第194話帰還の第一陣
272日目
昨日はネレースに呼び出され、矛盾や疑問が浮き彫りになったので、色々と考え想定されるネレースの狙いを予測しましたが、いくら考えても結論に至りませんでした。
とは言え、その件ばかりを悩んでいても仕方ないので、今日は日本人4人をゲートで帰還させることを先にしてしまうことにします。
内閣府の鈴木さんがあらかじめ転移魔法のゲートの目印になる魔道具を隔離…、というか検疫施設に移動をさせれくれているので、ゲートをくぐればそこは日本の検疫施設のはずです。
今回日本に戻る4人も最低でも1ヵ月は検疫の為施設で隔離されて、ウイルスや病原体、また魔法など、科学で解明できない事に関しての調査などがあある旨を了承しているのでさしてトラブルも無いでしょう。
月山部長を通して日本のマスコミによる過熱報道などを少し大袈裟に吹き込んでいるので、普通に日本に戻るとどんな事態が待ち受けているか想像したのでしょう。
とは言え日本政府もアメを用意し、1日当たり1万円を支払う事と、検疫終了後、マスコミ等からの保護と帰還者一律で見舞金100万円の支払いを提示していますので、帰還者にとってはマスコミなどから守ってもらえ、かつ毎日日当が出ると言う好条件なので、ほぼ政府の提示した条件を快諾した感じです。
とはいえ家族に会いたい等の希望もある為、アクリル板越しではありますが、折を見て秘密裏に家族との面会等も検討しているようです。
まあ異世界からの帰還者が居るという情報がマスコミなどに漏れたら恐らく、面会した家族かその周辺からになるでしょうから、その辺は自己責任と言う感じでしょうね。
帰還者の4人もその辺は理解していたようで、面会はしたいけど、情報が漏れるのは困ると言った感じで悩んでいました。
「鈴木さん、そろそろ移動を開始していいですか?」
そう言ってゲートから覗き込むと、なにやら完全防備で防護服を纏った鈴木さん?らしき人が手で頭の上に大きな丸を作ります。
うん、OKって事なんだろうけど、ていうか防護服ってやり過ぎじゃない?
一応、検疫とかって建前はあるけどさ、実際魔物の死骸とか持ち込んでるし、そこまでしなくても…。
そう思いながらも、帰還者を促し、一人づつゲートをくぐってもらいます。
日本側についた帰還者は、職員に促され別室に案内されていきます。
まあ今回の4人は一応自分達の立場と置かれている現状を理解している人だから問題なさそうだけど、今後帰還者の人数が増えれば確実にトラブルになるだろうな。
そう思いながら、防護服を着た鈴木さん?に手を振ってゲートを閉じます。
「武内君、日本政府はあそこまで検疫に力を入れているのか? 流石に私もあんな格好で迎えられるとは思ってなかったんだが…」
そう月山部長が驚いたように呟きますが、見送りの日本人も居るので、この場では、再度、異世界特有の病原菌やウイルスなどによりパンデミックが起きた際に転移者が帰還できなくなる恐れがある旨を強調して伝えます。
「確かにそうだな、万が一パンデミックでも起きようものなら、帰還者に対する世間の反応は犯罪者を見るような目で見られるだろうし、最悪迫害対象にもなりかねんからな」
「そういう事です、しばらくの間、帰還者は完全防備の職員さんに血液や粘膜など色々と検査されるでしょうね。 まあこれも帰還した人がトラブルも無く元の生活に戻れるようにする為の処置です」
そう言うと月山部長をはじめ見送りの人達も納得したのか、それぞれ宿舎や職場に戻っていきます。
残った月山部長と相談所に戻り、再度雑談をしますが、やはり月山部長の興味は帰還者の事のようで、色々と質問が飛んできます。
「それで、武内君としては、異世界から帰還した人が居ると政府が発表するのはいつぐらいになると思っているんだ?」
「そうですね、恐らく発表するのは面会を開始したあたりだと思います。 面会した人から情報がすぐに洩れるでしょうし、発表するならそのタイミングでしょうね」
「面会開始のタイミングか、だがそうなると帰還者の身元などすぐにバレてしまうのではないか?」
「そうですね、だからこその発表だと思います。 まあ一応本人達には匿名でと承諾は取ったうえででしょうけど、政府発表でマスコミなどが騒げば、面会者も下手に周りに言いふらせないでしょうし、今後帰還した人達が勝手をしない為の布石にもなりますし」
「そういう事か、それなら納得だな、とは言えその言い方だと早くに帰還した人間は生贄みたいなもんだな」
「まあそうなりますね、ただ大人しくしていれば害はあまり無いですし、下手に目立とうとしたらマスコミの餌食になってしまうでしょうけど、それは自業自得という事で」
「自業自得か、だがその目立ちたがり屋が、ある事ない事をマスコミに言って他の帰還者に迷惑をかけたりなどしないかが心配だな」
「それについては、帰還の発表と一緒に自分の存在や月山部長の存在とか名前を伏せて公表し、異世界でどのようにして生き延びていたか、生活していたかを発表する予定だそうです」
「そうか、個人的にはあまり嬉しくない発表だが、政府としては異世界で日本人を纏めて、生活を守り、帰還に尽力した英雄が必要という事か」
「鈴木さんいわく、そういう事だそうです、あとは自分達に不満を持っている人間が何か言った場合、何もせずに、ただ騒いでいただけと反論する為の布石だそうです」
そう言うと月山部長も政治や世論誘導などは専門外だと言わんばかりに天井を見上げます。
「それで武内君、私はいつ頃、日本に戻れそうなんだ?」
「そうですね、あと20センチゲートが広がればほとんどの人が通れると思いますが、月山部長の場合、後続で戻った方が良いでしょうね」
「そうだろうな、所で手紙なんかは送れないのか? 手紙を送ればまだ帰還できない人たちも少しは気が楽になると思うんだが」
「そうですね、その辺は鈴木さんに提案してみます。 恐らく住所がわかれば届けるのは可能でしょうから、ただ手紙を受け取った人がマスコミに連絡したりSNSにアップしたりすることが考えられるので、手紙を送るのも政府の発表後でしょうね。 まあ今から準備をしておいても問題は無いと思います」
そう言ってその後も雑談をしていると、影からカウアが通信魔道具を持って現れます。
「マサト様、土田殿から連絡…。 なんか緊急らしい」
そう言うカウアから魔道具を受け取り返事をします。
「武内、一大事だ、とりあえずキャールの大聖堂に来てくれ!!」
そう言って通信魔道具の通話が切れましたが、なんか慌てている様子でした。
また、一難去ってまた一難の予感しかしない。
ていうか明らかに何か変な力働いていない?
ネレースが犯人じゃないの?
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