第200話月山部長の懸念

275日目


朝、ゴブリン軍団が戦場予定地への移動を始めだしたところに、イルチが報告に戻ってきました。

イルチの報告では、現在砦に集結しているソパニチア王国兵は約5万程でまだ数が増え、敵陣に忍び込んだハンゾウの探り出した情報では予定では総勢6万5千を予定しているとの事です。


報告をもたらしたイルチを労わった後、明日以降の報告はキャールでは無く、戦場予定地の本陣に報告に来てもらうように伝言を頼みます。


ゴブリン軍団の移動が終わったら、戦場予定地を直に見ますが、絵に描いたように自分達に都合の良さそうな地形ですが、若干平野部が狭く、大軍を引き込むには若干手狭な感じがします。


ゾルスとカウア達に本陣構築と柵の設置と並行して左右の木を伐採して平野部を広げるように指示を出します。


本陣を頂点にに川に向かって底辺が広がる三角形のような平野部を台形になる様に広げる感じです。

後は月山部長が指示を出す高台ですが、丁度良い高台がない為、本陣後方の高台に5~6メートル程の櫓を建設してそこから戦場を見渡し指示を出して貰うことにします。

月山部長、高所恐怖症とか言ってなかったから、7~8メートルぐらいの櫓にしよう。

高所から戦場見渡せた方が良いもんね。


ゾルス達に指示を出した後、キャールに戻り土田達に、ソパニチア王国兵の参集状況を伝えますが、話を聞くと、昨日の勢いは何処に消えたのか一同が沈痛な面持ちになります。


「いや、4~5万が6万5千になっただけじゃん、守りを固めてる自分達からしたら1万5千増えたって大したことないし」

「いや、そんな事言うのお前だけだから! 俺やお前なら無双すればいいけど、兵たちはそうもいかないんだぞ!」


「知ってる、だから自分と土田が無双をするのを前提に作戦を組んでるぞ」

「いや、聞いてないよそれ、何処で無双するの?」


「前線!! 自分と土田は一定の距離まで下がったらそこから下がらず作戦が発動するまでその場で無双だぞ」

「それって命の保証はあるのか?」


「切られたり刺されたりしなければ死なないから安心しろ」


そう言うと土田は何言ってんだこいつという顔で呆れています。

まあね、言ってなかったもんね。

まさか土田も前線で無双しろって言われるとは思ってなかっただろうな。


その後も作戦の詳細を打ち合わせし、午後からは休養に充て明日の出発に備えます。

うん、土田が死んだような顔してる…。


前線で人を殺すのが嫌なのか、無双をして無事で帰還できるか心配なのか…。

まあ死なない程度に頑張ってもらおう。


276日目


朝、予定通り、バイルエ王国兵とドグレニム領兵を戦場予定地へ転移魔法のゲートで移動をさせます。

両軍の兵士はゲートを使って移動するのにも慣れたようで、滞りなく移動が完了しましたが、ゴブリン軍団が昨日から川辺に構築した柵などを見て、大軍相手でもこれならやれる! といった表情になっています。


移動後、各隊の配置確認を行い、簡単な戦闘の流れを各隊で訓練などを行い、ソパニチア王国軍に動きがあるまでは順次訓練をしながら待機となります。


とは言え各指揮官クラスは不足の事態に備え予定通りに行かなかった際の作戦の打ち合わせなどを行います。

プレモーネから来てもらった月山部長も参加していますが、さっそく月山部長が疑問を口にします。


「この作戦は良いとして、敵が攻略し拠点にしている砦から旧首都キャールに向かう道は途中までは1本道だが途中で2つに分岐しキャールに繋がっているが、その一方の道にこのように陣を構えていたらもう一本の道を通ってキャールに向かうのではないか?」


そう言う疑問の言葉に指揮官クラスの人の中から一人が歩み出ては地図指しながら説明をします。


「確かにその通りではありますが、もう一方の道は森林を大きく迂回するルートになっておりますので、森林を通る道を進むより3日~4日時間がかかります。大軍を動かすのですから時間のかかる道を通るより、最短ルートでキャールに向かう道を通る可能性が高いと思われます」


そんな説明に月山部長は納得してない表情で指摘を続けます。

「それなら、道が分岐する場所で軍を2つに分けて侵攻するだろう。 わざわざ全軍で敵が待ち構えている場所を通る必要も無いんだ、敵と戦う部隊、キャールを占領する部隊に分ければ効率的だ、その場合の対策はしているのか?」

「い、いえ、その際の対策は立てておりません」


そういう言葉を聞いて月山部長が自分と土田の方を見て大きくため息をつきます。


「武内君、土田君、これじゃ場合によっては敵と戦っている間にキャールが陥落し、その後キャールを落とした敵に挟撃されるんじゃないのか? 敵を殲滅させる為の作戦を立てるのは良いがもっと全体に目を向けないと痛い目を見るどころでは済まなくなるぞ」


そう言って月山部長は、偵察の提案とソパニチア王国が軍を2つに分けた際の対応策を検討するように提案をします。

確かに、自分なら最短距離でと言う前提で作戦を立ててたけど、確かに月山部長の言う通り敵がわざわざこちらの思い通りに動いてくれるとは限らないし、色んなパターンを予測して作戦を立ててなかったから言い返す言葉も無いな…。


そう思いながらも、偵察部隊を編成しようかと思っていたところにサンダーウルフのウルチが報告に来たので、報告を聞いた後、ソパニチア王国軍を監視中のサンダーウルフ達のうち20匹を一旦こちらに戻ってきてもらい、再度偵察の指示を与える事にします。


因みにウルチが持ってきた報告は昨晩、ソパニチア王国軍約6万5千人がほぼ終結を終わらせ、また昨日辺りから100人程の部隊を数十隊偵察の為か四方に放ったとの事でした。

恐らく、内部を偵察してるハンゾウからの情報を得たサンダーウルフが今晩か明日の朝辺りに進軍開始日を伝えて来るでしょう。


それにしても偵察部隊を相当数放ったという事は、こちらの情報もある程度把握されるという事を意味しているので、偵察部隊を攻撃し敵の目を潰そうかと思いましたが、それが元で敵が慎重になってしまうのも困るので、一応は放置する事にします。


「武内君、敵の大将になったつもりで考えてみたんだが、私が指揮官なら、偵察でここに敵が待ち構えているとわかればほぼ同数の2万をこちらに進軍させ対峙させておいて、残りの4万5千でもう一方の道を進むな、その上でキャール攻略に2万、残りの2万5千は背後から進軍させ挟撃するな。 これは素人目に見ても妥当な作戦だ。 わざわざ満を持して布陣して待ち受けてる敵をまともに相手にする義理は無いからな」


そう言って月山部長は地図の上の駒を動かして各指揮官にもわかる様にシュミレーションをして見せます。


「では、月山部長的にはどのような作戦が良いと思いますか?」


月山部長の戦術を聞いてみたいと思った自分の興味から出た言葉ですが、月山部長は暫く考え込んでから意外な言葉を口にします。


「キャールに籠城だな、とは言え全軍で籠城では無く、敵の兵站を寸断する為の部隊を用意したうえで残りで籠城して持久戦に持ち込むのが良いだろう。 6万5千人分の食料を確保するのは容易ではないはずだから持久戦になり兵站を脅かされれば敵も引かざる得ないだろ」

「持久戦ですか、確かに一理ありますが、その場合、近隣の村や町は食料不足に陥ったソパニチア王国軍の略奪、場合によっては虐殺などの可能性もありますが」


「確かにその通りだな、なので村々には避難勧告を出して避難をさせておくしかないだろう」

「確かに、避難させるのは一つの手ですが、避難するにしても避難先がそうそうありませんからね…」


そう言う自分に月山部長も言うのは簡単だけど、実際に避難をさせるとなると避難先などと問題がある事に納得したのか考え込んでしまいます。


「とりあえず、今日は布陣したばかりですし、敵の情報もまだ集結が完了して偵察を出したと言うだけしかありませんから、今日の所はお開きにして、情報が入り次第再度検討しましょう。 明日の昼ぐらいには帰還を指示したサンダーウルフ達も戻ってきますし、そのころにはもう少し情報も入っているでしょうから」


そう言って軍議をお開きにして各自自陣に戻ります。


月山部長が参戦してくれてよかったな、最近、思い通りに推移する戦いが殆どだったから、自分の思い通りに敵が動くって錯覚してた…。


今晩のうちにラルと一緒に戦場予定地になりそうな場所に行って転移魔法でゲートが開けるようにしておこう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る