています。
「とりあえず、今晩はここで野営して、明日は城門を見つけて正面から中に入ろう」
そう言ってアルチ達やカウア達に護衛を任せ野営用の家で休みを取りますが、それにしても疑問だ、他の町と思われる遺跡は朽ち果てていたのにこの遺跡は無傷と言っていいほど状態が良い。
いやむしろ今でも使われているかのような感じだ。
290日目
昨晩のうちにアルチが正門を探してきてくれたようで、ここから1時間ほど走った所に城門が見えてきます。
「マサト様、一応調べはしましたが、門は閉まっており、門を通過するのは難しいかと」
アルチがそう伝えてきますが、そこは最近自分ではあまり使わない影魔法の出番です。
無人の城門前で影に潜ると、城門の向こう側に影を伝って移動します。
うん、影があれば自分を中心に100メートルぐらいは移動できるんだよね。
そんな事を思いながら、門の内側の景色を見ると、またも絶句します。
な、なんだ…。 人だけが消えた町?
そう形容するしかない光景が目の前に広がりますが、大通りには露店が並び、商品も朽ちることなくそのままの状態で並べられています。
これは時間が止まっているのか?
でも人は?
そう思いながら、一件の店の中に入りますが、そこには人の気配も無く、かといって数百年以上も放置されていたとは思えないほど綺麗で商品に埃1つついていない状態です。
「マサト様、これはどういう事でしょうか?」
周辺を警戒しているカウアが声をかけてきますが、答えなどある訳なく、呆然とすることしか出来ません。
「とりあえず、王宮に向かおう、町がなんでこの状態なのか何かわかるかもしれないから」
そう言って大通りを歩き王宮へ向かいますが、全く人の気配のない町を歩いていると自分以外の人間が居なくなった世界に迷い込んだような錯覚が起こります。
王宮に到着するとそこには今まで見て来た王宮の数倍はあるだろう巨大な建築物がありますが、やはりここにも人の気配は無く、門も固く閉じたままです。
やっぱりここにも人は居ないか、魔物も居ないし、何か結界みたいな物でも張られているのか?
まあとりあえず影魔法で門をくぐり王宮内部に足を踏み入れるとそこには整然と整えられた道、そして道の左右には花壇があり花が咲き誇っています。
「う~ん、これは広いし調べるの時間かかりそうだな…。 とりあえず二ホン砦にゲートを開き、ゴブリンを動員して王宮の調査をさせるか」
そう独り言を呟いて、転移魔法でゲートを開き二ホン砦に居るロゼフを指揮官にゴブリン1000匹ほどを呼び寄せます。
「マサト様、これが遺跡でございますか?」
王宮の中を見回したロゼフが驚いたような声を上げますが、事情を説明すると、何か考え込む様なしぐさをしましたが、答えを導き出せなかったようですぐに、調査の指示を出していきます。
ゴブリンの調査隊は20匹を一組で合計50組作り王宮の調査に向かわせます。
自分達もロゼフを伴い王宮へ足を踏み入れますが、手入れの行き届いた王宮内部、そして誰かの執務室だたのでしょう、机には書類が並べられ先程までここで誰かが仕事をしていたかのような感じです。
「どうやらこの部屋は財務関係者の執務室のようですな…」
書類を見ながらロゼフが口を開きます。
「財務関係ね…。 それで見た限り財務状況はどんな感じか分かる?」
「いえ、書類を数枚見ただけではそこまでは分かりませんが、お調べになりますか?」
そういうロゼフに調べなくていいと伝え、別の部屋を捜索します。
暫く探索を続けていると、謁見の間と思われる場所につきましたので、中に入ると、そこは豪華な調度品が
飾られ、日光をうまく取り込み王座に光が集中し、座る者を神々しく見せる演出がなされていると思われる見事な謁見の間です。
とは言えここにも人の気配は無く、無人で静まり返っています。
「とりあえず、正門前に戻って捜索に行ったゴブリン達の報告を待とうか」
そう言って正門前に戻り、野営用の家を出し、報告を待っていると、ポツポツとゴブリンの捜索隊が報告に戻ってきます。
宝物庫の発見、食料庫の発見、武器庫の発見、書庫の発見、何かの実験室の発見など、報告が次々にもたらされ、ロゼフが報告を元に王宮内の地図を作製していきます。
宝物庫を見てみましたが、恐らく300メートル四方はあろう部屋に整然と宝物が並べられており、相当量の宝物が収蔵されている感じです。
う~ん、これ全部でどの位の価値になるんだろう?
ここから日本にゲート繋いで鈴木さんに宝物を見せつけたら何ていうかな…。
どれも地球でオークションにでもかけたら一つ数億円とかになりそうなもののような気がするけど。
そんな事を思いながら、補助魔道具をだして日本へゲートを繋ぎます。
「鈴木さん~ん! 滅多にお目にできない宝物庫からのご報告ですよ~」
そう言ってゲートから声をかけると、何か作業をしていた鈴木さんが手を止めてこちらにやってきます。
「武内さん、今度は何をやったんですか? 宝物庫って、どこの国の宝物庫に忍び込んでるんですか!!」
そう言って、明らかに自分が何かまたやらかした感満載で質問をして来る鈴木さんに、遺跡調査で発見した宝物庫だと伝えると、一瞬驚いたような顔をした後、ゲート越しに宝物庫の中を眺めます。
「武内さんこれはどのぐらいの量があるんですか?」
「さぁ~? 相当広いんでまだ全部見て周れてないんですが、相当量あると思いますよ?」
そう言うと鈴木さんは大きくため息をついています。
「何か欲しいのありました? 今なら好きな物差し上げますよ?」
「まあ欲しいのはやまやまですが、立場上受け取る事は出来ませんのでご遠慮させて頂きます」
そう言って少し怒ったような感じの鈴木さんですが、今いる遺跡が数百年前に滅んだ国の王都だと伝え、遺跡の状況を伝えると、表情が変わり、何かを考えだします。
「武内さん、その遺跡は徹底的に調べてください、普通は数百年も放置されたら朽ちてしまうのが普通ですが、そうでないのには何かしら原因があると思います」
そう言って真剣な表情の鈴木さんですが、元から徹底的に調査するつもりなので了承の旨を伝えゲートを閉じます。
それにしても鈴木さんは真面目だね…。
宝物、どれか一つでも貰っておけばいいのに。
売れば老後の生活に役立つだろうに…。
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