第193話深まる謎
271日目
月山部長の所に行き、帰還希望者の状況を聞きますが、予想通りと言った感じでプレモーネに居る日本人のほぼ全員が帰還希望との事です。
とは言え月山部長から一応日本の現状を伝えられ、今日本に戻ったらマスコミなどの格好の餌食になると分かっているのでしょう。
帰れるなら今すぐにと言う人は意外と少なく、更にその中から50センチ四方のゲートをくぐれる体格と言う条件が付くと、4人程しか今すぐに帰れないようです。
「武内君、条件に合って今すぐ帰りたいという人間は良識もあるし、日本に戻っても変な事にはならないとは思うが、日本政府の受け入れの方はどうなんだ?」
「それについては鈴木さんに明日、第一陣を帰還させると伝えてあります。 とは言え最低でもひと月は隔離されますのでその事は十分に理解し了承をしてもらったうえでという事になりますが」
「最低でひと月隔離か…。 納得してくれるか心配だな」
「それに関しては、異世界から伝染病や未知のウイルスを持ち込んでないかの検疫の為と言うしかないですね、まあ実際、検疫をせずに元の生活に戻して万が一伝染病や未知のウイルスを持ち込んでいたら帰還者が一転して犯罪者扱いになりますから、その辺を言い含めれば納得するでしょう」
「まあ確かに、異世界から帰還した人間が病原菌を持ち込んだなんてなったら帰還者に対してマスコミどころか世論自体も敵に回るだろうからな」
「まあそういう事です。 なので、明日の10時頃に第一陣の帰還をするとして、予定者の4人にはよく言い含めておいて貰いたいんですよ」
「では私の方から話しておこう、それで武内君の事に関しては口止めとかしなくていいのか?」
「口止めですか? まあ口止めしないといけないような事はしてませんし、マスコミやその他の人にゲートを扱えるのが武内と言う人間だという事を話さないようにして貰う事ですかね」
「そうか、ではその辺だけはしっかりと伝えておこう。 まあ武内君が転移してから生活から仕事まで面倒を見ていたから悪意はないだろうから名前以外は口止めしないでおこう」
「そうですね、下手に口止めしたほうが後で面倒事になりそうですし」
「まあ最悪、自分の名前が広まって面倒事になっても、日本で生活しなければ問題ないんですけど」
「それはそういう事だ? 武内君は日本に帰りたくないのか?」
「う~ん、正直最初の頃は日本に居た時の方が物や食べ物に困る事も無かったですから帰りたいと思いましたけど、今はどうかと言うと微妙ですね、異世界に居ればチートで金持ち、日本に帰ればただの人、そう考えると異世界に居た方が悠々自適に過ごせますし」
「そうは言うが、日本にはご家族だっているだろう? やはり心配されているんじゃないか?」
「まあそうかもしれませんが、姉が実家の近くに住んでますし、まあ自分の場合、ゲートでいつでも顔見に行けますからね」
そう言って笑いながら雑談を交わした後、相談所を後にして領主館に向かい、グランバルさんに帰還の話をした後、自宅に戻ります。
それにしてもグランバルさん、帰還するって話をした瞬間、一瞬焦った表情してたけど、自分以外の日本人だと聞いた瞬間に、ならいいやって顔してたな。
まあそれだけ重要視されてるって事にしておこう。
自分を含めて日本人が全員帰還したら、今稼働している工場や交易所もグランバルさんの物になって自分が得ている莫大な利益がドグレニム領にもたらされるのに。
そう思いながら、ソファーに腰掛けくつろぎながらお茶を口に運んだ後、カップをテーブルに置いた瞬間、目の前が真っ白になります。
「あなた、何勝手に私の世界から元の世界に人間を帰そうとしてるの?」
白い光が晴れるなり、いきなり声が聞こえて来ますが、どうやらネレースが自分を呼び出したようで、毎回ネレースと会話をする白い部屋で椅子に腰かけ足を組んだネレースがこちらを見ています。
「えっ? なんかまずいの? だってネレースは何かをするなとか言ってないし、何か問題でもありの?」
そう言う自分にネレースは表情を変えず話しを続けます。
「ないわ…。 むしろよく元の世界に帰る方法を見つけたと驚いてる程よ、まあ亜空間の原理なんか聞いて来たり、地球とこのウェースとの位置関係なんか聞いて来た時に気付いておくべきだったと言ったとこかしら、あなた純粋な疑問として質問してきたから、心を読んでも狙いに気付けなかった私のミスだし」
「そう、じゃあいいじゃん、帰りたい人帰したって問題ないんでしょ? とは言え全員は居場所が把握できていないから、日本に帰せる人数も限られてるし」
「そうね、精々頑張っても1万人ってとこでしょうし、それに人数は多くてもロクに知識や技術も広まってないしね」
「ふ~ん、そんなに技術や知識を広めたかったんだ、それなら昔滅んだ国を亡ばないように導けばよかったのに」
「ふん、私が直接手を下すのはつまらないでしょ、だから進んだ文明を持った日本人を転移させたのよ」
「直接手を下すのはつまらないね…。 じゃあ何で魔法実験によって滅んだ国の人間に神託を与えたの? 神託を与えなければ魔法実験が過激化せず滅びなかったんじゃない?」
「そう、フフフ…。 あなた私が力を与えたとはいえそこまで調べられたわね。 やっぱり30000人も私の世界に呼んだ甲斐があったわ」
「それは光栄なお言葉で、ただ調べるとネレースが言ってる事には幾つかおかしい所があるんだよね」
「そうかしら? 何がおかしいの?」
「そうだね、神託に魔法実験もそうだけど、そもそも自分達の居るヌスターロス大陸に日本人3万人も居ないでしょ? そこそこ国を回ったからわかるんだけど、どう考えても3万人も居ないんだよね。 それにさっき精々頑張っても1万人って言ってたし、実際ヌスターロス大陸に居る日本人は1万人前後、その他は別の場所に居る、違う?」
「フフフ…。 アハハハハ…。 やっぱり貴方は面白いわ。 じゃあ貴方のいう事が正しいかどうか自分で調べてみればいいじゃない?」
「自分で調べろね~、それって他の大陸にも行けとでも言うの?」
「さあね、それは自分で考えればいいじゃない。 私が答える義務は無いわ、自分で調べて答えを見つけなさい、じゃないと面白くないじゃない」
そう言ってネレースは楽しそうに、そして新しいオモチャを与えられた子供のような顔をしています。
やれやれ…これ以上何か聞いても答えないだろうな。
「あらぁ、分かってるじゃない、これ以上あなたに与えてあげる情報は無いわよ」
「だろうね、知識や技術を広める為と言いながら混沌を生み出して神託を与えて繁栄を極めた国を亡ぼすとか、疑問だらけだけど、本心は絶対に口を割らないだろうし」
「まあそういう事、しゃあもう私の用は済んだからじゃあね」
ネレースがそう言うと目の前が真っ白になり、次の瞬間にはソファーに座っていました。
まったく、急に呼び出してクレームでも言うのかと思ったら、そうでも無いし、それどころか疑問ばかりを投げかけていきやがった。
まったく、この分だと遺跡の探索をしてもうちょっと滅んだ国の事を調べないと。
ほんとネレースは何がしたいんだか…。
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